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新興都市シズレの陰謀

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新興都市シズレの陰謀

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一章 賽は投げられた


 新興都市シズレ・地下エネルギープラント入り口。

 金元 ななな(かねもと・ななな)率いる地下制圧を目的とした部隊は、
 いよいよ突入の時を迎えようとしていた。

「外の見張りは俺1人に任せとけ、アリ一匹逃がさないぜ。
 ななな達は思う存分、地下に乗り込んで暴れてきな」

 逃亡阻止の役を買って出たのはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だ。
 彼は『魔黒翼』で飛び立ち、従えた『堕黒島』達と共に上空を旋回、
 エネルギープラント内から逃げだそうとする商会員を監視しはじめる。
 さて、肝心の突入のほうだが、

「ななな、尖兵はあたし達に任せてくれる?」

 声をかけたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
 これだけ大勢が集まった今となっては、
 当然ジュリエンヌ商会の連中もこちらに気づき、正面の守りを固めているだろう。
 それを加味したうえで、セレンは有効そうな作戦を考え、提示する。

「セレンの考えそうな事だわ……作戦と呼べるほど立派なものじゃあないわね」

 対する言及は、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)のものである。
 セレンはムッとした表情で振り向いたが、中身がほとんど強行突破では無理もない。

「でも、相手を動揺させるって意味では、なななもいい作戦だと思うよ。
 悪者に容赦する必要もなし……やってみる価値はありそうだね!」

 隊長であるなななの認可を受けて、セレンは頷く。
 肝心の作戦の概要だが、入り口を隠している民家の周辺で大爆発を起こして、
 警備の気を奪ったところへ装甲車で突入―――
 すぐに車は乗り捨て、一気に地下まで制圧するといったもの。
 爆発の余波で入り口が塞がれてしまわないよう注意は必要だが、
 待ち伏せしている商会員がいたとしたら、有効な作戦である事は間違いないだろう。
 セレアナは『装輪装甲通信車』の運転席へ向かいつつ、

「セレンが爆撃、運転は私が担当するつもりなのだけど、突入後に降下する人員も必要よ。
 奥にも敵が潜んでいるかもしれないから、できれば戦闘慣れしている人がいいわね」

 その言葉を受け、なななは周囲をぐるっと見回してみる。
 すると名乗りあげている者が、数名見つかった。
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)
 そしてジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)である。

「私は戦場慣れしていますし、レティも白兵戦はお手の物です。
 よろしければ是非ご助力させて下さい」
「もともと、あちき達もなななさん部隊と一緒に突っ込むつもりでしたからねぇ」

 戦力として申し分ない人員である。
 ただ、ジャジラッドについては恐竜騎士団の副団長という立場のはずだが……
 その点について疑問を抱き、なななは確認のために問いかける。

「えっと、なななの部隊と一緒に行動するの? ですか?」

 おずおずといった仕草で応じるなななに、
 ジャジラッドは可能な限りやわらかい口調で、

「他の団員は別行動をとっているから、オレ単独でだがな。
 こんな時まで組織の違いに囚われて、協力できないというのは馬鹿馬鹿しいだろう?」

 なるほど、合理的である。
 と思ったなら、後を見据えたジャジラッドの狙いに乗せられてしまった事になるのだが、
 本当に合理的なので仕方の無いことかもしれない。

「ジャジラッドさんの言う通りですねぇ。
 あちき達としても、一緒に突入してくれるなら百人力ですし、助かりますよぅ」
「私も、組織間の難しいことはわかりませんが、
 今は確実に突破を成功させるべきだと思います」
「うむ。共に大荒野の秩序を守り抜こうぞ」

 レティシアとミスティの同意を得た事で、なななも納得したらしい。
 セレンの駆る『装輪装甲通信車』の定員は、運転者を含めて4名なので、
 どうやら、尖兵はこれで決まりのようである。
 なななに目配せされると、セレンは最終確認をとるべく名を呼び上げた。

「セレアナ、レティシア、ミスティ、ジャジラッドが突入要員ね。
 ……爆撃の直後に飛び込めるように、タイミングを計って合図を出すわ」
「そのタイミングで、私はアクセルを踏めばいいわけね。OK、了解よ」

 確認を終えたセレンは深呼吸をついてから、
 単身、件の民家の前へ躍り出る―――作戦開始だ!

