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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第8章 ヒトを捨てた災厄の僕の手 Story7

 口に出したらダリルに不謹慎だぞ、と言われかねないがカルキにとっては、数秒後に何が起こるのやらと少し楽しみだった。
 オメガが召喚したニクシーの水のバリアーに包まれ、裁きの章を唱え終えた淵はボコールをひと睨みする。
「大人しく捕まるがいい。さもなくば、器である貴様は少々痛い目に遭ってもらうぞ」
「へぇー、避けちまえば意味ナシだかんなぁー」
 ボコールはへらっと笑い、軽々と酸の雨をかわす。
「―…外したか。ベアトリーチェ殿、もう1度頼む」
「はい!」
「今度は逃しはせぬ」
 白の衝撃の雷で追い込むように陣たちへ目配せをする。
「ケッ、慣れればこっちのもんだ」
「そのセリフは、全てを避けきれたら言うのだな」
「っと…な!?」
 雷をかわしていたつもりがいつの間にやら、追い込まれていたことに気づく。
 空へ飛ぶことはもちろん、後ろにも左右にも動けないほど捕らわれたかのように、逃れられなくなっていた。
 声を上げた時には遅く、裁きの章の雨にうたれていた。
 こんなにも魔法耐性を削がれては、エアリエルを失いかねない。
 もはや撤退の二文字しかなく逃走するべきかと考えた瞬間、足が鉛のように重くなり砂へ膝をついてしまう。
「ほら、立てなくなったぜ♪」
 予言が当たりカルキノスはくくっと笑う。
「くそ、なんで急に!?…そうか、指差してガントをかけたのか」
「はー?違うし、お前らのような呪いと一緒にすんなや」
 術を考えた陣は不快そうにきっぱりありえんと言い放つ。
「それ以外ねぇーだろうが」
「運命を捻じ曲げてやっただけや」
 本来起こりえないことを予言によって実行された。
 ただ、それだけの話しなのだと彼を見下ろして言う。
「そんじゃジュディ、美羽さん。後、よろー」
「うむ、1人たりとも逃がさぬのじゃ」
「取り込んだ魔性を開放してもらうわ」
 動く術を失った彼らの中に、未だ捕らわれている風の魔性を開放しようと淡い光の霧を放つ。
 意識の主導権がエアリエルに移り、苦しげに呻きながら身体から抜け出ていく。
 しかし、諦めの悪い連中はまだ利用してやろうという気で、卑しき言葉で魔性をそそのかす。
「こいつ…再憑依させる気なんか。磁楠、リーズ!」
「あぁ、小僧に言われずとも…」
 陣の指先の方向へ合わせて重力場を形成しエアリエルを囲む。
 憑依する体力すらなくした風の魔性は、器から離れぐったりと倒れた。
「こりゃまずいな。磁楠、こいつらを簀巻きにしといてくれ」
「いったい何がまずいのか、私には分からんが」
 中にいた者には当然ながらエコーズリングによる雨はかかっておらず、魔性の姿を見ることが出来ない磁楠にはさっぱり分からない。
「自然治癒できるんだろうけど、それじゃ間に合わん」
「ミリィ、治療を頼む」
「え…風の魔性のですか?」
「そうだよ。陣さんが言うには、放っといたら消滅してしまうらしい」
「分かりました。やってみますわ、お父様。(こんなになるまで、道具のように使われてしまうなんて…。どうか、助けられますように)」
 アークソウルで感じられる気配が弱々しく、一刻も早く救いの手が必要なのだと感じ取る。
 ミリィはグレーターヒールを唱え、ボロボロになるまで利用されつくしたエアリエルを治してやる。
「気配の活力が…!」
「よくやったねミリィ」
「けど、喜ぶのにはまだ早いみたいですわ」
「まだ何かあるのかな?」
「いくつか気配が離れていこうとしています、しかも器と魔性…ふたつ重なったまま……!」
 逃がしてしまえば中にいる者は、いずれ消滅してしまう。
 そう感じたミリィが声を上げた。
「はいはい、逃げられるわけないっつーの」
 陣は炎の翼を広げ、ジュディを抱えると逃走するボコールを追う。
「ぬ、見えなくなってしまったのぅ」
