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新興都市シズレの陰謀

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新興都市シズレの陰謀

リアクション

 地下エネルギープラント内の通路。

「よし、もう一度散開して調査するぞ。集合場所はこの地点だ」
「了解なのだよ。何かあったらテレパシーで連絡じゃな」

 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)らパートナー達と共に、
 地下エネルギープラントの構造を調べて回っていた。
 非常に広大なプラントのようなので、闇雲に動くよりは、
 施設の位置を割り出す役割を担った方が、効率的に事態を進められると考えたのだ。
 既にこの考えはななな部隊に進言し、探索の人員も借りている。
 今頃、他の場所でも甚五郎達と同じように、構造調査が行われているはずだ。

「おっけーですよ〜。時間も限られてますし、さっさと調べましょう〜」
「では、ワタシ達は向こうを調べてきます」

 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)はそう言って、
 来た道を少し戻った通路奥の扉を調べに、別れての行動を始める。



 道すがらも、ホリイは『ジェットブーツ』で素早い移動を心がける。
 地下にいると忘れがちだが、地上では今も鎮圧部隊が奮闘を続けているのだ。
 彼らに報いるためには、精一杯の時間短縮を計るべきだろう。
 ブリジットもそれは理解しているようで、『加速ブースター』を用いて追従する。

「確かこの先には部屋があったはずです〜。何か重要な施設かもしれないですね〜?」

 各地で調査がなされているものの、未だに重要施設の発見報告はあがっていない。
 逆に言えば、だんだんその位置を絞れてきているということなので、
 ホリイの言っていることも、案外的外れではなかった。
 やがて2人は件の部屋の前に辿り着く。
 ブリジットは閉ざされた扉と周囲の壁面などを確認したうえで、

「外からでは何もわかりませんね……入ってみない事には何とも」
「仕方ないですね〜。一気にいきますよ―――!」

 敵が中にいたなら、制圧戦になる。
 ホリイは『流体金属槍』を、
 ブリジットは『マスケット・オブ・テンペスト』をそれぞれ構えると、
 一層の気を引き締めて扉を開け放ち、室内へ転がり込んだ。



 甚五郎と羽純は、ホリイ達が向かったのと逆方面に歩を進めながら言葉を交わす。

「現時点で考え得る施設は―――
 強制労働場、人質の収容場、トップ連中の居座る部屋、といったところか?」
「エネルギープラントと銘打たれているくらいじゃ。
 捻り出したエネルギーの貯蔵庫のようなものもあるであろう。
 もしかすると強制労働場とセットになっているかもしれんがの」

 そこまで考えたうえで、羽純は目線を上に向ける。
 目線の先には少し高い天井があり、その付近にはパイプのような物が延々走っていた。

「やはり、あれがエネルギーラインと見て間違いないと思うのだよ。
 入り口から辿っていけば、貯蔵庫に辿り着けるかもしれぬ……」
「! 待て、羽純」

 甚五郎の制止を受け、ぴたりと動きを止めて前を見やる。
 羽純は上を向いていたので気づかなかったが、通路正面の突き当たりに扉があった。
 しかも、その傍らにはご丁寧に案内板のようなものがあり―――

「「防災センター……?」」

 そう刻まれていた。
 甚五郎はよいものを見つけた、といった風貌で、

「しめたな。おそらく地下エネルギープラントの消防を担う施設だ。
 火災発生場所の特定やスプリンクラーの起動が主な役割だろうが、
 副次的に全体マップを表示できるかもしれん」

 そうなれば、情報を複写して各部隊に回すことが可能だ。
 現在は手探り状態になっているななな部隊の進軍も、飛躍的に前進するだろう。

「じゃが、重要なデータを野放しにしているとは思えぬ。
 鍵などは壊せばよいが、室内で防衛についている商会員がいた時は―――」
「もちろん、押し通らせてもらう」
「じゃな。アレの正体を聞いた時点で、元より黙っておるつもりもなかったしの」

