First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
▼三章 疾走する者達
地下エネルギープラント・通電室。
ななな部隊は通電室なる場所まで順当に制圧を続けてきたところで、
いったん被害状況などを確認するために進行を停止した。
「通電室……この大きな電池みたいなもので、電気を起こしてるのかなぁ?」
副官が整理を行う間、金元 ななな(かねもと・ななな)は謎の装置に近づくと、
手で触れてみながら疑問を口にした。
シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)も傍らに歩み出て、なななと共に観察を行う。
「天井を張っていたパイプは、この部屋に収束してるみたいだ。
施設内の電力をここから供給していたっていうなら筋は通るね」
そんなやり取りを交わす間も、周辺の警戒は忘れていない。
この地点まで、シャウラは相棒のナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)と共に、
なななの護衛を専任で務めてきた。
シャウラは近い位置で襲撃を阻止し、
ナオキが横合いから狙撃で行動不能を狙うといったところだ。
これはシャウラにとっては、恋人を守りたいという個人的な理由も兼ねる行いである。
今のなななは集中的に狙われる立場なので、放っておけないのも無理はないか。
「指揮官の護衛は必要だが、戦局が安定した後は、別の任務も頼むぞ」
ふと軍勢の中から現れて声をかけたのは、夏侯 淵(かこう・えん)だった。
「引き上げの際に、すぐに護送隊が入れ替わるよう【根回し】をしてある。
シャウラ殿とナオキ殿にはそれを率いて、進軍の間ななな殿を守ってきたように、
撤収の間は敵幹部を守ってほしいのだ」
「さすが淵……手際がいいな。俺も、逃亡幇助を防ぐ任は必要だと考えていたんだ」
ナオキは淵に応じつつ、相棒にも同意を求める。
「なななの安全が確保された後なら、シャウラも構わないだろ?」
「あぁ、問題ないぜ。
商会トップや幹部連中が引き渡されるまでは、このまま維持でいいんだよな、淵?」
「うむ」
ここまで来ても、彼らは自らの足で踏み込みはしない。
何故なら、ここにいる部隊を代表して商会トップを捕らえにいった人物は、
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だからだ。
人間離れした技をやってのける彼女達には、そもそもついていく事が難しかった。
それに、とシャウラは先ほどまで共にいた者の率直な感想を述べる。
「剣絡みだからか?
口には出さないもののダリルのやつ、相当怒ってたように見えたぞ……」
そのルカルカとダリルだが、現在エネルギープラント全域を疾走していた。
走るなんて表現じゃ足りないかもしれないが……
とにかく【ゴッドスピード】による高速移動と、
【ポイントシフト】による直線ショートカットによって、
難しいと思われていた施設内総当たりを敢行しているのである。
「大丈夫、ダリル。バテてない……?」
「問題ない。それより前方に集中しろ。
商会長のジェラルドを見つけ次第、即確保に移るんだからな」
【ゴッドスピード】の発動についてはダリルがルカの分まで担当している。
そのため、【ポイントシフト】の連続運用でだんだんキツくなってきたルカルカは、
(私よりダリルの負荷の方が数倍大きいハズなんだけど……本当に大丈夫かな)
との考えに至ったわけである。
ダリルは感情だけで無茶をするような性格ではないし、
本人が問題ないと言っているのだから大丈夫なのだろうが―――
「それにしても、ジェラルドは一体どこにいるんだ……?」
最初は2人とも、当てもなく総当たりをしているわけではなかった。
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)によって同期されたマップに従い、
中央管理室なるものを目指して移動していたのである。
実質的に、エネルギープラント全体を管理している部屋だ。
そこにジェラルドのみならず、幹部格が集結していると思われたものだが、
「私達がついた時にはもぬけの殻だったよね、情報も全部抜き取られてたし……。
ここまで見つからないとなると、一度ななな隊の駐屯地まで戻ったほうがいいかも?」
「そうだな―――灯台もと暗しという可能性もある。引き返してみるか」
2人はこうして、来た道を引き返すことにしたのだった。
国頭 武尊(くにがみ・たける)ら一行も商会長のジェラルドを探しているのだが、
彼らの場合は、もう少し慎重な行動を心がけていた。
「そうか……情報提供、感謝する」
「た、頼むよ? 俺ぁ雇われて警備についてただけなんだ……」
「わかってるぜ。その辺はシーリルに任せておけばいい」
武尊が持ちかけたのは司法取引に準ずるもの。
ジェラルドの居場所について知っている限りの情報を提供すれば、
恐竜騎士団の上層部に掛け合い、刑罰について最大限考慮するというものだ。
ただし、武尊がいきなり取引をもちかけても、成功率は低かっただろう。
彼の仕事はあくまで抵抗の余地を奪い、捕虜を作るまでに留まる。
今回それ以上を成立させる事ができたのは、
シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の説得による効果が大きかった。
「ジュリエンヌ商会は大きな組織ですし、こんな事になるなんて思わなかったでしょう?
