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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・後編

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第7章 ヒトを捨てた災厄の僕の手 Story6

「歌菜ちゃんたち、まだかなぁ」
 カティヤや羽純たちが近づいたら、アークソウルが反応するだろうと思いリーズはペンダントに触れる。
「あっちは人手がやばいみたいやし、仕方ないって」
「だよね。弥十郎さんたちは、なんかすごい慌てて行っちゃったし」
「お、噂をすればメールが。えぇーっと、町の人の救護してたみたいやね。おわっ、死者がでてやばかったみたいやな」
「ホント!?だからあんなに急いでたんだね」
 助かったのか気になり陣の携帯画面を覗く。
「すごい…、蘇生が成功するなんて」
 死者を甦らせることはまさに、神に等しき奇跡の所業。
 リーズは驚きのあまり、自分のペンダントの中にある藍色の宝石へ目を落とす。
「ボクでもそのうち、できるようになるのかな?」
「まっ、努力あるのみやな。それだって確実にってわけやないし。仮に生き返るからって、簡単に死なせていいものやないぞ」
「む!ボクだってそれくらい理解してるよ」
「全てを救うのは難しいことや。それだけはリーズ、お前も覚えておかんとな」
 世の中には思ったことが100%実行されるとは限らない。
 どうしても助けたくとも、手をすり抜けて掴みきれないことだってある。
 過去にパタミタでできた妖精の友達を救出できたが、それだって1度失ってしまったことには変わりなかった。
 本当に死んでしまえば、二度と見ることも会うこともできない。
 そんな悲しみが何度やってこようとも慣れるものではないし、慣れたいとも思わない。
 家族や大切な人を失えばどんなに悲しいことか、この町の人にもそれは同じことだった。
「命を軽く扱ったり、道具のようにするなんて。絶対、許せんことや」
「…うん、分かってる」
 ボコールの目的のために、命に等しい心臓を狙われているトラトラウキに目をやる。
「トラちゃん、心臓がないとどうなるのかなあ。オメガとアルファみたいに違う解決方法はないのかな」
「あの時は双方とも自由に動けたし、魂という物理的なものではないものを与えればよかったが。今回は、そういったものではないからな」
 別々の固体として存在するに至るには、難しいだろうと淵が言う。
「んー、ダリルはどう思う?」
「俺は…まだなんとも言い難い」
 というのも自分たちの事情で、1人きりにして閉じ込めるような結論にかなり抵抗感があり言えなかった。
 何年閉じ込められていたのか、館でたった1人で生活するしかなかったオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)のことを思い出していた。
 育ての親である水竜ですらおそらく術を解くことができず、彼女を解放することができなかったのだろう。
 彼も何らかの立場上、ずっと娘の傍にいられるわけではない。
 館の前でどれだけ待とうが、やつらは姿を現さなかった。
 夜中に1人きりで寝起きする寂しさ、館の中に話し相手がいない孤独感。
 それらは想像しきれないほど辛いものだったに違いない。
 またそれをトラトラウキにさせてたくはなかった。
「災厄を招く存在って時点で、アルファとはだいぶ違うのかな…」
「ルカ、なぜそう思う?」
「アルファも破壊衝動があったけど、けどそれは“触れられる、触れたもの、それらを壊してしまうことの恐怖”ってことだったわ。“壊したい”とは違うんじゃないかしら」
「―…確かにな。なぜ、壊してはいけないのか、どうして殺してはいけないのか。そういったものを理解していないのかもしれないが…。いや、仮に理解していたとしたら、どのように教えるべきか…だな」
 持って生まれた性質ならば、教え導くのはかなり困難そうだと言う。
「ダリル。ルカ、危ないからって滅するのは反対よ!」
「心配するな。皆、思っていることだからな」
「話中のところごめんね。アークソウルが反応しちゃったんだ」
「カティヤさんたち?」
「残念だけど不正解っぽい」
 大地の宝石が不気味な色合いを見せ、魔性を取り込んだ者たちの接近だと知らせている。
「なんだろう、……植物のトゲ?」
「あいつらの呪いだよ、避けて!!」
 リーズはルカルカたちに時の宝石の能力を与え、迫りくる呪いのトゲをかわさせる。
 姿無き者たちがケラケラを笑い声をもらす。
「ボクたちが詠唱の時間稼ぎするよ」
「ぇえ…!」
 仲間よりも招かざる客が先に来てしまい、ルカルカはハイリヒ・バイベルを開く。
「エコーズ、裁きの章II!エコーズ、レインオブペネトレーション!」
 ルカルカの詠唱にリングが反応し、雲ひとつ無い青空に曇天が広がる。
 スコールような大雨が不可視の者に降りかかり異形の姿を暴く。
「強化したアイデア術、使わせてもらっちゃった♪」
「その辺はセルフサービスみたいなもんだね」
 ヴァルキリーの翼で舞いながらにんまりと笑顔を見せる。
「余計なまねをっ」
「んぇ、頭になんか浮いた」
「あいつらの黒魔術ね。…ダイル!」
「分かっている。……お前に予言してやる、風の刃はリーズに中らず、そよ風となって散ってしまうことだろう」
「なんだぁ?命声なら、その聖書にでも書き記すなんだな」
「その心配は無用だ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に目配せをし、白の障壁をドーム状に展開し自分を囲む。
「突っ込んでくるんなんて愚かとしか思えねぇぞ。リーズってあのチビだろ?じゃあ、お前ならいいんだな?」
 アホめと笑いダリルをターゲッティングし、グラインダーのような風の刃を放つ。
「はっはっは、パッツーンって割れちまいな♪」
「ダリルを割っても美味くねぇーぞ?」
 冗談めかしたように言い、裁きの章による雨を降らせ器の魔法防御力を下げてやる。
「…っ、そんなことしたくらいじゃ、黒魔術は止められねぇえ!」
「あぁ、止める必要も無い。掠り傷与えた程度で、倒されるんだからな」
 刃に掠められた頬は薄っすら傷つき、上着の脇部分が少し切れた程度だった。
「な、なんでだ。まっぷたつだろ、普通っ。ありぇええーー」
 やつは切断されるはずだ。
 そう想定していた彼はダリルの接近を許してしまい、哀切の章の祓魔術を受けてしまう。
「(こうなったら、あの小娘だけでも…)」
 残された最後の魔力を全て、リーズに叩き込んでやろうとエアスライサーで断裂させようと狙う。
 しかしターゲットへ向うことなく、そよ風となってあっけなく散ってしまった。
「―………、ちくしょうがぁあ…」
 黒魔術が掠り傷で終わり、ターゲッティングしていた娘にすら風の刃が不発。
 目の前の現実がまったく理解できず、残る全ての力を使い果たし意識を失った。