 羽純は剣の花嫁。
 同族が虐げられていると知った以上は、報復を考えるのが当然か。
 甚五郎とて容赦するつもりはないが、あくまで冷静に、

「念のため、ホリイとブリジットを呼び戻す。
 思った以上に、手厚い守りが敷かれている可能性もあるからな」

 そう断ってから、テレパシーによる連絡を開始する甚五郎。
 状況を確認したところ、ホリイ達の向かった先はどうやら休憩室だったようで、
 タバコの吸い殻くらいしか残されていなかったらしい。
 よってすぐに合流できるようだ。

「合流したら突入し、情報を引き出すぞ。それまでしばしの間、待機だ」





 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)も、
 『スパイマスクα』を使用した変装で商会員達を欺き、
 熾月 瑛菜(しづき・えいな)の居場所を暴こうとしていた者の1人だ。
 理由はもちろん瑛菜救出のためなのだが、現在はどうすべきか悩んでいた。
 先ほど柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)から、
 会員証が無ければ身分を偽る事は難しいという情報が回ってきたからである。

「会員証なら顔写真なんかも付いているでしょうから、奪っても無意味……。
 どうせバレてしまうのなら、端っから強制的に居場所を吐かせた方がいいわね」

 もともと騙し通せるかどうかは賭けな部分もあったので、
 第二プラン的にそういう考えもあったのだ。
 【先制攻撃】と【エンドゲーム】を併用すれば、詰問の場を作り出す事は簡単だろう。
 方針は固まった。

(瑛菜の状況を考えたら、救出にかけられる時間はあまり長くない。
 お願い、間に合って……!)

 ローザマリアは『ベルフラマント』で素早く身を包み、
 【光学迷彩】まで使用して完全に気配を消すと、
 瑛菜の居場所を聞き出すべく、孤立した商会員を探して徘徊を開始した―――。





 さて、風馬 弾(ふうま・だん)ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)のペアに至っては、
 既に商会員から、瑛菜の居場所について聞き出す事に成功していた。
 彼らは搦め手を用いず、出力を抑えた大剣状の【光条兵器】で、商会員を一閃。
 そうして弱った相手に目隠しをかけ、尋問を行ったのである。

「ねぇノエル……さっき言ってた宦官って何?」

 弾達が引き出した情報によると、
 熾月 瑛菜(しづき・えいな)保存庫と呼ばれる場所に幽閉されているらしい。
 大まかに位置も特定できたので、2人はそこへ向かっている最中なのだが、
 先ほどから弾はこの質問を繰り返していた。

「弾さん、知らないほうが良いことも、世の中には沢山あるんです」
「えー、そんなこと言わないで教えてよ。すごく気になる……」

 弾がこんな事を聞き始めたそもそもの発端は、ノエルの尋問のやり方にあった。
 その点はノエルとしても大いに反省するところだが、
 弾には純情のままでいて欲しいという願いも少なからずあるようで、
 宦官については聞かれるたび誤魔化し続けていた。

「あ、ほら、変な機材が並んでる広間に出ましたよ?
 商会員さんの情報が正しかったら、そろそろ保存庫に到着するはずです。
 弾さんも、気を引き締めないと!」

 確かに広間に出た。
 反対側の壁が見えないほどには広い空間で、今まで通ってきた細い通路とは大分違う。
 ところが、流れ的にノエルが“話題を変える作戦”に転じただけだという事は、
 弾にもすぐにバレてしまった。
 頬を膨らませて「教えてくれたっていいのに……」と不平を述べる弾だったが、
 いよいよ正念場が近いことは事実なので、仕方なく目の前に集中する。

「……あれ、僕の気のせいかな。何か聞こえる……?」
「気のせいじゃないですよ弾さん、私にも聞こえます。
 奥から響いてくるこれは―――、まさか、戦闘音!?」



 神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)神代 聖夜(かみしろ・せいや)陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)の4人が
 誰よりも早く保存庫に迫っていたのは、本当の偶然だった。
 確かに優達も瑛菜救出を目標として潜入してきたのだが、
 そのための具体的な策は持ち合わせていなかった。
 よって、【ディテクトエビル】や【禁猟区】、【イナンナの加護】などを使い、
 周囲を警戒しながら、地道に探索を進めるしかなかったのだが―――