「ルカさんが使った術の効果がきれてしまったんやな。ジュディ、風向きの方へ撃て」
「うむ。だがな陣、神速で走られたのでは引き離されてしまう気がするのじゃ」
「んなこと言っても、諦めたらそこで終了やぞ」
 逃走を許してしまえば、おそらく取り込まれているエアリエルは必ず死ぬ。
 破壊というくだらない目的の道具にされ、もっと長く生きられたはずの先を無断で奪われてしまう。
「いい加減、そいつらを開放しろってーの!……くそ、逃げんなやーーーっ!!」
 どんどん豆粒のように視界から遠ざかっていく彼らに向って、大声で怒鳴り散らす。
「あれは、…陣さん?」
 合流しようと戻ってきた歌菜が、陣の声に気づき目を丸くする。
「なんだかすごい形相だったわね?」
「おい、なんかいるぞ」
「どうしたの、羽純くん。……あっ」 
 何事かと目を向けると小さな人影を見つけた。
 かなり遠く離れているが、ここら辺で黒フード姿といえばやつらしか考えられなかった。
「俺が行く、2人はそこで待ってろ」
「ええ!?ちょっと、羽純くん!」
 私も行くと言おうとしたが、置き去りにされてしまった。
「陣、フレアソウルだけのスピードじゃ追いつけない。全力で加速してやる」
「よろしくたのんまっ」
 時の宝石の力で限界まで速度を上乗せしてもらい、逃走を続けるボコールを追跡する。
「待てやぁあーーーー!!」
「げぇー、もう来やがったか」
 鬱陶しい祓魔師たちめ…と思いながら、ホールドしてやろうとトゲ縄を陣たちへ飛ばす。
「(ペンダント使い、なめんなっ)」
 半円状にかわしエアロソウルに祈りを込め、大気を振動させる。
「ジュディ、やれや!」
 圧縮した風圧を槍のように放ち、ジュディにスペルブックを使うように言う。
 彼の指示のタイミングに合わせるべく、ゆっくりと詠唱していたジュディが頷く。
 放たれた魔術の方向に合わせて酸の雨を降らせる。
「まだやぞ」
「む…っ」
「俺が止める。その間に、哀切の章を唱えるんだ」
 羽純は急降下していきエアリエルを魔力元を減らそうと、大地の力を込めた拳でボコールの背を殴りつける。
「なんだぁ?痛くもなんともねぇーぞ」
「あぁ、そうだろう。中にいるやつにはすまないけどな…」
「まっ、よくわかんねーけどさ。わざわざやられに近づいたようなもんだよなぁ?」
 にやりと笑みを浮かべ、羽純にトゲ縄を絡みつかせホールドする。
「おいおい。俺ばかりに気を取られていいのか?」
 一見危機的な状況に思えるが、想定内であり引きつけるためのわざとだった。
「貴様…まさか」
「やべっ、魔術が飛んできやがる。…のわーっ」
「ふ、愚かじゃのぅ♪」
 砂地へ降りたジュディは、哀切の章の力で倒れた者たちを縛り上げる。
「まったく、手間かけさすなってーの」
「捕まってしまったのだし、中の魔性を開放したらどうじゃ?」
「へ…やだね」
「ううむ。おぬしらを小さくし、瓶詰めにする手段もあるのだがのぅ」
「けっ!やれるもんならやってみやがれ」
「むー…」
 瓶をチラつかせて脅してみるが、屈する様子を見せなかった。
 章の効果の対象になりうる存在なのだから可能だろうが、仲間がなんと言うか分からない。
「はぁーもう、どこまで行っちゃったのかな…。……いた!おーい羽純くーん、陣さーん!!」
 2人の姿を見つけた歌菜は、息をきらせながら駆ける。
「あ!ジュディちゃんもいたのね、気づかなかった」
「我は運ばれていたからのぅ」
「酷いじゃないの、羽純くん。私たちを置いていくなんて」
「すまなかったな、歌菜。そう怒るな」
 頬を膨らませる彼女の頭を、軽くぽんぽんと叩き謝る。
「ボコールたちはそこにいるね?」
 カティヤからは不可視化している彼らは見えず、縄だけ浮いているように見える。
 アイデア術の効果のおかげで、気配は分かるが視界に映ってはいない。
 いつ見ても不可思議な光景だ。
「素直に来ないと、女神の私がどうなっても知らないわよ?」
「―……チッ」
「さっ、皆心配していると思うから戻りましょう♪」
 縄の端を掴んだカティヤは捕縛された者たちを無理やり立たせ、仲間のところへと戻った。



