天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

魔術師と子供たち

リアクション公開中!

魔術師と子供たち

リアクション

   4

「何度も言っているでしょう。こんなところで子供だけで住むなら、身を守る術と知識が必要ですと」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、ジョーイに迫った。
「必要ないよ」
 しかしジョーイはにべもない。
「俺にはこれがある」
 古びた銃を一丁取り出し、近遠に見せつける。「あなたたちの中に使える人がいるなら別だけど?」
 近遠は困ったようにパートナーたちを見た。自分はシーアルジストだし、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)はディーヴァ、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)はチャンピオンで、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に至ってはセイントだった。銃を扱う者が一人もいないのだ。
「だが、身を守る術は武器だけではない。知識の一つもなければ、危険だぞ」
「町から出るつもりはないし」
「じゃあおれっ、おれが習うっ!」
 はいはいと手を上げたのは、エディだ。イグナの傍にすっ飛んで行き、
「ねーちゃん、ヴァルキリーなんだろ? 空飛べる? それ剣だろ? おれに教えてよっ!」
「もちろん――」
「駄目ですっ!!」
 キッチンから飛び出してきたステラが、むんずとエディの襟首を掴んだ。
「あんたは、そういう危険なこと覚えなくていいの!」
「えーっ、何でだよーっ?」
「左様。身を守る術は覚えて損はないと思うが?」
「覚えたら覚えたで、この子、またどこか遠くへひょいひょい行っちゃうんです! “名無し”さんを見つけたときだって、モンスターに襲われたところを助けてもらったんでしょ!?」
「そんで死にかかったあいつをおれが助けたんだから、おあいこだよっ」
「ジョーイがね。とにかくあんたは、余計なことをしない、遠くに行かない。はい、部屋へ行く!」
 ジョーイがくすくす笑いながらエディの腕を掴み、子供部屋へ連れていく。
「まったくもうっ」
 大人しいステラが、事エディに関しては声を荒げるのがジョーイには面白くて仕方がない。
「貴女もまだ、遊んでいたい盛りでございましょう? ずっと、母親代わりは大変なのでございます。ここにいる少しくらいの間でしたら、アルティアが少し肩代わりするのでございますよ」
「ありがとうございます。でも、母が他界して以来、ずっとしてきたことですから、そんな大変でもないんですよ。……あの子には手を焼きますけど」
 それから寸の間考え、
「でも、キーチとミホを寝かしつけてもらえますか? お昼寝の時間なので」
「ええ、構いませぬよ。お任せください」
 アルティアはにっこり微笑むと、ジョーイと入れ違いに子供部屋へ入っていった。
「でも、ここで開拓者をやっていくなら、魔法の一つでも覚えておくのは損じゃないと思いますわよ?」
 ユーリカの言葉に、戻ってきたジョーイはぐっと押し黙った。それから忌々しげに、
「……魔法の修行ならやったことある」
と答えた。「でも、才能ないんだ。それに、俺は開拓するつもりはない。この土地で牧場が出来ればいい」
「モンスターが襲ってきたら?」
 ジョーイは答えない。現にエディはモンスターに襲われている。町が安全だとは言い切れない。
「銃の特訓はする。金がないから、あんまり出来ないけど。だけど、あんたたちの手は借りない」
 そして、ぷいっと出て行ってしまった。
「……怒らせたようですね」
「コンプレックスらしいんです、魔法が使えないのは」
 ステラは苦笑して、心配ないですよと近遠に言った。
「あれじゃ無理ですわね」
「いいえ、代わりに私に教えてくださいな」
「ステラちゃんが?」
「どれだけ才能があるか分かりませんけど。それに、料理と掃除と洗濯が山のように残っているので、その後になりますけど」
 ジョーイたちを守るため、家の周囲にはコントラクターたちが数多く集まってきていた。ステラは彼らの分の食事まで用意していたのである。
 無論、そんな必要はないと全員断ったのだが、「せっかく守って下さっているのに、当の私たちが何もしないわけにはいかないでしょう?」と、彼女は一番大きな鍋を持ち出した。幸い、食材はシリウスが持ってきてくれた分がある。カレーかシチューにしようとステラは考えていた。
「何だったら、あたしが手伝いますわよ」
 ユーリカが袖を捲った。お嬢様然としている彼女だが、料理は得意な方だ。
「お願いします」
 ステラはにっこり笑った。ジョーイとは正反対に、彼女は何でも受け入れた。――エディの件以外は。
「――そういえば」
 キッチンに向かうステラに、イグナは尋ねた。
「貴公、“名無し”殿に魔法を習おうとは思わなんだのか?」
 近遠たちは、ハーパー家の若い衆が“名無し”を襲う瞬間を目撃していた。あの術が使えれば、この土地で生きていくのに有利なはずだ。
「駄目なんです、あれは」
「というと?」
「普通の魔法とは違うらしくて……『この世界の人間には無理』だって言われちゃいました」
「この世界……?」
 近遠は眉を寄せた。おかしなことを言う。まるで、違う世界から来たような――。