「情報の共有を重視していたのが、功を奏したな」

 ほんの数分前、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が解析したらしいマッピングデータが、
 彼らの持つ『銃型HC』に届いたのだ。
 おそらく他の契約者やななな部隊にも周知されたタイミングだっただろうが、
 優達は図らずもその時点で、保存庫の目と鼻の先にいたのである。

「この分厚い守りを見る限り、送られてきたデータに間違いは無いだろうぜ。
 だが、このままじゃ突破できねぇぞ……!」

 さすがは重要施設といったところか。
 他の場所の比では無い、商会員の大群がこの場所を守っていた。
 ざっと見積もって20人……あるいは、それ以上の敵勢である。
 聖夜は【麒麟走りの術】で何とか弾幕を回避すると、脇の機材に再び身を隠した。

「ちょっとは顔を出せても回避で手一杯だ。とても反撃できそうにないぜ」
「どうする、優……? ここに隠れてても、耐えていられるのは時間の問題よ」

 零は不安の面持ちで語りかける。
 彼女の言う事はもっともで、止まらない弾幕で徐々に障害物は失われつつあった。
 じりじりと後退を繰り返していたが、それも限界が近づいている。
 不安感は刹那も感じ取っているようで、囁くように声をかけてくる。

「優さん……」
「わかってるが……この人数差では下手な小細工は通用しないだろう。
 今は撤退した方がいいかもしれない……」

 と、その時だった。

「ノエル! やっぱり、誰かが商会の人達と戦ってるよ!」
「私達も加勢します!」

 増援だ。
 優達の後方から、弾とノエルがやってきて合流してくれた。
 更に、

「瑛菜―――今、行くわ」

 2人に続くようにして、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)も姿を見せたのだ。

「苦戦してるみたいだな。俺達も手ぇ貸すぜ?」
「オレも行くぜ。それにしても瑛菜は人気があるな……」

 他にも如月 和馬(きさらぎ・かずま)(テンプルナイトの状態ではない)、
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)といった面々が、続々と合流してくる。
 特に驚くことはないだろう。彼らもはじめから、瑛菜を探していたメンバーだ。
 ここに皆が集うのは、甚五郎らが裏方に徹したことで結ばれた―――必然である。

「チャンスですよ、優さん!
 これで、こちらは契約者が9人……互角以上に戦えるはずです!」
「あぁ、感謝しないとな。
 刹那は零と一緒に、俺達のサポートに回ってくれ。
 先陣は俺と聖夜で務める―――!!」

 言い放ち、『野分』を抜き取り物陰から飛び出す優。
 特に合図を交える必要無しに、聖夜も逆サイドからほぼ同時に飛び出す。

「ふん、無駄だ! 少し数が増えたところで、こちらには倍以上の人員がいる。
 怯むなァ撃て撃て撃て!!」

 優と聖夜に向けられる弾幕は相変わらず弱まらないが、
 【スウェー】の回避や【疾風突き】による迎撃を駆使して、
 間一髪のところで攻撃を受け続ける。

「隙有りだわ!」
「注意が散漫ですよ……!」

 そんな中、物陰への注意が薄れるタイミングを見て、
 零は【稲妻の札】で端のほうから商会員を打ち倒し、
 刹那は【禁じられた言葉】でエンチャントした【天のいかづち】で広域殲滅を狙う。

「ええい、何をしている。前線のやつらは囮だ!
 接近されるまで最小限の人員で対処し、後ろの物陰付近を集中攻撃しろ!」
「「はっ!!」」

 しかし商会側には、前線で銃を構える者達に指示を下している人物がいた。
 彼の指示があってから零と刹那の魔法は通りにくくなり、再び戦線は膠着してしまう。
 注意して見てみると他の商会員とは違い、
 赤いスカーフに金色の刺繍で、J字型の紋様が入っている。
 おそらくあの中では一番偉いのだろう。
 ローザマリアはその事を最初に見抜き、瞬時に行動を組み立てる。

「指示を下している、幹部格の人物。
 彼を始末すれば統率が乱れて、一気に崩せるはずよ」
「……でも、最後列に退いているようです。
 前から詰めていかないと辿り着けないんじゃないですか?」

