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魔術師と子供たち

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魔術師と子供たち

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   13

 ジョーイたちの家は、周囲を背の低い柵に囲まれているものの、遥か遠くまで見通しが効く。畑や正面入り口の付近には、見張り代わりだろうか、案山子がいくつか置いてあった。
 正面から来る敵に、真っ先に気付いたのは、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)だった。
「おい、お前ら、何でこんなところにいるんだ?」
 ハリスが、三人を見て眉を寄せた。宵一たちは、ハーパーに雇われていたのだ。
「いくらバウンティハンターといえども、子どもから住む場所と家を奪う程、腐ってはいない」
「ってことは裏切るのか? 冗談じゃねえぞ!」
「前金ならお返ししますわ」
 ヨルディアが小袋を放り返す。
「ふざけんな! 一度受けた依頼を断るってことは、仁義に悖るってもんだろ!?」
「ようゆうわ」
 狼木 聖(ろうぎ・せい)が進み出る。
「盗人にも三分の理、か? どうせ力ずくで奪いに来たんやろ?」
「何を言う。我々は、話し合いにだな」
「嘘ですわね」
【嘘感知】で察したヨルディアが、あっさりと否定した。
 聖は背負った「パニッシャー零式」で、足元に線を引いた。迷いのない、真っ直ぐな線を。
「……今のうちに帰り? ここが文字通りギリギリの場所やで?」
「あーもう、メンドくさいなあっ!」
 赤毛をばりばりと掻き毟りながら、男たちの後ろから女が現れた。
「こいつら全員、ぶっ飛ばせばいいんじゃないの? それでガキから貰うもん貰えば終わりでしょ?」
「あ、姐さん、身も蓋もない……」
「もしやユーリか?」
 神凪 深月(かんなぎ・みづき)が尋ねた。
「あれ、ボク有名?」
 旅をしている割に、肌は透き通るように白かった。髪は赤く、瞳は緑。ちなみに体にぴったりと密着するインナーの上に鎧をつけているので分かるが、胸は小さい。それさえ除けば、身長といいモデルばりにスタイルは良かった。
「どんな理由があったとしても、奪うことをわらわは良しとしないのじゃ」
「へえ。それはボクも同感だな」
「ならば、どうしてこんなことをする?」
「奪われるより、奪う方を選んだ、ってのはどう?」
 ユーリはにんまり、悪戯っぽく笑う。
 普段は冷静な深月だが、その言葉と態度にはカッとなった。
「わらわは正義とうそぶくつもりはないが、子供達が信じる正しき義に味方する位は出来るのじゃ!!」
「手荒なことはしたくない。そのまま家に帰って昼寝でもしていてくれ」
 宵一の警告にも、ユーリは笑みを崩さない。逆に、「ほら、さっさと行きなよ」と、尻を蹴飛ばす。
 男の一人が、聖の引いた線を越えた。
「残念だ」
 宵一の合図で、ラビドリーハウンドが威嚇射撃を行った。
「うわわわ!」
 撃たれた男は慌てて横へ飛びのく。それを合図に、男たちは左右に散り、柵を蹴り飛ばした。
 家へ向かおうとした男が、後ろから殴られ、振り返った。誰もいない。
「?」
 何か飛んできたんだろうか、と首を傾げながらまた走ろうとすると、後頭部を殴られた。
「ち、畜生、誰だ!?」
 男は相手を探すが、そこにあるのは案山子だけだ。「畜生!」
「きゃあ!」
 蹴飛ばした案山子は、アリア・ディスフェイト(ありあ・でぃすふぇいと)だった。二人の目が合った。
「……」
「……てめえっ!」
「きゃあ!」
 男が掴みかかってくる。アリアは恐怖の余り男に抱きつき、その首筋に噛みついた。
「ぎ、ぎゃあ、す、吸われる……!」
 男の顔から見る見る血の気が引いていく。だが対人恐怖症のアリアには、それを見る余裕すらない。【吸精幻夜】で倒れた男に土をかぶせて隠し、アリアはまた案山子のフリをした。願わくば、もう誰も目の前を通りませんように。
 また別の男は、鉄パイプで深月に殴り掛かった。――と、周囲が突然、闇に包まれる。
「な、何だ!?」
 男は鉄パイプをより強く握ると、めくら打ちにした。何もない空間を何度か殴りつけた後、さあっと闇が晴れた。
「【百獣拳】!!」
 拳が獅子の咢のごとく、男の顎を捉えた。
 聖は待っていた。背負った大剣を難なく抜いたユーリが、彼に斬りかかるのを。
【チャージブレイク】と【鬼神力】で力を溜め、聖は【一刀両断】を放った。二人の間で、互いの武器がそのまま動かなくなる。
「へえっ」
 ユーリが笑った。
「やるねえ、キミ。でもさ」
 ユーリの後ろから、大男が飛び出し、聖の顔に拳を叩き込んだ。直前に気付いたものの、力を緩めればそのままユーリに斬られることから、聖は動けず、そのまま地面に頭から落ちた。
「じゃ、ボクは急ぐから。精々頑張ってね、コントラクターのキミ」
 ユーリが去り、大男が聖の胸ぐらを掴んだ。
「さあ、もう一度、今度は顔面からキスしな、地面にな」
 にやり、と聖は口の端を上げた。「味方がおんのは、お前らだけとちゃうねん」
 自分の相手を倒した深月が、大男の側頭部を【鬼神力】で蹴りつける。大男は僅かに体を揺らし、かぶりを振った。それだけだが、十分だった。
「丈夫な男やな!」
 聖の【スタンクラッシュ】が大男の頭頂部に炸裂する。両足が地面にめり込み、大男はぐらぐら揺れると音を立てて倒れたのだった。