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   16

「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! ククク、この『水上の町アイール』か、 古代ニルヴァーナ文明のロストテクノロジーがあると噂されているのは!」
 説明しよう。世界征服を企む悪の秘密結社(自称)の幹部(自称)である、天才科学者(自称)ドクター・ハデスは、世界征服(という妄想)に利用するロストテクノロジーを求めて、人造人間(という設定の)ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)と共に、ここ、アイールまでやってきたのだ。
「さて……。ロストテクノロジーを探すとしようか。我が秘密結社の開発せし人造人間ヘスティアよ! お前のセンサーでロストテクノロジーを見つけ出すのだ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかったハデス博士!」
 ヘスティアはアル君人形ストラップを取り出し、紐の先を摘んだ。人形が小さくぶらぶら揺れる。
「……こっちではありませんね」
 五分ほどして、ヘスティアは場所を移動した。まず北へ。そこで五分。
「……こっちではありませんね」
 つぎに西へ移動した。そこで五分。
「……こっちではありませんね」
 そんなこんなで町中を移動しながら、二人はロストテクノロジーを探し回った。歩くこと八時間後、
「分かりました、ご主人様! じゃなくてハデス博士! 私のセンサーによりますと、ロストテクノロジーはこっちです!」
「お、おお? 寝てない、寝てないぞ! いや見つかったか! よしよくやった!」
 座り込んでいたハデスは、がばっと立ち上がった。そしてヘスティアの指差す方向へ、二人はまっしぐらに走った。日はとっぷりと暮れていたが、人形はぐるんぐるん、目が回るほどの勢いで回転している。――もしかしたら、走ったからかもしれないが。
「フハハハ! ロストテクノロジーは、あの建物の地下か! ならば建物を破壊するとしよう!」
 その家はひっそりとしていた。まるで人気がなかった。ハデスは気づいているのかいないのか、ヘスティアに命令する。
「というわけで、建物を破壊します」
 背中のウェポンコンテナを展開し、六連ミサイルポッドが発射される。着弾、爆発するや、ハデスはオリュンポス特戦隊、エリート戦闘員、メカハデスに制圧を命じた。
「トドメだ!」
 ハデスは「指揮官の大砲」で【とどめの一撃】を放った。――家は、跡形もなく崩れ落ちた。床のあちこちがくすぶっていたが、それはヘスティアが【アルティマ・トゥーレ】で消した。
「さあっ、ロストテクノロジーはどこだ!?」
 瓦礫を払いのけながら、ハデスはずんずん進む。そして、キッチンだったらしき場所の床に、大きな扉を見つけた。
「さてはこれが秘密の入り口だな!」
 扉を開け、戦闘員たちを置いてヘスティアと共に木の梯子を降りていく。寒かった。まるで貯蔵庫みたいだとヘスティアは思った。
 その地下室は広かった。元々は四方をしっかり固めてあったのだろうが、一ヶ所がぶち抜かれている。部屋を広げるつもりだったのでしょうか、とヘスティアが首を傾げたとき、隣に足を踏み入れたハデスが歓喜の声を上げた。
「こ、これは!!」
 隣の部屋は、洞窟になっていた。大きな柱が中央に立ち、なぜかその中心がくり貫かれている。ハデスはすぐ近くで、板を手に喜んでいた。
「これは素晴らしい! 正にタブレットだ!」
 ハデスが板に触れると、ぱっと画像が現れた。どうやら、この洞窟の地図のようだ。指を左右に動かすことで、地図もどんどん移動する。なるほど、正しくタブレット端末だ。
「よし! この調子で色々探すぞ!」
とハデスは張り切ったが、残念ながらこの板以外、目ぼしい物は見つからなかった。


 アイールの町を出たところで、サリーは筒状の荷をジープに乗せていた。爆発音に顔を上げ、サングラスの下の目を細める。
「あれはあなたの雇い主の家の方角ね」
 振り返ると、声の主もそちらに目を向けている。助手席のユーリが、柄に手を掛けたのに気付き、彼女はかぶりを振った。
「戦うつもりはないわ。私はリネン・エルフト。冒険者の店の主人よ。今回の件が犯罪ではないという裏を取りたかったんだけど」
 既にユーリがジョーイたちの家を襲った後である。二人が真っ当な冒険者でないことは、確定した。
「ハーパーのことは気にならないの?」
「家にはいないはずです」
 作戦が失敗し、ハーパーは狼狽えた。それはサリーでさえ、同情するほどに。だから、必要な物を持って逃げるよう忠告したのだ。後は知ったことではない。とはいえ、まさか家が爆破されるとは思わなかったが。
「あなたたちの目的は何? ロストテクノロジーを研究しているというけど、本当?」
「研究してるなんて言った覚えはないんですけどねえ。でも、ロストテクノロジーが欲しいのは本当ですよ」
 つん、とユーリがサリーの袖を引っ張った。
「分かってますよ、すぐ切り上げます」
「今日は忠告だけにしておくけど、騙すような形で冒険者を利用しようとするのはやめなさい。直に口利きしてくれる店をなくすわよ?」
 くすり、とサリーは笑った。
「何がおかしいの?」
「蛇の道は蛇と申しますでしょう? 手を貸してくれる人間はいくらでもいるんですよ。面白いもんですね」
「あなたは一体――?」
「悪い冒険者。そういうことにしておいてください」
 サリーはひらりと運転席に飛び乗り、リネンに手を振った。
「ご機嫌よう。あたしはもう、この町には来ないから安心なさいな」
 ユーリがリネンに向け、いーっと歯を剥いた。子供のような仕草にリネンが目を丸くしていると、サリーがぽんぽんとユーリの頭を撫で、ジープを発進させた。


「皆さま、アイールの町はいかがでしたでしょうか。アイールはこれからも景観を重視した町づくりが進められていく予定です。ぜひまた、お出で下さい。一同、お待ちしております――」