「アステカの一柱テスカトリポカと同名、しかも赤と黒とは面白い。白と青も存在するだろうか?」
「それですと心臓1つでは、足りないということになってしまいますよ」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)の呟きにかぶりを振り答える。
「同一となる存在であれば、その全てが必要となるわけですからね」
「パラミタでは赤と黒だけが対とし、他は存在しないということか」
「えぇ、そうなります」
「地球の古代史ではヤヤウキ・テスカトリポカは、煙を吐く黒曜石の鏡の意味を持つのだったか。あの黒髪の子供の能力に鏡や煙があったら面白い偶然…」
「グラキエス様、こんな時にも考古学ですか」
 だんだんと独り言になっていくグラキエスに、好奇心旺盛なのはよいことですが…と小さく息をつく。
「いや、古代パラミタと地球は繋がっていて……」
「思考を遊ばせるのは、この件が終わってからに」
「―…悪い、そうだったな」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の咳払いで、ようやく彼の声が耳に入った。
「エキノ、体調はどうだ?」
「ウチはかか様の精神力もらっているので平気です…」
 自分よりもクローリスとしての能力を使い続けている緒方 樹(おがた・いつき)のほうが心配でしかたがない。
「タイチのお母さん、どうぞ」
「苺ドロップか、有り難い」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)から苺ドロップを素直に受け取り口へ放り込む。
「お前たちの体力の消耗具合は?」
「俺のほうは自前の回復剤があるので問題ない」
「アタシもちゃんと持ってるし。これくらいの自己管理くらいできなきゃね」
「ふむ、ならよいのだが。で、どうだ、通信機は使えそうか太壱」
「ばっちりだぜ、お袋」
「現状を本部に伝えろ」
「了解!」
 服のポケットから携帯を取り出し、エリザベートに電話をかける。
「あー、もしもし。俺だけど」
「バカ者っ、きちんと名を名乗れ」
 無礼なかけかたをする馬鹿息子に鉄拳をくらわす。
「(んなことくらいで一々殴るなよ…)」
「何だその目は」
「―……ぁ…いや、あのな、校長」
 樹の仕置きで会話が途切れてしまい、校長に“何か御用なのでは?”と言われる。
「砂嵐の中に祭壇があったことと、黒い髪の子供のことは他のやつから聞いたか?…そっか、もう報告を受けているんだな。で、俺らそいつを今から奪還しに行くんだけどさ」
 緒方 太壱(おがた・たいち)の思いがけないセリフに、“なんで災厄を連れてくるんですかぁ!?”と耳を突くような大声で言われた。
「あっちにベースがあったら、何らかの手段で対の心臓また狙うかもしんねぇし?」
 エリザベートは“仮に連れて来てしまったら封印するしかない気が…”と言葉を返す。
「へ…。んまぁ、手は後々考えられないかなってな。あれって、いきなり動き出したりしねぇよな?」
 “えぇ。トラトラウキの心臓を得ない限り、目覚めませんので活動することはありえません〜”と告げられた。
「だよな、よかった…。でさ、もうちっと助っ人ほしいんだけど、誰か来れそうなのいないか。う〜ん、あー…分かった」
「誰か来れそうか?」
「それがちと難しいかもって」
「他のエリアの現状を把握しているのって、和輝君だったよね?」
 情報管理を全て引き受けているのは彼だけのはず、と緒方 章(おがた・あきら)が言う。
「テレパシーをもらうしか手はないね。たぶん、今は誰もつなげてもらってないと思うけど」
 メンツの顔を見てテレパシー会話している者がいないことを確認する。
「人員をこちらへ集中させられないしな」
「そうだね、樹ちゃん。他のエリアを手薄にしてまではできないからね。幸い、まだディアボロスは戻ってきてないみたいだし急ごう」
 トラトラウキを救出したメンバーを追って行ったきり、祭壇へ戻ってきていなかった。
 この機会を逃してはならなず、速やかに策の実行を始めた。