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ふーずキッチン!?

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ふーずキッチン!?
ふーずキッチン!? ふーずキッチン!?

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【厨房】


 後数日で休暇とは名ばかりの、どんなに望んでいてもイベントや事件で毎日が潰れてしまう長期休暇も終了し、
いよいよ新学期の幕開け、という日だった。

 新年に掲げた願いは今年も例年と同じく「新たな出会い」。
 割烹着という少々渋い好みの衣装なのは残念だが、店内を歩き回っている女性たちを見ていると、どうやら
一月が始まって早々に願いも叶えられそうである。
「それから給料も弾んでくれるといいんだけどな」
 葦原明倫館のナンパ師こと仁科 耀助(にしな・ようすけ)は、何気無く手元にある調味料の瓶を手に取った。
その勢いで沈殿しているハーブらしきものが浮き上がってくるのを見ながら、耀助は考えた。

「女将さんの希望で、今日は学生中心のイベントを意識して営業したいの。
 だから味付けとかも皆の自由にして貰って……。あ、味見は勿論するわよ」
 女将代理で今日一日店を切り盛りするらしい少女、ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)によるとそんなところらしい。
 通常のメニューだけは彼女がほぼ一人で担当出来るようだが。
「はて、マグロ料理ねぇ……どんなもんがいいのやら」
 言いながら振り返って、見えた女の子に
「ね、お嬢さんはどんな感じにするの?」
 最早刷り込みの如く向けた軟派な笑顔を遠ざけようと、横から大きな身体に邪魔されて耀助は参ったと両手を挙げた。
 当の彼女、遠野 歌菜(とおの・かな)は大して気にも留めていないのか気づいていないのか、屈託の無い笑顔でこう答える。
「王道の鉄火丼でしょ?
 それから玉ねぎと一緒にカルパッチョ、片栗粉をまぶしてこんがり焼いたステーキに醤油餡の肉まん♪ そんな感じかな?」
 目の前に立っていたパートナー、月崎 羽純(つきざき・はすみ)に極上の笑顔を向けて、相手もそれに答えてしまう。
「羽純くんはカルパッチョを手伝ってくれるかな?」
「ん? 俺が?」
「そうそう、ジゼルさんの説明によれば「オリーブオイルはイケメンにのみ使用を許される魔法の液体」なんだもんね♪」
 歌菜の言葉に羽純が顔を赤らめる前に、耀助はやれやれとその場を立ち去った。


「はぁ……ここには男付きの女の子しかいないのか……」
 ため息交じりに呟いて耀助はカウンターに顎を乗せる。
「ホールとか会場に居る可愛い子には……」
 生徒会長なら顔が広かろう。誰か可愛い知り合いは居ないものかと東條 カガチ(とうじょう・かがち)にちらりと横目で目線を送ると、
「ん?」と首を傾げて、すぐに玉ねぎが大量に入ったボールを渡された。
 「暇こいてんなら皮むき宜しくな」という意味である。
 
「今日期待出来そうなのはお給料だけかねー……」
 耀助はホールに集まり始めた女の子達を羨望の眼差しで見ながら再びのため息を吐いた。





【ホール】


「も、もう駄目ぇ! 私、耐えられませんッ!!」
 この言葉の理由が色っぽい事情だったらどれだけいいだろうか。
 流石の執事さんと言ったところか、椎名 真(しいな・まこと)が俊敏な動作でキャッチした事で皿とグラスは地面スレスレ一センチで割れずに済んだのだが。
「うぅぅ、すみません……」
 思わず頭の上にぴょこりと顔を出した超感覚の耳がうな垂れている。
 和風忍者なフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は割烹着姿こそ堂に入っているものの、どうにもこうにも
「……相変わらずのドジっ子だな」
 彼女のマスターことベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に一太刀で斬られてフレンディスはますますうな垂れてしまう。
 フレンディスを心の底から敬愛している忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)ですら、これには苦笑するしかなかった。
 朝、店にやってきた時は「本日は私、皆様方のお手伝いに参りました! 遠慮なくお申し付けくださいませ!!」と、挨拶だけは良かったのだが。
「フレイには無難な仕事を与えて貰わねぇと被害が……」
 むむむ。と唇を噛んでいると、後ろから声をかけられる。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)だった。パートナーのリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)と店を手伝いに来たのだ。
「いいんだよ落ち込まなくて。
 急造でも僕ら今日一日チームなんだから、
 フォローしあって、皆それぞれ得意なところを担当していこう」
 彼が目配せしたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。二人とも給仕として豊富な経験があるからこその余裕が感じられる。
 通りがかったジゼルはそれを遠巻きに見ながら「ここは任せてよさそうね」と、安心して扉から出て行った。

「それじゃあまずはメニュー取る担当から決めよっか。ここは人数は……」
 二人の仕切りで、ホールの仕事内容が決まっていく。
(なんかんだスペシャリストが揃ったな……俺も頑張らなくちゃな!)
 真は小さなメモ帳に重要そうな事柄を記入しながら、先ほどから気になっていた場所にそっと視線を向けた。
 瀬島 壮太(せじま・そうた)
 彼も親友と言ってもいい信頼の置ける友人の一人なのだが、コスチュームがどうにも……。

「ごめんね、数が足りてなくて!!」
 今朝ジゼルからそう言って渡されたのは、普段彼女が愛用しているエプロンの一つだった。
 普段女将とジゼルの二人でほぼきりもりしているような小さな店だ。割烹着の用意はあっても、男性の服の用意はなかったらしい。
 真ら執事組は元々持っている執事服で接客できるが……。

 壮太に渡されたのは白い胸元もある、しかもお手製の可愛らしい小花の刺繍があしらわれたエプロン。
 更には壮太の不良っぽい外見を少しでも和らげようと、ご丁寧に金髪を隠す三角巾の止めつき。 
「…………」
「…………なんだよ」
「なんでもないよ……?」
 何が何でもない。だろうか。わざわざ後ろを向いて吹いた癖に
「うっせ」
 壮太は舌打ちしてしかめっ面をしながらも、真に習ってメモを走らせた。
 バイトで友人に鉢合わせた上にこんな格好を見られるのを嫌な事に変わりは無いが、
そういう部分では、素直に優秀な友人を見習うのが一番いいのも、壮太は知っているのだ。