「細かい小細工は抜きで、派手に行くわよ!!」

 使用スキルは【破壊工作】と【サイコキネシス】。
 威力を増した複数の『機晶爆弾』を操作して、民家周辺に展開する。
 その状態を維持していると、やがて全てが同時に起爆し……

 ズガァァァァァ「今よッ!!!」

 一帯の空気が次々と破裂したような轟音。
 そして、それを上書きしてしまうほどのセレンのかけ声に、
 待機中の契約者達は思わず耳を塞ぐ。
 外にいてもこれなのだから、建物内にいる人間はたまったものではないだろう。

「みんな、しっかり掴まって!」

 直後、セレンの合図に応じたセレアナは、端っからアクセル全開。
 『装輪装甲通信車』は民家の玄関めがけて突っこむと、
 壁をぶち壊しながら建物の中腹ほどまで至り、その動きを止めた。

「よくやってくれた。後はオレ達に任せろ!」

 ジャジラッドとレティシア、ミスティが装甲車より降り立った時、
 既に民家の入り口付近で待機していたらしい商会員は壊滅していた。

「騒ぎを聞きつけたんでしょうねぇ。奥から増援っぽい人達がやってきますよぅ」
「こっちは準備万端です。レティ、行けますか?」
「もちろんですよぅ」

 レティシアとミスティが迫り来る敵勢5名に対峙する。
 そこで、ジャジラッドは横合いの部屋からこちらを狙うスナイパーの存在に気がついた。

「向こうにも敵がいるな……オレが対応しよう。正面はおまえ達に任せたぞ」
「おお、気づきませんでした。それではよろしく頼むですよぅ」

 簡潔なやりとりで、各方面に散る一同。



 横合いの室内にて。

「……気づかれたかッ」

 ジャジラッドが近づいてくる事に気づいた商会員は、
 『スナイパーライフル』を捨てて『マシンピストル』に持ちかえる。
 部屋の扉から距離をとり、ジャジラッドが扉を開けた瞬間に蜂の巣にする算段だろう。

(………………)

 ところが、いつまで経ってもあの大男が入ってくる気配がない。

「確かに目が合ったと思ったが……気のせいだったか?」

 商会員が警戒を緩め、扉に近づこうとした次の瞬間―――
 体中を『恐竜のフン』にコーティングされた美女が、
 扉を開けて部屋に入ってきた。

「……は?」

 てっきり大男が入ってくると思い込んでいた商会員は、
 予想外の出来事についていけずに硬直する。
 さて、件の美女の正体はサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)
 これまで『機晶魔術増幅装置ティ=フォン5』に収納されていた、
 ジャジラッドのパートナーである。

「このパック、最近パラ実で流行しているそうなのですわ。
 なんでも美肌に効果があるとか……もちろん、男性にも使えますわよ。
 あなたも試してみてはいかが?」

 硬直したままの商会員に、サルガタナスはじりじりと近づく。
 商会員は現状を理解するよりも先にひどい臭いに当てられて、更なるパニックに陥った。

「ムガ……ッくさっ、寄るな! おい、聞いてんのかオイ!」
「真の美しさを得るためにはたゆまぬ努力が必要なのです。
 これくらいは我慢しなくては」

 やがて完全に密着したサルガタナスは、商会員に抱きついてすりすり抱擁する。
 反撃という単語は頭から抜け落ちているようで、商会員はそのまま気絶してしまった。

「……つまらない男でしたわね」
「よくやったぞ、サルガタナス」

 遅れて部屋に入ってきたジャジラッドは、パートナーを賞賛する。
 そして間髪入れずに『機晶魔術増幅装置ティ=フォン5』を再び掲げると、
 内部へとサルガタナスを再び収納した。

