蒼空学園

リアクション

　キャンプの様子は前と比べて少しは整然としてきた。
　未だ多くの難民が貧しい衣食住を強いられているものの、天幕の下にいることができるようになった。資材の木箱を椅子代わりに何もない日常を過ごす人たちの群れ。
　土埃に薄汚れた布の群れに小奇麗な服はよく目立つ。清泉　北都（いずみ・ほくと）はその集団の近くに運んできた清潔な布、水、食料と医療機器をおいた。
「新しい布と水を持ってきたよ」
　集団の奥、赤い修道服をすり減らした女性がけが人の包帯変えを手早く終えて向かってくる。パラミタ十字教団のクイーン、アリスティアだ。
「いつも助かります。こちらにお願いします」
　先に来て応急手当を手伝っていたリオン・ヴォルカン（りおん・う゛ぉるかん）の側に蒸留水をおく。《歴戦の回復術》があっても傷口が汚れていると傷感染症を後発することもある。オキシドールも欠かせない。
「北都こっちへ来て下さい」
　リオンが呼ぶ。なんだろうと思いながら北都は彼に近づくと。
「少し休憩……もふもふ……」
　リオンは《超感覚》状態の北都を膝に載せて彼の頭に生えた犬耳をいじり始めた。
「……」
　北都は気恥ずかしそうに口を曲げた。怪我人の近くで暴れるわけにも行かず唸るくらいしか出来ない。無尽蔵に多い怪我人の処置でリオンが疲れているのもわかっていた。
　いくらものを搬入できるようになったからとはいえ、数十万からなる難民を相手に慈善福祉をしていくのは限界がある。熱心なアリスティアにも少しやつれた色味がある。
　まずはこの区画を十分に雨風から守れるようにしないといけない。頭上の黒雲から水が落ちてくるだけで難民の体力が消耗してしまう。パラミタからの資材以上の多くのものがまだまだ必要だ。
　リカイン・フェルマータ（りかいん・ふぇるまーた）が清涼的にケセラン・パサラン（けせらん・ぱさらん）を漂わせながら、【ワールドぱにっく】の小人たちを使役する。雨に備えるためテント側面の幕を下ろしていく。風で頭上のシーサイド　ムーン（しーさいど・むーん）が揺らめく。
「すこし、風が強いわ。良くないものを運んで来なければいいけど……」
　文学的な語りで雷雲の雲行きに視線を添わせた。