天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

大図書室整理作戦!!

リアクション公開中!

大図書室整理作戦!!

リアクション

「……あれ、ソーマ?」
 乱雑に収められていた本を綺麗に並べ替え、一息ついたところで清泉 北都(いずみ・ほくと)はパートナーの姿が無いことに気付いた。銀髪赤眼の吸血鬼、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は驚くべき迷子スキルの持ち主だ。しかも迷宮化した図書室は、前後左右の感覚が麻痺しそうなくらい単調な光景が広がっている。
「もぅ……しかたないなぁ」
 精神を集中した北都の頭に、動物の耳がぴょこんと生える。眼を閉じると、鋭くなった嗅覚が、ソーマの持つ薔薇の匂いを探し当てた。かなり薄くなっているということは、そうとう遠くに行ったのだろう。
「おやつ抜きにしちゃおうかな」
 一言つぶやいて、北都は歩きだす。
 匂いを辿って、五分ほど歩いた頃だろうか。
「もし、そこな執事殿」
 唐突に声をかけられ、北都は振り返った。
 ……誰もいない。
「貴公だ、貴公。我が輩はここであるぞ」
「……??」
「視線を下に……そうそう、もう少し右じゃよ」
声に沿って視線を向けた先に居たのは、一匹の白い鳩。片眼鏡をかけて執事服に身を包んだ鳩が、北都を見上げていた。
「我が輩はアガレス・アンドレアルフスと申す者。見ての通り、鳩であるゆえ、貴公に少し手伝って貰いたい」
そう言ってアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)は頭を下げた。鳩の仕草であるのに丁寧な物腰と感じるのは、彼の人(?)格ゆえだろうか。
「うん、いいよ。でも人を捜しているから、そう長くは付き合えないかも」
「おぉ、かたじけない。そう長くはかからぬ。実は我が輩の友人が、本と間違えて日記を本棚に返してしまったそうでな。蔵書整理のボランティアがてら、探しているという訳なのだ」
「それは大変だねぇ。その日記って、どこにあるか知っているの?」
「ふむ……それがな……」
アガレスがそこまで言いかけた時、通路から二人の女性が姿を現した。
「おじさま〜、リースの日記は見つかりましたか〜?」
「あ、この辺り! そうそう、失われた記憶が戻ってきたわ、この辺りよ!」
リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は、アガレスの他に北都が居るのを見て、慌てて挨拶をする。
「あ、北都さん。お久しぶりです」
「え、えぇっと、マーガレット・アップルリングよ!」
「こんにちは。リースさん……だよね。日記を失くしたって、アガレスさんから聞いたんだけど……」
「そうなんです。マーガレットが間違えて日記を置いてしまったようで。マーガレットの記憶と目録を頼りに調べてみたら、この辺りだと見当がついたんです」
「そ、そうなんですよー、あはははははは」
(まずい、リースとアガレス以外に人が居るなんて……もし“アレ”を開かれたら、死ねるわッ!)と内心焦るマーガレット。そんな彼女の心情を知ってか知らずか、アガレスは北都にあの本を取ってくれ、その本を取ってくれ、と指示を出している。
 ちなみに“日記”と言うのは嘘で、マーガレットの考えたアレやコレが書き連ねられた、いわゆる“黒歴史ノート”である。
「うーん……これは普通の本だねぇ」
「そうですか。白い背表紙の本って、けっこうあるものですね」
「神話や英雄を記した書物は、それ自体に神聖性を見出そうとする場合も少なくない。仕方がないとはいえ、これは少し厄介であるな」
 本を取り出しては、中身を確認して棚に戻す北都やリース。見ているマーガレットとしては気が気でない。
 やがて、皆の手が届く範囲の本は全て調べきってしまった。