「この作戦は…………味方にも被害が大きいのが玉に瑕だな」

 ジャジラッドは思わず独り言を漏らしてから、
 気絶した商会員を引き摺って、小走りに部屋を出て行った。



 こちらはジャジラッドが出払っているのと同時刻。

「何も知らず、命令に従ってるだけの商会員さんもいるかもしれませんねぇ。
 バッサバッサと切り倒すのは忍びないので……ここはコレを使いますよぅ」

 正面を迎え撃つレティシアは、『さざれ石の短刀』を取り出した。
 要は敵戦力の無力化さえ出来れば良いので、これで石化を狙っていくつもりなのだ。
 事態が収束したら、頃合いを見て治してやればいい。

「来ますよ!」

 ミスティの得物は『魔杖キルシュ』。
 増幅させた魔力を解き放ち、レティシアと敵勢がぶつかる直前に牽制を行う。

「ナイスですよぅミスティ!」

 桜吹雪のような形状の魔力塊に、敵はわずかの間だが視線をとられた。
 その隙を見逃さず、レティシアは【歴戦の武術】で複数の敵に刃を浴びせる。

「ぐわっ!」
「ぐう……ッ」

 刃を受けた商会員達は、その身体が石化に蝕まれ、次々と無力化する。
 しかし―――

「喰らいやがれェッ!!」
「うっ!?」

 実は1人だけ、ギリギリのところで短刀を回避し、反撃してきた者がいた。
 反撃に使われたのは『アトラスの鉄槌』。
 ミスティの牽制の副作用で、レティシア自身の視界も悪くなっていたのだ。
 その影響で対応が遅れ、直撃を受けてしまう。

「しまった……レティっ!」

 ボーリングのピンみたいに飛ばされたレティシアは収納棚へとぶつかり、
 設置されていた花瓶を派手に粉砕した。
 周辺に散った破片の上に、レティシアの鮮血が滴り落ちる。
 ミスティは慌てて駆け寄り、【ナーシング】による治療を施そうとするが、
 当然敵がそれを待ってくれる道理はない。

「回復なんかしてんじゃねェ!」

 乱暴な口調で、再び『アトラスの鉄槌』を振り上げる商会員。
 ミスティが攻撃を避けるのは簡単そうだが、それではレティシアに直撃してしまう。

(やむをえないです……!)

 ミスティは【歴戦の防御術】の構えで攻撃を受け止めようとした。
 が、その直後。

「―――ぐああァァ!!?」

 商会員は鉄槌を振り上げたまま派手に身を踊らせ、
 得物を振り下ろす事ないまま地に崩れ落ち、動かなくなった。
 ミスティが振り返ると、機動力を失って佇む『装輪装甲通信車』の銃架部分のみが、
 こちらに向き直っていた。

「車内に潜んでいて正解だったわね。2人とも大丈夫?」

 どうやらセレアナによる援護射撃が行われたようだった。
 ミスティは感謝を示すためぺこりとだけ頭を下げると、
 すぐさまレティシアの治療に専念する。

「あちきとした事が、あは……油断しましたねぇ……」
「今は喋らないで、レティ。すぐに治せますから!」

 ともあれ、入り口クリアの情報をなななが流したことで、
 セレンを含め外にいた契約者達も、この場へ一斉になだれ込んできた。
 その中にはミスティと同じく治療の心得がある者もいたため、
 レティシアの受けた怪我は、ほぼ完全に治すことができたようだ。

 こうして、エネルギープラントの入り口は、ななな部隊が制圧することとなった。
 いよいよ地下エネルギープラント内部への道が開かれる―――。