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―アリスインゲート2―

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―アリスインゲート2―

リアクション

 【グリーク】の商業都市の空はまだ蒼く、遠雷も聞こえない時のことだった。
 アリサの影護衛の役目に暇を見出し、久しく来るこの未来的土地に忍装束の旧時代的な格好で紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は散策をしていた。
 ここはさほど空京と変わらない感じではあるが、浮遊する広告のレイヤーはそれ以上だった。わらじで道路標識のスクリーンレイヤーを踏んで進む。演劇場の公演予告、レストランの宣伝、金融、車、そして軍人募集『Want you』のラブコール。
「まるで一昔のアメリカみたいな求人広告だ」
 これで軍事指揮官にキャプテン・アメリカみたいなヒーローがいたら最高だろうが、似たような肉体改造型の契約者たちを何人も知っているので正直どうでもいい。
 と、そんなどうでもいいことに思考を巡らせつつ余所見をしていた。肩口に正面から何かにぶつかるまでは。
「おっと、大丈夫か?」
 ぶつかった後ろ結びの女性がよろめきながらも唯斗の横を通り過ぎようとする。ひどく慌てている。片方のヒールが折れてぎこちなく走る様はまるでウサギが跳ねているようだ。そのウサギを追うのは『メン・イン・ブラック』のKとJ。腕にハマっている機械的なグローブはスタンガンの代わりなのだろう。青いスパークが見える。
「どけ」
 と短く警鐘を鳴らされたが、唯斗は退かない。明らかに悪い人相――サングラスでわからないが――をしているのは黒尽くめであって、逃げる女性は――女性というだけで――護るべき存在だ。故に。
「――ふぉ?」
 Jが回転する世界ですっとんきょんな声を上げる。走る方向ベクトルは足払いと襟首を掴まれた事により回転が生じJの体を一回転させる。唯斗は《投げの極意》で彼を硬い地面に叩き付けて意識を奪った。
 人間の叩きつけられる音に女が足を止め振り向く。
「あんた何を――」
 するだと、言い終える前にみぞおちに拳が突き刺さる。強烈な吐き気に襲われたかと思えば次には顎に掌底が入り、脳震盪でその場に崩れた。
 地に伏したMIB局員をみてやれやれえと唯斗は首を振った。後ろにいる女性に声をかける。よく見れば女性の髪は乱れ服も土汚れが目立つ。必死で逃げていたのがすぐに分かった。
「アンタ、大丈夫? 暫くこいつらは起きあがれないから安心しなよ」
 事態が飲み込めないのかまだ焦燥していて女性は「なに」を連呼する。
「落ち着いて、今のうちに逃げるんだ」
 そう言うやいなや、唯斗の《殺気看破》が背後から迫り来るものを捉える。【九十九閃】を抜き、《ポイントシフト》で近づくそれに刃を向けた。自らの眼前には【M9/Av(魔獣ケロベロス)】の銃口があった
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)……!」
 現れた男に見覚えがあった。彼もまた唯斗に覚えがある。
「唯斗」
 名を呼び、そして真司は要求する。
「その女を渡せ。そいつはこちらの重要人物だ」
 数瞬の沈黙のち唯斗が問う。
「――話を聞かせてもらおうか」



 真司がMIBこと軍の工作員たちがラビットフットを商業区画で補足したとAirPADで連絡を受けたのがついさっきだった。国境の街の【グリーク】国境付近に待機していた彼はテレポートゲートを使い、すぐさまにそちらへと向かった。
 そして、この事態に至る。
 本来ならこれで事態は収束するはずだが――


 国境の街に一台の装甲通信車がある。その運転席に足を投げて座る柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が居た。AirPADをいじくりながら暇を余していた。
 そんな折に、ラビットフット補足の連絡がある。場所は【グリーク】の商業都市。その一画だと言う。しかし、今から車を走らせても都市内に入るのは少しばかり時間がかかる。何より面倒くさい。
「なんか脱走者って複数いそうだし……兵器とかもっているなら面倒だなぁ……」
 そういえばと、友人が商業都市をぶらつくと言っていたのを思い出し、《テレパシー》で連絡してみる。

恭也:あ、唯斗か。今ナニやってんだ? 暇ならちょっと手伝ってくんねぇ?

 とまあ、軽くラビットフット捜索の協力を申出したわけだが、

唯斗:恭也か? 確か車を借りていたよな? 悪いがお前に頼みがある。

 と、逆に協力を要請される。口調の早さから何か引っかかる。自分を助けてほしいというより、誰かを助けてほしいと言いたげな声にさらに尋ね返す。

恭也:……なあ、唯斗。お前は今、誰と何処で何をしてやがる?