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No.2 パーティーの開催、妨害、それイベント?


 いよいよパーティの当日を迎えた。
 日が昇る前から、チズやライス達は既にパーティ会場へと足を運んでいた。

 「今日はマジカラットをお招き頂きありがとうございます」
 マジカラットのメンバーを代表して、白波 理沙(しらなみ・りさ)はライスに頭を下げた。
「いえ、こちらも催し物を考えていた所でしたので助かります」
 執事のライスは手にしていたパーティの進行表を見せてきた。
 チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)は進行表を見て、ライスに尋ねた。
「タイミングはどうしましょうか?」
「準備はして頂いて、ステージ下で待機を御願い致します。勿論、待機中のお食事はパーティで出ているものと同等の料理を準備させて頂きます」
「衣装はどうします?」
「衣装ですが、アイドルユニットという事ですのでフリフリのアイドル衣装で御願い致します」
「わかりました」
「そういえば、マジカラットの由来は何です?」
「ユニット名は仮だったんですけど、それで何度も出演してしまった為に変えにくくなってしまったんですよ」
「ははは……」
 白波 舞(しらなみ・まい)が笑っているが、声が乾いている。
「はあ……」
「それで、パーティの運営は大丈夫なの?邪魔が入るかもって聞いたんだけど」
「ジョージ様が何を考えているのかは私共にも分かりません。……念の為にという事です」
「おっけー☆何があるか分からないけど、とりあえず妨害の対応を考えればいいんだねっ!」
 愛海 華恋(あいかい・かれん)だ。
「はい、御願い致します」
「お嬢様に直接的な攻撃は無いと思うけどそういうのも考えた方が良いのかなぁ?」
「ジョージ様もお嬢様に直接危害を加えるような事はしないと思います。ジョージ様が欲しているのは当主の座であって、お嬢様の命ではありません」
「要するにパーティの参加者にこのお嬢様がパーティを成功させたと思わせればいいんでしょ。で、ついでにその妨害してる性悪なオジサンの証拠もつかんで暴露しちゃえばいいんじゃないの?」
「こら!……あ、すいません」
「そんな姑息な事にチカラ入れてる暇があったら正面から正々堂々と自分が他の人から支持されるようにすればいいのに。あぁ、そういう能力に自信が無かったから影でこそこそ妨害してるって事かしら?」
「もうっ!」
「良いじゃない、理沙。本当の事なんだし」
「すいません……」
 申し訳なくなり、理沙が頭を下げる。
「いえ、御気になさらないで下さい。過激な事は無いと思いますが、宜しくお願い致します」


 「それはあちらに御願いします。はい、その位置で御願いします」
 柚は据付業者にキビキビと指示を出していく。
 柚の担当は会場準備である。今は、イリスフィル邸から出された調度品の配置指示を行っていた。
「これは何処に置く?」
 三月はテーブルを会場内に運び込んでいた。
「配置図があるから、寸法通りに御願い」
「分かったよ」
 再びテーブルを持ち上げると、配置図の位置へと運んでいく。
「案内板の設置も御願いね!」
 柚が遠くから叫ぶ。
「分かった!」

 「柚。招待客から送られてきた花束はどうする?」
 海が送られてきた花束を柚に見せた。
「花瓶も準備しているから、活けて飾ろうと思うけど」
「後ろにもまだ沢山あるんだが……」
 海の後ろを柚が見ると、届けられた花束が多くあった。
「……ぁう」
「……頑張れ」

 「あの……これは何処に置けば?」
 凹む間もなく、間髪いれずに他の業者がやってくる。会場に置くフラワーアレンジメントの業者だ。チズや海達と選んだ花を元にパーティ会場に装花を行ってくれる。
「あ、はい。ご案内します」
「ごめんね、海君」
「気にするな」
 ペコッと海に頭を下げ、柚は業者を設置位置へと案内していく。
「ここに御願いします」
「わかりました。完成したら、確認を御願い致します」
「はい、それでは失礼します」

 「ふぅ……」
 柚は溜まった息を吐き出し、業者用の昇降階段にそっと腰かけた。業者への指示が終わり、束の間の休息だ。
 会場を華やかに飾り付けるための仕事はまだまだある。
「ほら……」
「……」
 柚の目の前に、コーヒーが差し出されていた。一寿が業者達の為に準備したものだ。
「お疲れだな」
「ありがとう」
 紙コップを受け取る。それはほんのりと温かった。
 熱いコーヒーで、たくさん喋った喉を潤す。
「……成功すると良いね」
「ああ。上手くいくさ」


