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―アリスインゲート2―

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―アリスインゲート2―

リアクション

 一行を乗せたタイヤのない車は国境の街を離れて【グリーク】の軍事飛行場及び訓練基地へと向かった。さらにそこで軍用輸送機に乗り替わり、より高高度な空の旅と超音速の体感をすることになる。
 機内の内部重力圧は軽減されており、体感Gは1しかない状態。その最中、機内での短いブリーフィングが行われた。
 参加するのは、
アリサ及び
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)
 そして以下の二人。
 ミネルヴァ軍の敬礼を習うジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が旧知の上官に挨拶をする。
「お久しぶりです。フィンクス大将」
「今は退役なされたのですよね」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)がジヴァの言葉を訂正し、同じように挨拶を交わす。
「元空軍大将といったところだ。今は地方基地の管理役及び訓練教官の閑職勤めだ」
 官職権限の剥奪と閑職に追いやられているのには幾つもの軍事的な事情――主に、トロイア基地の防衛軍の人員的壊滅の責任と防衛任務の秘匿性が要因――があったのだろうが、降格を卑下する様子はない。高官の重圧から開放された軽快さすら感じる。
「向こうの世界ではマシューは元気か」
「はい、中将や【第三世界】から離れた皆もパラミタでは無事ですわ」
 イーリャが答えたとおり確かに彼らは無事だ。ただ、【第三世界】における記憶は改ざんされ、フィンクスや軍のことは何も覚えてはいない。その事は伏せて伝える。
 それはよかったとフィンクスは頷き本題に移った。
「今回の依頼についての詳しい話は向こうについてからになるが、私の口からも大まかに事のあらましを話しておこう。と言っても、退役の身から伝えられる事はあまりない」
 立体地図がテーブルに隆起し、首都周辺の【グリーク】の国土を縮尺する。その上空に旅客機の現在位置が表示される。
「今回君たちに協力を要請した内容は事前に知らせたとおり、軍内部からの脱走者とそいつの持ちだした戦略兵器を確保すること。これを軍の直接的な支援なしに遂行してほしいということだ」
 フィンクスの言葉にシリウスが眉を顰める。
「戦略兵器ってキナ臭いな。非人道的なものじゃないよな?」
「それは私にはわからない。私の退役後に中央基地で開発研究されたものだからな。持ち出されたものの正式名称は『空軍技術開発局開発軍事的特殊戦略兵器カテゴリーF―code020712―』、呼称は『スティレット』とされている。
 脱走した者の名前は聞かされてはいないが、コードを“ラビットフット”もしくは“三月ウサギ”と呼んでいる。それに因んで戦略兵器を“ティーポット”と暗喩している」
「三月ウサギにティーポットって『ふしぎの国のアリス』のお茶会ね。主催の帽子屋は誰だろう」
 サビクの冗談にフィンクスが言葉を返す。
「お茶会は研究、帽子屋は技術局のことに成るだろうな。彼らはティーポットがなくて紅茶を淹れるのに困っている」
「だからあたし達にそれを取ってこいってこと? こういうのって内部の不始末なんだし、来客が取ってくるものじゃなくて、イカレ帽子屋(マッドハッター)かドーマウス(ヤマネ)が取りに行くべきじゃない?」
 腕組みセレンフィリティが不満を漏らす。概要から察するにこれはアリスつまりは客人へのトラブルの押し付けだ。まさに「きちがいのお茶会」にふさわしい気狂いだが、これはどうしても客(アリス)が三月兎(マーチ・ヘアー)を追わなければならない。
「それはそうなのだが、問題はすでに『吹きこぼれ』が出てしまったことだ。軍(ドーマウス)が汚れを拭きに行こうにも、シミが出来てしまう恐れがある」
「つまり、その兵器が国内で使われたってこと?」
 セレアナにフィンクスは肯定する。客人たちはなんてことだと顔を覆い、天井を仰ぎ見た。
 なるほどこれでは軍が下手に動くことは出来ない。
 【グリーク】は中央軍事政権であり国民の信頼は総統のカーリー・レイブラッドを中心に軍に集中している。ただでさえ危うい革命政権でもある故、この期に及んで軍の極秘研究兵器が内部の不始末により流出し国内で被害を出したと知れ渡れば、国内世論は反政府の吹聴に流されて行くかもしれない。事件現場に軍が不用意に現れるだけでも何らかの悪い噂の流布が始まるだろう。
 そうなると、事に対処できるのは軍服を着ていない工作員か、軍に直接関係しない第三者による調査が必要になる。事態に置いて最も解決に適した人材は国外――それどころか世界外の協力者、つまりは彼らとなる。
 地図上、北側の海に面した海岸沿いの都市に赤い点灯。戦略兵器の使われた場所はここのようだ。地図を見る限り大きな損害を受けているようには見えない。
「まずは、君たちを中央基地で総統に会わせる。会う前に幾つかの注意事項を話しておく。向こうでの話が終わったら、事件現場の調査に向かう者たちはこの輸送機で送迎することになる」
 一時間弱のフライトの後、彼らを乗せた輸送機は【グリーク】の首都ジュノンに着陸した。