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魔術師と子供たち

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魔術師と子供たち

リアクション

   9

「たいちょう、たいちょう、どこいくの?」
「いいところだ」
「いいところって、どこ?」
「わかった。ケーキ屋さんだっ」
 キーチとミホは顔を見合わせ、わあっと笑い声を上げた。二人の中では、既に目的地はケーキ屋と決まったらしい。
「うるさいなあ。子分は黙ってついてこいっ」
「はい、たいちょう!」
 ずんずん進むエディの前に、音もなく現れたのは辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。
「何をしているのじゃ?」
「おまえ、誰だ?」
 エディは木の棒を刹那に突き付けた。――と、目が回り、膝が折れる。
「あれれ?」
【しびれ粉】だ。キーチもミホも倒れているが、エディにはわけが分からない。
 刹那はエディの体を支えると、一緒にいた男たちに、二人の子供はどこかに転がしておくよう指示した。「どうせ、契約者たちがすぐ見つけるじゃろう」
「大当たりだ!!」
 どこからともなく現れたのは、試作パイロットスーツ【凄鉄】を着込み、道路標識【通行止め】を手にした柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。人呼んで、「ツギハギ横丁の怪人だ!」だそうである。どこをどう取っても悪役で、キーチとミホが見たら泣き出しそうだが、幸い二人は意識を失っていた。
「うおりゃああ!」
 振り下ろした標識の風圧で、男たちが吹っ飛ばされる。更に、
「ごにゃ〜ぽ☆」
 物部 九十九(もののべ・つくも)に憑依され、黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を身につけた鳴神 裁(なるかみ・さい)が突然現れた。二人を抱え、地面を蹴る。ザザザァ! と三メートル先に滑るように着地すると、裁(九十九)は声を張り上げた。
「よくわかんないけど、オチラギさんと戦闘中ってことはあんたら悪人だな?」
 中身は九十九だが、彼女は裁と全く同じ思考、話し方なのである。
 魔鎧のドールは、「その決め付けはどうかとおもうのですよ〜? 柊さんてたまにリア充爆破テロしてたりしますからね〜?」と突っ込んだが、裁(九十九)は子供たちを下ろすと、
「問答無用☆ いっくよー♪」
と、男たちに飛び掛かった。
「こいつ!!」
 殴り掛かる男の拳を【自在】で作り出したフープで受け流すと、そのままくるりと回転させ、空中へそれを放った。
 次の男が一瞬呆気に取られたのを見て、裁(九十九)は体を捻りながら相手の後ろへ回り込む。筋肉が断裂するほどの無理な動きも、ドールが身を守ってこそだ。そしてギフトであるマーシャツアーツの力を借り、握った両手を首筋に叩き込む。
「がはっ!?」
「てめえ!」
 最初の男が再び襲い掛かる。
「おっと」
 裁(九十九)は【グラビティコントロール】で壁を駆け、思い切り飛んだ。
「この――!!」
「【七曜拳】!!」
 飛び上がり、着地するまでの間に、男の額、顔面、胸、鳩尾、腿、脛に蹴りを入れ、最後にフープからクラブへと形を変えた闘気が、男の横腹にめり込み、吹っ飛んだ。
「一丁上がり!!」
 パンパンッ、と裁(九十九)は手の平をはたいた。
 一方、恭也が次に睨んだのは、刹那だ。
「ガキの分際で……いや、見かけどおりじゃないのか?」
「どうであろうな」
 刹那は袖で口元を隠した。
「見かけどおりだってなら、そういう悪い子は捕まえて、お尻ペンペンだ!」
 今の恭也の恰好では、ほとんど変態のセリフである。道路標識を突きつけた瞬間、彼の背後から何本ものナイフが飛んできた。咄嗟にそれらを叩き落とし、恭也は壁を背にした。
 ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が「幻槍モノケロス」を手に、近づいてくる。二対一――当然、エディを抱えた刹那を優先すべきだが、ファンドラが背後から襲ってくるのは必定だ。
 刹那がエディを担ぎ上げた。
「後は頼む」
「させるか!」
 咄嗟に追おうとした恭也に、ファンドラが【チェインスマイト】を繰り出した。恭也の脇を槍が掠り、二撃目は道路標識で受け止めた。
「まずはこっちだ!」
 恭也が道路標識を振り上げたその一瞬を狙い、ファンドラは【ダブルインぺイル】を仕掛けた。切っ先が恭也の手や足を切り裂くが、構わず道路標識を地面に下ろした。衝撃波がファンドラを襲い、壁に叩きつける。ファンドラはバウンドし、地面にもんどりうった。
「よし!」
 トドメを刺すよりもエディたちを追う方が先だ。恭也は刹那とエディが消えた方へ走った。
 しかし、さすがにツギハギ横丁。僅かの間に二人の姿は迷路の中に消えていた。仕方なしに元のところに戻ると、今度はファンドラもいない。
「しまった……」
 残るは裁(九十九)が捕えた二人組のみだ。エディを殺すような真似はしないだろうが、どこへ連れていったか何としても突き止めねばならない。恭也は、男の体を引きずり上げた。
「とっとと白状しないと、どんな目に遭っても知らないぞ?」
 ちなみにフレリア・アルカトルは、一連の騒ぎを見ていた。
「ツギハギ横丁って怖いところね〜。――あ、真司? 今ねえ、変な男が人を襲ってるのを見ちゃったんだけど、助けていい?――あ、そう? 分かった。えーとね、ちょっと待って、目印になるものを探すから……」
 フレリアはきょろきょろと辺りを見回したが、どれも似たような建物ばかりだ。鍛冶屋、雑貨屋、八百屋、酒場と様々な看板がぶら下がっているので辛うじて店の区別はつくが、目印になるほどではない。
「だから何度も動くなと言ったろう……」
 柊 真司はがっくりと膝を突いた。その場所に辿り着いたとき、フレリアは全く別の場所に移動していたそうだ。