安心してください。あなたや、あなたの同僚の身柄は、
私達が責任をもって預からせて頂きます」
要は、大々的に踏み込んできている教導団に捕まって有無も言えなくなるよりは、
こちら側についた方が得だぞ、というわけだ。
もちろん、逃亡を幇助するわけではなく、あくまで実刑に関する交渉に留まるが。
「領事裁判権なんて言葉もあるが、
このシズレって町に関しては、管轄が明瞭になってね〜はずだからな」
猫井 又吉(ねこい・またきち)は融通を利かせられる理由を説く。
信頼に足る要素は、何かと挙げておいた方が得だからだ。
シーリルも頷き、捕捉説明を行う。
「つい最近まで取り沙汰にされない小さな集落であったことと、
両国の境界線上に位置している事が、主な要因ですね」
武尊は商会員が納得し、落ち着いたのを見届けて、
「さて、とりあえず、彼らの身柄はシーリルと又吉に任せるぞ」
「了解です。武尊さんは、商会長の元へ?」
「あぁ、彼の情報は信用できるからな。俺が直接行ってくるぜ」
そう言って立ち上がろうとしたが、又吉の抗議の声に遮られた。
「おい武尊。俺も商会長の元に行こうと思ってたんだが?
こいつらの見張りなら、シーリルだけでも十分だろ。
向こうの方がよっぽど大変そうに思えるぜ」
商会員から聞いた情報を元に考えるなら、又吉が言っている事は概ね正しい。
しかし、武尊は首を振って、
「……だからこそ又吉に残ってもらうんだ。
なるべく避けたいとは思うが、商会長の元に行けば、
【覚醒光条兵器】を出さなきゃいけない状況になるかもしれん」
【覚醒光条兵器】は強力だがデメリットもある……
使用中は剣の花嫁側が大幅に疲弊し、ほとんど動けなくなってしまうのだ。
シーリルだけを残してしまうと、そのフォローが利かないのだ。
「なるほどな。そういう事なら仕方ねえ、俺も残ってやるよ」
又吉は理由を説明されると、素直に頷いてそこに居直る。
「だが武尊、行くなら急いだほうがいいんじゃね〜か?
場合によっては取り返しのつかない被害が出るぞ」
「あぁ、商会長って役職から、
てっきり高みの見物決め込んでるもんだろうと思ってたんだが」
―――まさか、ななな部隊の駐屯地に向かって、
秘密兵器を持って単独で接近中だなんてな……。
地下エネルギープラント・保存庫。
グルカナイフ型の【光条兵器】で錠前を破壊し、
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は独房のような施設の中に踏み込んだ。
「瑛菜、私よ。助けに来たわ」
「ローザ……?」
現在、保存庫前で防衛戦を張っていた商会員達は、
神崎 優(かんざき・ゆう)、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)、如月 和馬(きさらぎ・かずま)、風馬 弾(ふうま・だん)などなど、
混成部隊として保存庫前へ集ったメンバーらによって拘束されていた。
幹部格の男を討ち取った事で商会側の統率が崩れ、制圧が可能となったのである。
案の定、追い詰められた一部の商会員は熾月 瑛菜(しづき・えいな)を盾に使おうと動いたが、
先回りしていたローザによってそれも食い止められた。
混成部隊側の完全勝利だ。
「SOSを出した時から、なんとなくローザは来てくれる気がしてたよ。
―――助けてくれて、ありがとう」
ローザは、ひとまず瑛菜が無事であったことに安堵して、
「親友だもの、当然じゃない」
「うん……そうだよね……」
「まぁ、だからこそ言いたい事もあるけど! それは後でいいわ。
他にも瑛菜を助けに来た人達がいるのよ。すぐに彼らと合流して治療を」
言葉を切ったのは、途中で気がついたからだ。
瑛菜には目立った外傷が全く無かった。
それどころか、疲弊した様子すら窺えない。
アテナ・リネア(あてな・りねあ)発見時の状況から察して、
相応の覚悟をしてきたローザは、肩すかしすることになってしまった。
「よかった、割と元気そうじゃない。急いで来た甲斐があったってことかしら」
「あぁ、それは……いや、長くなるしここで話すのはやめたほうがいいか。
待たせてる人達がいるんだろ?」
「えぇ、ここには瑛菜以外にも、捕らえられてる剣の花嫁がいたみたいなの。
今はみんなで手分けして、救出活動中よ。
そうだ……その中には、アテナを保護してくれた人もいるわ」
「アテナは、逃げ切れたのか。よかった……それだけずっと心配だったんだ。
その保護してくれた人には、重ねてお礼をしないとな―――」
その後、瑛菜は元気な姿を皆に見せようと、ローザと共に保存庫を後にする。
はやく地上にあがりたい、じめじめした空気はもう懲りた!