「この辺りだと思ったんですけど……ごめんね、マーガレット」
「え、あ、ううん、気にしないでいいのよ。気にしないでいいから!」
自信たっぷりにやってきたからか、リースが本当に申し訳なさそうな、悲しそうな表情になる。ちょっとした嘘をついているマーガレットも、罪悪感で胸が痛んだ。
「……待って、上の段の方にも本があるよ。ほら、黒い伝記シリーズのなかに、一冊だけ」
「え? ……あ、本当ですね! マーガレット、あれですか?」
北都が指さした場所には、確かに一冊だけ白い背表紙の、薄めの本があった。それを目にした途端、マーガレットの記憶が蘇る。たしかに英雄や伝承から得たカッコイイ設定をいろいろと考えてて、手にしていた本を見もせずに棚に返していたのだ。たしかその時は踏み台があって、背伸びしながら戻した気がする。
(……アレだ! で、でもどうしよう。ステップ借りてくる? でも「一応中身を確認しよう」とか言われたら困るわ。そう、皆とはぐれた振りをしてこっそり取りに来ればいいのよ!)
「我が輩は飛べても、本を下ろせないのだよ」
「えぇと、他のところを見に……」
「私も手が届きませんね」
「あのね、もう一度目録を……」
「う〜〜〜ん……だめだぁ、やっぱり背伸びしても届かないや」
(よーーーーし、ここは一旦引き返す流れよね!)
 精一杯背伸びした北都でも、指先が段に触れるくらい。
 内心で安堵の息をついたマーガレットの目の前で、ひょいっと横から伸びた手が白い本を取り出した。
「北都、これで良いのか?」
「あぁ〜、ソーマ。やっと戻ってきたっ」
立っていたのは、北都が探していたソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)だ。適当に歩いていた彼は、偶然にも近くを通りがかって北都の声を耳にしたのである。
「これ、普通の本じゃないな。ノート? 中に何書いてあるんだよ」
(だ、ダメ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!)
本を開こうとしたソーマに、思わずマーガレットが武器を抜こうとした時である。
「だめだよぉ、ソーマ。普通の本じゃないなら、勝手に見ちゃだめ。大切なことが書いてあるかもしれないよ? ソーマだったらイヤだよね?」
「…………まぁ、北都がそう言うなら良いけどよ。で、これ誰の?」
 ソーマがひらひらと振ったノートを、超高速の速さで奪還するマーガレット。ひったくるようには見えなかったのは、彼女の運動能力の為せる技か、ソーマの反応が鋭かったからか。
「わ、私のです! 取って頂いて、ありがとうございましたッ!」
「大事なもんなら、そう簡単に失くすなよな」
「良かったですね、マーガレット! 北都さん、ソーマさん、ありがとうございます」
「後で何か礼をしなければならんな」
 喜ぶリースたちに、北都がぽんと手を合せる。
「じゃあ、僕たちと一緒に整理と掃除をしようよ。皆でやれば、きっとすぐに終わるよ」
「そうですね、私たちもマーガレットの日記を見つけるって目的は果たしましたから、北都さんたちのお手伝いをしませんか?」
「うむ、我が輩の知識が整理の役に立つやもしれん。喜んで手伝わせていただこう」
「えぇ、もちろん。幾らでも手伝うわ」
 アガレスもマーガレットも頷く。
「じゃあ、隣の棚から始めよう。終わったら皆でお茶にしようよ。スコーン焼いてきたんだ♪」
「ほんとですか? それは楽しみですね!」
「じゃあ、張り切って整理するわよ!」
「一気に騒がしくなったが……まぁ、いいか」
 さっきの倍以上の賑やかさで、整理が再開される。
 かくして、マーガレットの秘密は何とか守られた。ほんの少しだけソーマが中身を見てしまったのは、ナイショの話である。
(……ま、大事なものは鎖で繋いででも傍に置いておけってことだな)