 刹那はそう思ったが、ローザマリアはここに来るまでと同じように、
 『ベルフラマント』を被り、【光学迷彩】を施しながら、

「私が気配を消して接近するわ。
 【ポイントシフト】で壁際に跳んで、壁伝いに距離を詰める。
 だから皆には、彼らの注意を正面に向けていてほしいの」

 既に優と聖夜が引きつけてくれているが、まだ敵側には余裕があるように見える。
 ローザマリアが奇襲を成功させるには、
 他の事を気にする暇がない状態まで追い詰めなくてはならない。

「そういう事なら任せてくれ。とびっきり目立つ隠し武装があるんだ」

 恭也はニヤリと口元を歪める。
 何か策がある、そんな様子だった。

「弾さん、どれだけ助けになれるかわかりませんが、私達も行きましょう!」
「そうだね。僕達だって、少しは気を引けるかも」
「んじゃ、オレは後方から援護でもするかな」

 ノエル、弾、和馬もそれぞれ商会員らの気を引くことに決める。
 零と刹那も戦線には参加できなさそうなものの、己の役割を見出し、

「攻撃を受けても私達が控えてるわ。みんな遠慮なく暴れてきて……!」
「回復ならお手のものですから、安心してくださいね」

 瑛菜救出の名の下、契約者達は一致団結する。

「ありがとう。私は幹部格に一撃与えて昏倒させたら、
 悪いけれど先に奥へ進ませてもらうわね。制圧は任せるわ」

 きっと、敵は追い詰められたら後退し、瑛菜を盾にしようとするだろう。
 それを防ぐ役目が必要だからだ。
 一同が頷いたのを確認すると、
 ローザマリアは隠密状態のまま壁際へ【ポイントシフト】。
 それが作戦開始の合図となり―――4人が一斉に機材の裏から飛び出した!

「いくぜ!」

 外から見てもわからないが、
 恭也は『ヴェンデッタ』や『メルトバスター』といった、
 体内に格納しておけるタイプの武装をいくつか持ち込んでいた。
 加えて、体長3m程度の黒狼のペット『影に潜むもの』まで複数連れ込んでいる。
 それらを―――全て同時に展開する!

「な、なによアレ……ッ!」
「狼の化け物だ!」
「落ち着け、まだ距離は遠い! 冷静に迎撃すれば問題ない……!」

 距離は遠いというものの、
 視界いっぱいに広がる敵性存在は商会員達に焦りを生じさせる。
 そんな状況下、弾とノエルはローザマリアと逆側の壁際伝いに急接近しつつ、
 少し大きめのボリュームでかけ声をあげる。

「今がチャンスだッ!」
「!! 前方に気を取られすぎるな、壁際から2人来ているぞ!」

 それこそが囮である事に気づかずに、幹部格は反応してしまう。
 そうして指示を受けた商会員達の注意は、ローザマリアから更に遠のいた。
 目的を達したところで弾は足を止め、大剣型の【光条兵器】で【ブレイドガード】。
 ノエルも庇うようにして壁を作り、銃撃の雨をやり過ごす。

「仕上げだな」

 優や聖夜、それに恭也の軍団が応戦する位置より後方から、
 和馬は【自動車殴り】で辺りの機材を片っ端から投げつける。
 味方に当たらないよう絶妙な放物線を描くそれは、
 次々と商会員達の眼前に落下して、副次的に電流を迸らせた。

「うわっ」
「あ、危ないわね……!」

 商会員達は弾道を遮られてしまったので、機材を回り込むように移動する。
 この時点でローザマリアは敵陣の後方に辿り着いていた。気づいている者は、いない。
 後は予定通りにするだけだ。

「……恨んでくれて結構。瑛菜を助けるためなら、私は鬼にもなる覚悟よ」

 後方など全く気にせず、指示を下すのに忙しい幹部格の男―――
 その無防備な背中を、グルカナイフ型【光条兵器】が一閃する。

「ガッ…………!!?」

 返り血を待つ前に、ローザマリアの姿は瑛菜の元へと消えていた。