そうやって瑛菜は笑ってみせている―――もう心配いらないだろう。
アテナの容態についても徐々に回復しており、先ほど意識が回復したと情報が入った。
契約者達の活躍により、瑛菜とアテナの救出は、完璧に成功したのである。
舞台は再び地下エネルギープラント・通電室に戻る。
知っての通り、ななな部隊が駐屯している場所だ。
そこに先ほど、武尊から一通の連絡が届く―――
確定情報ではないと記載されていたものの、
その内容は無視することができないものだった。
よって、駐屯中のななな部隊は取り急ぎ臨戦態勢を敷くに至っている。
「俺にはどうも信じられぬ……本当に商会長がここに向かっているのか?」
夏侯 淵(かこう・えん)の一言は、ここにいる全隊員の心情を代弁していた。
それこそが武尊より届いた情報なのだが……
単独で脱出というならいざしらず、
敵陣のど真ん中に飛び込んでくるなど、正気の沙汰とは思えない。
「もしかして、投降するつもりとか……」
金元 ななな(かねもと・ななな)は、そうであれば理想的な形で事件を収束できると思ったが、
それについてはシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が否定する。
「いや、そのつもりなら最初から抵抗を見せないんじゃないか?
地上を各部隊が制圧した時点で、彼らに逃げ切るという選択肢は無かったんだから」
「気になるのは秘密兵器を持ってどうこうって記述のところだな。
それを持ってるから単独でも突破できるって考えたんなら、相当の業物だぜ」
ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)の推察には、一同は少しだけ身じろぎした。
なんにせよ誰かが警戒しておく必要性はあると見て、
シャウラは行動に移ろうとする。
「俺とナオキで様子を見てくるよ。
悪いけど淵、その間だけなななの護衛を代わって―――」
「がッ、ァァァアアアああああッッ!!?」
「「!!!?」」
大きな声が聞こえた。
まずは端的にその事実を受けて、この場にいる全員が音源となる方角へ向き直る。
そこで目に飛び込んできたのは扉だ。
扉がある位置までは何も無いので、声があがったのは扉の向こう側だと予想できる。
それから少し遅れて……
「な、なんだ今の音はッ!!」
「向こうから聞こえたぞ!」
「まさか見張りに出ている隊員の、悲鳴じゃ……!」
現状を理解した隊員から、次々に焦燥の声が上がる。
それはなななも同じで、
「お、落ち、おつち……落ち着いてみんなっ!!
敵の奇襲かもしれない。各自、臨戦態勢に……あれ?」
言われるまでもなく、ななな部隊の各員は既に臨戦態勢である。
それは情報が回ってきた時点で、こうなる事を回避するために敷かれたはずだった。
つまり、本来は敵の奇襲が成功すること自体が異常なのだが―――
とにかく、なななは自分自身が何を言っているのかわからなくなって、更に混乱する。
「落ち着いてななな。まずは真相の確認だ……ナオキ!」
「ああ」
ナオキはシャウラの呼びかけに応え、『焔のフラワシ』を【降霊】させる。
悲鳴のようなものがあがった扉の向こうを、覗き見るためだった。
しかし、フラワシが扉に接近したところで、その必要は無くなってしまった。
扉がべっこう飴みたいにひしゃげて吹き飛んだのだ。
そうして開けた視界の中で―――目の当たりにする。
「…………脆い」
現れたのはジュリエンヌ商会トップ・ジェラルドの姿と、
ななな部隊が見張りに就かせていた隊員3名の、無残な亡骸だった。
「そう、人間は脆いものだ。
この『6月の花嫁』を一振りすれば、
先の教導団員のように立ち所に掻き消えるはず」
呆然とする一同を気にせずに、
ジェラルドは独り言を呟きながら、剣の鞘のような物に手をかける―――
「お前達は人間か? それとも……化け物か?」
瞬間、引き抜かれた刀身にただならぬ力の収束を直感したなななは、
全隊員に向けて叫んだ。
「後退! みんな避けてッ!!!」
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last