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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第3章 ヒトを捨てた災厄の僕の手 Story2

 エリドゥの町の出入り口では、すでに北都たちが襲撃者たちと対峙している。
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)のアークソウルの探知にかかった者の中には、エアリエルを強制憑依させている輩もいるようだ。
「校長に報告メール送らなきゃ」
「北都、俺の後ろにいな」
「うん、任せたよ」
 彼らの探知をソーマに任せてエリザートにメールを送る。
「あ…もうメールが返ってきた」
「なんだって?」
「えっとね。救助された赤い髪の子供は、終夏さんや陣さんたちが保護しているみたい」
「メンツ的に向こうは今の所大丈夫そうだな」
「うん、でも問題はこっちだよね」
 一箇所に逃がした町の人たちを見つけられては、守りながら戦うのはかなり困難。
 素直に帰るような連中ではないと、すでに十分すぎるほど理解している。
 彼らを捕らえるか退避させるか、どちらかの方法しかないのだ。
「可視のやつの傍に、不可視のやつがいるな。向こうも知恵をつけて行動してるってわけか」
 どちらかが囮となり、術を逃れたほうが仕掛ける手段らしく、ソーマはアークソウルに精神を集中させる。
「あわわ、北都。数が多過ぎます!」
「焦っちゃいけないよ。追い込んで祓おう、リオン」
「は…はいっ!」
「絶対通しちゃいけないよ」
 北都は低空飛行しながらスペルブックを開く。
「ほぉ〜。後ろにいるのかねぇ?」
 にやけ声の者に対し言葉を返さず“しまった”という顔を見せる。
「やっぱりか」
「真実なんて、見ただけじゃ分からないものだよ」
 わざとらしく通りすがってやり、相手の耳元で囁く。
「こいつ、よくも!」
 騙されたと分かり、骨の翼で北都を追いかける。
「魔の者を沈める清らかな雨よ…降り注いで穢れを祓い給え」
「―…ちくしょうがっ」
 降りしきる酸の雨を被ってもなお北都を狙い、墜落させてやろうと乱気流を起す。
「うっ、…ぁあ!」
「ボコにしてやる♪」
 砂へ転がり落ちる北都にロッドで殴りかかる。
「2度もひっかかるなんてさ、バカだよね」
「んだと、ガキ。てめぇ状況、分かって言ってんのかぁあ」
「はぁ…だから真実が見えなくなるんだってば」
 怒鳴る相手に対して、ため息をつきソーマに目をやる。
「な、なんだ。急に…」
「ははっ。本の章ほどじゃないが、痛いのには変わりないだろ?ただし、器のお前だけにだけどな!」
 北都が窮地に追い込まれたと見せかけ、結界石の神籬へ誘い込むトラップだった。
「リオンやっちまいな」
「可哀想ですけど仕方ないですよね。悪いことしたんですから」
 闇に堕ちた者を光りのヴェールで囲み優しく包み込む。
「嘘つきどもが、騙しやがって!!」
「そんなことしたつもりないけどね?何が本当か見てなかったから、逆に落とされただけだよ」
「こ、このやろぅ〜っ。嘘は悪いことなんだぞ!!」
 大声で叫び散らすものの、黙した北都に簀巻きにされる。
「ふぅ、話しているだけ無駄だね。…ソーマ、エアリエルは抜け出たかな?」
「いや気配が重なったままだな」
「うーん、早く離れさせてあげたいけど。今はちょっとそこまでの時間はないかな」
「じゃ、こいつ転がしておくか」
 1人に構っているわけにもいかないからと、結界の中に放っておく。
「何人か突破しちゃってるみたいだから、こいつらを何とかしなきゃだよ」
 建物が倒壊する騒音が、北都たちのほうまで聞こえてくる。
「スキルで飛べるんだったか」
「うん、小さな町ってわけじゃないからね」
「まぁ、中のほうには一輝たちもいるし。救助のほうは上手くやってくれるだろう」
「だといいんだけど。あ、和輝さんからテレパシーが…」
「(エリザベート校長より、纏められた報告メールを受け取った。だが、そちらは人数が少ない模様。状況報告せよ)」
 真っ先に人手がいるだろうと、侵入者を迎え撃つ彼らへテレパシーを送った。
「(ハイリヒ・バイベル使えるのが2人、宝石で探知できるのが1人っていう状況だね。応援頼みたいんだけど、誰か来れないかな?)」
「(了解。至急、送る)」
 そうテレパシーを送り、エリザベートからもらったメールへ視線を落とす。
「遠野とボック辺りに聞いてみるか」
 赤い髪の子供を救助に成功し、当面の目的は半分達成させれたのだから、砂嵐の中での囮より応援へ向ってもらったほうがよいかと考える。
「(ねぇ、和輝。アニスたちまだ外で活動するの?」
 自分たちは移動しないのか精神感応で話しかける。
「(全員離れては、やつらが退いていったのかどうか分からないからな)」
「(それってアニスたちが帰った後、どこかで町の人を狙ったりしないようにってこと?)」
「(あぁ、それもあるな)」
「(にひひ、了解♪)」
