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水宝玉は深海へ溶ける

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水宝玉は深海へ溶ける
水宝玉は深海へ溶ける 水宝玉は深海へ溶ける

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 ホールが見渡せる階段の真ん中のスペースに下ろされて、ジゼルは下で行われる戦いを見ていた。
 ジゼルの友人達と相対する『一人』がまともな状態で無いのは、戦うものとして覚悟も経験も足りないジゼルにも、よく分かっている。
「出て行けば殺されます」
 自分を親友だと言ってくれる少女から強い口調で告げられ、
ジゼルは珊瑚色の唇が赤くなる迄噛むとゆっくり応えを出した。

「分かってる。
 怖いよ。でも……」

 いつの間にかどちらとも無く二人は手を握り合っていた。

「いつかね、加夜が教えてくれたの。
 アクアマリンの石言葉は『勇敢』だって。何かに迷った時、希望の光りで導いてくれるんだって。
 私が勇敢になれるのかなんて分からない。希望の光りになれるなんて思えない。
 でも私――

 皆みたいに、本当の意味で強くなりたい」
 青い瞳は真っ直ぐに、立ち向かうべき相手を見つめている。
 あなたを信じます。と真っ直ぐな想いと前向きな祈りを込めて、姫星はジゼルの背中をそっと叩いた。



 ホールへ戻る際に回収したキロスが何か話しかけているのに、樹は首を振った。
「すまん、何も聞こえない。フラッシュバンだ」
「それでこいつら失神してるのか」同じく回収された樹の二人のパートナーを見て、キロスが言う。
 樹は彼のコメントを推察して答えた。
「こっちの二人は……アレを火薬入りの方だと思って失神した」
「はぁン。おつかれさんだな」
 どうせ噛み合ないだろう会話を諦めて樹が正面を向けば、
先にホールへ向かっていたフレンディスが一人アレクを相手にしている。
「説得を試みた。だが向こうはもう話す気が無いからこんなものを寄越したのだろうな」



 雅羅は今、落ち着かない気持ちで外野にいる。
「有り得ないわ。あれだけ連戦してあんなに怪我してまだあんなに戦えるなんて……やっぱり皆で掛からなきゃ――」
「違うな。あれだけ連戦したお陰で、やっと肉迫出来てる」
「契約者の力は時として絶大だ。一緒に戦う仲間の事を考えるなら下手に複数でかかるよりあの方が良い。
 それにね雅羅ちゃん。フレンディスちゃんは、あの子は強いよ。
 彼女なら『一撃は確実に入れられる』。
 そして彼女が負けても、俺達にはその次がある」
 唯斗と、彼に肩を貸されている耀助の台詞に、雅羅は息を飲んだ。
「それって――!?」
「『そう言う事』だよ雅羅ちゃん。
 俺達はここにジゼルちゃんを助ける為にきたとしか思わずにきた。
 助けたら終わりだと、校長先生方にすら頼らなかった。
 けど今はそうじゃない。
 この組織は、アレクサンダル・ミロシェヴィッチは狂ってる。
 一度敵対した俺達を、此処から逃がす気なんて無いだろうね」
「………………」
「こうなる可能性を黙っていたのは俺で、こうなったのは俺のミスだ。だから俺には何も言う資格はない。
 今指示を出せるとしたら、俺達を此処へ連れて来た雅羅ちゃん、君一人だけだ。
 だから雅羅ちゃんは頭として『一人でも多く生き残って帰る』選択肢を選んで欲しいし、
その為には『確実に彼を殺さなくてはならない』。
 辛いなら黙っていていい。でも選び間違いだけはしないでくれ」
 突きつけられた言葉の意味に蒼白になる雅羅に向かって耀助は指を指した。
 ホールの向こう側で、エオリア達が倒れている。
 何れも深い傷を負い、直ぐに回復出来ず今だダリル達に治療されている所だ。
「俺やキロス達みたいに割って入って動けなくなるような怪我を負うより、
 一人ずつ掛かって確実に最終的に仕留めた方が効率的だって事だろ」
「ああ。
 回復スキルが使える子が居ても、力と人数には限りがあるからね。
 だからフレンディスちゃんにはギリギリまで踏ん張って貰う」
「でも耀助!!」
 横を見ると、耀助は暗い目で正面を見据え腰の刀の鯉口を切っていた。

「どうせ死にたがりだろ。望み通り殺してやるよ」