 *  *  *

 大図書室の少し奥まった場所。
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は淡々と本を並べ替え、埃を払っている。あまり人が入らない場所でも、大図書館の常連であるレイナにとっては庭先も同然。時折近くを通る巡回ゴーレムに挨拶したりしながら、ひたすらに整理を続けている。
 と、次の棚に取りかかったとき、レイナは誰かと肩をぶつけてしまった。
「……ごめんなさい」
「あ、こちらこそ本を並べるのに夢中で。ごめんなさい」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はぺこりと頭を下げる。入り口に近いエリアには人が沢山いたのでパートナーと共に少し奥の区画へやってきたのだ。まさか同じような人が居ると思わず、注意がおろそかになっていたらしい。
「この辺りの区画、詳しいんですか?」
「……ええ、よくお世話になっています……から……」
「そうなんですね。あの、よかったら整理を手伝ってもらえませんか? 私もよく図書室を利用しているんですけど、本棚の位置までは完全に把握している訳じゃなくて……」
 ゆかりの言葉に、レイナはこくりと頷く。協力して早く終わるのであれば、それにこしたことはない。
「わかりました……私の力で良ければ、お貸しします」
「よかった、助かります! あ、私は水原ゆかりといいます。よろしくお願いします」
「レイナ・ミルトリア……です。頑張りましょう。ところで……」
レイナはピッと指をさす。その先には、本棚から本を取り出しては嬉々とした表情で読書に励む少女の姿が。たいへんテンションが上がっているのが、傍から見ても手に取るように分かる。
「……私のパートナーの、マリーです。あの子は……えぇ、邪魔にならなければ、放っておいて良いと思いますから」
「………………」
 どうやらマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は二人の視線に全く気付いていないようだ。いちおう整理と掃除をする気はあるようなので、とりあえず放っておくことにした。
「目録によると……えぇと、この本があっちで、この本はここ、かな」
「そう……この叢書は背の番号が読み辛いから……注意してください。……でも、水原さん、手際がいい……ですね」
「え、そうですか?」
 あはは、と照れたように笑うゆかり。たしかに目録との見比べやシリーズの把握など、ただの本好きでは少し難しいことをゆかりは平然とやっている。
「実は昔、大きな書店でアルバイトをしていたことがあるんですよ。こんなに良い図書室なのに、ちゃんと整理がされてないと宝の持ち腐れですよね。だからボランティアに加わることにしたんです」
「そう、ですか……私も、ここは自分の家の一部みたいに思っているので……お手伝いしようと思って」
「そんなによく来るんですか! じゃあ、あとでオススメの本を教えてくれないかし……」
 ゆかりがそう言いかけたとき、少し離れた場所から嬌声が響き渡った。
「わ、わぁああああああ!! 『金枝篇』キターーーーーーー!!」
「ちょっとマリー! 騒がないで!」
「だ、だってカーリー! 初版だよ!? 初版!! 1890年発行! さすが魔法学校の大図書室! すっごーーーーー…………ぃ……」
マリエッタの語尾が小さくなったのは、目の前にレイナが立ったからだ。その赤い眼は氷のように冷たい光を放っていた。
「図書室では……騒がないで……ください」
「……す、すみません。あっ」
思わず謝るマリエッタの手から、レイナは本を取り上げた。本来なら、この本はもう数ブロック先の分類に置いてあるはずだ。
「マリー、読書だったら後でもできるでしょう? 私だって我慢してるんだから」
「……気持ち、わかります。気になる本を見つけると、ついつい読みたくなりますから。……けど、今は我慢して整理を続けるべきだと、思います」
「……はぁい。しょんぼり」
しゅんとしたマリエッタの肩に手を置いて、レイナが続ける。
「珍しい本なら、私があとで案内します……それを楽しみに、今は頑張ってください」
「ほ、ほんと!? よーし、私も手伝うわ! 早く終わらせましょうよ!」
急に元気になったマリエッタの姿に、ゆかりとレイナは苦笑する。同じ本好き同士、通じるところはあるのだろう。
「じゃあ、整理を続けましょうか。けっこう痛んでる本もありますね……補修の必要があるかも」
「たしか……補修をしている人たちが居たと思います。あとでまとめてお願いするのが、いいかもしれません」
「この本、全然場所が違うわ。どうするの?」
「遠い場所の本は……とりあえず、除けておきましょう……」
言葉を交しながら、3人の作業は進んでゆくのだった。

 *  *  *