 「よう!」
「こんにちは」
 会場で準備の指示を出していたライスは、山葉 涼司(やまは・りょうじ)山葉 加夜(やまは・かや)夫婦の声で振り返った。
「やあ、良く来てくれたね」
 旧友の来場に嬉しそうにライスは二人を迎えた。迎えたが、ライスは不思議そうに涼司達を見ていた。
「確か……招待状は出した筈だけど?」
「ああ、ちゃんと届いているよ。ただ、手伝いを言ったのは俺だからな。俺達だけ招待客としてパーティを楽しむ訳にはいかないからな」
「そう……逆に気を使わせたみたいだね」
 涼司と加夜の服装は、パーティ用のタキシードやドレスではなく私服である。
「服はあるんだろ?」
「うん、涼司は僕と同じで良いよね?」
「ああ」
「加夜さんにはウェイトレスの服がありますので、準備します」
「ライスさん」
「はい」
「途中で催し物があるかもしれませんが、チズさんには当主らしく何があっても堂々としていて欲しいです。私達も協力しますから」
 加夜は笑顔でそれを伝えた。
「ありがとう。お嬢様なら大丈夫です」

 「そうだ、警備配置を考えなくちゃ」
 パーティの手伝いとして、着替えた涼司と加夜はパーティ会場を見て回っていた。
「そうだな。ただ、何人か既にウェイターなどに変装して警備として協力してくれている。あまり広範囲のカバーは心配しなくて大丈夫そうだ」
「そうなの?」
「ああ、加夜は俺と一緒に来賓の警備を頼む」
「うん。それと、ジョージさんは自分で動くかな?」
「いや、ライスと話をした限りでは誰かを使いそうなタイプだ。怪しい人物が近くにいないか、注意をしていくしかない」
「来賓の周囲を注意するね」


 「おはよう。手伝いに来たよ」
 カル・カルカー(かる・かるかー)達はライスに挨拶した。
「ありがとうございます」
「ねえ、チズはどこに居るのかな?少し話をしたいんだ」
「お嬢様でしたら、あちらに」
 ライスはそちらに目を向けた。チズはスタッフに何か指示をしているようだった。忙しそうだが、遠慮しているほど時間も無い。
「ありがとう」

 「チズ、お疲れ様」
「お疲れ様です。何かありましたか?」
「ジョージ叔父さんとは何か進展があった?」
「……いえ。あれ以来、こちらから連絡はとっていません」
「ねえ、余計なお世話かもしれないけど、『このパーティだけ』を乗り切っても本当の幸せは来ないよ。
 たまたまの縁であっても、血はつながっていなくても、叔父と姪になるのなら、仲良くした方がいい。
 ……折角、僕みたいに「カルカーの」って、拾われた地名で呼ばれずに済む幸せを、不意にして欲しくはないな」
「分かっています」
「無理はダメだよ。心の傷は癒し辛いから」
「ええ、ありがとう」

 「どうであったか?」
 夏侯 惇(かこう・とん)は心配そうにカルに尋ねた。
「何もわざわざ敵を作るような物言いはせぬがいいのぅ。チズ殿も目上の年長者にむかって、どんな話の流れでかは知らぬが――些か礼に欠ける言葉であったな。ジョージ殿とチズ殿を説得できぬだろうか?」
「だけど、難しいと思う」
「ジョージさんに子供はありませんかね?」
 ジョン・オーク(じょん・おーく)である。
「お父さんが名家の一員としては誇りに背く行いをしようとしているのを防ぐように……と、味方につけられませんかね?」
「ジョージさんに子供は居ないみたいなんだ」
「なら、事実を調べるのも大事だが、ジョージ本人のことも知らねぇとな」
 ドリル・ホール(どりる・ほーる)は別の提案をした。
「亡くなった先代の後を継ぐのは自分だと思うにはそれなりの理由も背景もあったんだろうし、一方的にチズにだけ肩入れするのもフェアじゃないだろ」
「少し……動いてみようか」
「ああ」