 不可思議な出来事に倒れた仲間を前に、ボコールたちは動揺を隠せないでいた。
 だが、彼はきっと遊んでいたせいでやられた。
 さっさと赤のテスカトリポカの心臓を奪わないからこうなったのだ。
 最大の目的であるこの子供を奪還して帰還すればよい。
 狙いをトラトラウキに集中させ、神速で駆けていく。
「おげ、こっち来た!」
「陣さん、その子をこちらへ」
「ベアトリーチェさん、パスッ」
 背負っていたトラトラウキをベアトリーチェに投げ渡す。
「…うわ〜、陣くん手荒すぎ」
「うっさい!優しく渡せるような状況やないっつーの」
「あ、目を覚ましてしまったようです…」
 片手で小型飛空艇オイレを操縦しながら、片腕に抱えている子供の顔を見る。
「あなたは…」
「怖かったら目を閉じちゃってくださいね」
 ボコールから離れようとトラトラウキを抱き寄せ、小型飛空艇の速度を限界まで上げた。
「ベアトリーチェ、ターゲットされちゃってるわ!」
「ぁあ、呪いが…」
 いっせいに放たれたトゲ縄が、機体まで到達しようとしていた。
「スーちゃん、白いお花の香りを!」
「わかったー」
 真っ白なパラソルを広げたスーは、くるくると回し花びらを散らす。
 “娘を呪ってやった”とニヤけたボコールの顔は、スーの香りに邪魔され怒りの表情へと変えた。
 “バラしてやる!”と怒鳴り、狂気の刃を乱雑に放つ。
「お父様、ベアトリーチェさんが!」
「(あれでは何も守りの手立てがないと…)」
 生命を壊そうとする黒魔術から守ろうと、白の障壁を白い球体化させ重ねて囲む。
 殺意の込められた刃がけたたましく騒音を立て、2人をミンチにしようと接近する。
 “この子がいるから無理に避けれない” 
 トラトラウキが傷つかないように、ぎゅっとベアトリーチェが抱き寄せる。
「どうして…、オイレの速度が……」
 エンジン部分に異音が鳴り、急速にスピードが落ちていく。
「もしかして初めからこれを?」
「ベアトリーチェ殿、小型飛空艇から降りるのだ」
「はい、この子をお願いします!」
 トラトラウキを淵に託し、黒魔術にやられて故障した小型飛空艇を乗り捨てた。
「石にしてコロコロしてやるっ」
 獲物を抱える淵を石化させようと、ロッドの水晶玉から灰色のアメーバー状のものを放出する。
「わたくしの後ろへ」
 ミリィはアンバー色の光の壁を作り出し、ペトリファイから2人を守る。
 石化の魔法は生き物のように、進入する隙を探してねばねばと這い回り続けている。
 術者の性格が現れているのか、あまりの不気味さにミリィは不快そうに顔を顰めた。
「淵さん、支援します」
 ベアトリーチェは贖罪の章のページを開き、静かに詠唱を始める。
「なんだぁ、小娘。邪魔すんならてめぇから石にしたろうかぁあ」
 ギロリとベアトリーチェへ目を向け、石にしてやろうと睨む。
「キミのほうが邪魔なんだよ、べーっだ。陣くん、雷落としちゃおう」
「覚悟しろや!」
 白の衝撃による魔術を行使し、聖なる雷を走らせ退かせる。
「おっとと、危なっ♪」
「そうでもねーぞ?お前に予言する。数秒後、立っていられなくなるぜ」
 ボコールを指差したカルキノスは、顔をにやつかせ予言してやる。
「はぁ?なんだそりゃー」
「さぁて何が起こるやら」
「楽しんでいる場合じゃないぞカルキ」
「へいへい♪」
 ダリルは生真面目だなぁと心の中で言い、尻尾をぱたぱたさせ聞き流した。