「(おっと。町の中の様子も、そろそろ聞かないとな。―…こちら和輝、そちらの状況報告を頼む。……何、…ふむ了解した)」
 一輝とのテレパシーを終えた佐野 和輝(さの・かずき)は表情を暗くさせた。
 彼らは第二の避難経路を作っている途中のようだ。
 まったく問題なく進行しているため、原因はそれではななく別にあった。
 それは、いつに犠牲者が出てしまったということだ。
 セレアナからメールを受け取った一輝が先程知ったらしく、なんとか助けられないだろうかという要請を受けてしまった。



「何かあったのか、和輝」
 珍しく悩んだ表情を見せる彼に、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が声をかける。
「かなり大事といえば、大事だな」
「ふむ…。応援に向ったほうがよいということか?」
「いや、祓う仕事とは別のことだからな」
「はっきり申せ」
 言葉を濁す彼を睨み、隠すなと口調を強める。
「普通ならありえないことをしなければならない…」
「なるほどな…」
 そのセリフを聞いたリオンは、とてもアニス・パラス(あにす・ぱらす)に聞かせられるような話ではないと理解する。
「(斉民、こちら和輝。大至急、町へ)」
「(そっ、そんなに急ぎ!?)」
「(一分一秒惜しい、速やかに行動するように)」
「(え……わ、分かった!)」
 和輝から連絡を受けた斉民は、急遽救助へ向うこととなってしまった。
 無事に助けられるか不確定だが連絡や情報管理などをする者としては、そればかりに気を取られてはいられず、砂嵐の中にいる者たちに町へ向うように告げた。
 残るは祭壇のほうまで到達した者たちだけとなった。
「(こちら和輝。校長への連絡がまだのようだ。状況を教えてもらいたい)」
「(少し策を考えていたところでした。グラキエス様が、黒い髪の子供の確保をしたいとおっしゃったので)」
「(な…、なんだと)」
 またもや和輝の頭を悩まさせる問題が降ってきてしまった。
「(向こうの手にあったままでは、安心できないということのようです)」
「(ディアボロスが祭壇へ戻るかもしれない。すぐに離れろ。それは置いていけ)」
「(しかしグラキエス様としては、何かお考えがあるようですが…)」
 危険要素は手元に置かないのは当然だったが、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)のほうも主の頼みとあっては譲れない。
「(つきましては、どなたか協力していただける方が来てくれるとありがたいです)」
「(―…では、ボックとクリスタリアに依頼する)」
 2人には町のほうを頼んだが、引き返してもらうしかなさそうだ。
「(すまない、祭壇のほうへ戻ってくれ)」
「(なぜですの?)」
「(グラキエスらが黒い髪の子供を回収するらしい)」
「(ふむ…分かりましたわ)」
 もしディアボロスが戻ってきてしまっては、あちらのクローリス使いに負担がかかるだろうと承諾した。
 一方、連絡受けて遠野 歌菜(とおの・かな)たちが町へ向う途中。
「エリドゥへ行く前に陣さんたちと一旦、合流しなきゃ。…きゃっ、何!?」
 突風でも起きたのかと思うほど、何かが通り過ぎていった。
「大丈夫だったか、歌菜」
「うん。平気よ、羽純くん」
「んもぅ。また磁楠から…」
 “まだ位置が分からないのか”などと、カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)の銃型HC弐式・Nへ文面が送られている。
「そんなに女神の私を見たいのかしら♪」
「冗談言っている場合じゃないだろ」
 無駄な想像している暇があったら走れと急かす。
「いいじゃないの、ちょっとくらい…」
「あっ、リーズちゃん!」
 なかなか来ない自分たちを心配したのかリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が探しにきたようだ。
「他にいないよね…。こっちだよ」
 アークソウルで注意深く気配を探り、歌菜たちを案内する。
「やっと来たか」
「だって磁楠が送った地図が分かりづらいんだもの」
「ポイントとなるものが何もないからな、仕方ない。それはそうと、連れて来てないだろうな?」
「失礼ね、私だってちゃんと考えて行動してるのよ!足跡なんか残してないわ」
 自分にはヴァルキリーの飛行能力があるし、パートナーの2人にはフレアソウルがあるのだから、そんなヘマはしないと睨む。
「ふむ、ならばよし」
「むっ、何かむっかつくわねぇ〜」
「あれ…、弥十郎さんと斉民さんは?」
 カティヤが受けた連絡には、確かに彼らもいるとあったはず。
 なのになぜいないのかと首を傾げる。
「町中で何やら、緊急事態が起こったようだ」
「そんなっ、何かあったんですか!?」
「しかも連中がエリドゥを襲撃しているらしい」
「女神様も速やかに出動しなきゃいけないってことだな」
「うふふ、任せておきなさい。悪いヒトに利用された子たちを、早く開放してあげなきゃね♪」
 棒読みで言われても気にせず、女神らしくにっこりと微んだ。