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少女と執事とパーティと

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少女と執事とパーティと

リアクション

 「行きますよ」
 十六凪の『情報撹乱』が発動している。
「警備担当は正面玄関へ移動して下さい。通常の警備員では対応出来ません」
 事実その通りなのだが、真達にその意図は分からない。
「(行くしかないか……)」
 テロリスト達に気づかれない様に、ひっそりと移動を開始した。

 「会場の『防衛計画』を『行動予測』すると、ここから攻めるのが効果的でしょう」
 十六凪の『行動予測』は真が仕掛けていた『不可視の糸』をも見抜いていた。
「一般のテロリストでは気付かないでしょうが、僕には造作もない」
 十六凪と『特戦隊』は見抜いた裏道を抜け、パーティ会場へと進んでいく。

 「射撃終了です」
 ビーム発射形態を解除し、ベルセポネは実体剣へと戻した。
 前方視界は巻き起こった粉塵で塞がっている。
「次は――」
 ボッと大気を突き抜け、キロスが剣を突き出して来る。
「ウォオオオ!」
 ベルセポネの予想を裏切ったキロスの刺突攻撃。
「あ、『アブソリュート・ゼロ』!」
 キロスの間に氷壁が滑り込み、悉く斬撃を弾く。
「ちぃ!」
 後ろをキロスは振り返る。
「まだ行けるか?」
「はい!」
 アルテミスが『魔剣ディルヴィング』を八相に構え、突撃する。
 『ソードプレイ』を使い、素早く剣を左右に振りぬく。
「無駄です」
 アルテミスの剣技よりも素早く、氷壁が形作られる。
「『グラビティコントロール』」
 キロス達の空間が重力により、押し潰される。
「ぐっ」
「っ」
 剣を地に突き刺し立ち上がろうとするが、重力がそれをさせない。
「終わりです」
 ビーム発射形態を取ろうと、ベルセポネが武器を構えた時だった。
「『システム警告。『機晶解放』により機晶リアクターにオーバーヒート発生。装甲を強制パージします』」
「えっ?!」
 プシッと装甲がベルセポネの体から、強制的に脱落していく。瞬く間に、ベルセポネの素肌が露わになる。
「きゃ、きゃああああっ!」
 慌てて瑞々しい素肌を隠すベルセポネ。
「くぅ、ここまでのようです。撤退します」
 半泣きの姿でベルセポネは撤退した。
「っ、いってえなあ。おい、大丈夫か?」
「は、はい。やりましたぁ」

 「さっきの爆発は確認出来たのか?」
 彼らが会場を襲撃してから、爆発は頻繁に起こっていた。
「もう一人、確認に行かせるか?」
「その必要はありませんよ」
「!」
 ゆったりとした足取りで十六凪はパーティ会場へ現れた。
「ご苦労様です」
「誰だ貴様?」
「僕達は『秘密結社・真オリュンポス』です。この会場は僕達が制圧しました」
「何?」
「ああ、玄関方面に向かった彼等はこちらに戻ってきませんよ。ベルセポネが片付けています。あの爆発が聞こえていたでしょう?」
「馬鹿な……」
 楽しそうに十六凪はテロリスト達を見た。
「こういう事です」
 十六凪の合図で、特戦隊がテロリスト達を制圧した。所詮は雇われのチンピラ。特戦隊になすすべも無く、昏倒させられた。
 テロリストの交代劇にパーティ会場もざわついた。
「ご苦労様でした。お陰さまで、楽にパーティ会場を制圧することが出来ました」
 ステージの上へと十六凪は歩いていく。
「シャンバラ政府への要求の人質として、その貴方達には協力をしてもらいます」

 十六凪がステージの中央に立った瞬間、盛大に花火が撃ち上がった。
「そこまでよ!」
「おっと、ここでマジカラットの登場だ!」
 沢渡がすかさずにフォローを入れる。段取り云々では無かった。戦隊モノの演出にしてしまうつもりのようだった。
 沢渡のマイクサインで派手にスモークが焚かれ、ステージの上に四人組が飛び出した。
 フリフリアイドル衣装を着た理沙、チェルシー、舞、華恋だ。
「何を……」
 十六凪も状況が理解出来ていないようだった。
「悪は私達――マジカラットが相手よ!」
 曲の長めのイントロが流れ始める。
「さあ、マジカラットに拍手をお送り下さい」
 沢渡のマイクパフォーマンスから、招待客も演出だと思ったようだ。
「え?」
「演出なのか……」
 緊張が徐々にほぐれ、疎らだが招待客から拍手がマジカラットへと向けられる。
「そういう事ですか――やってくれましたね……」
「私達が相手よ!」
「パーティを成功させる為にわたくしたちも頑張りませんと――さぁ、歌いますわよ!」
 戦闘ムードの曲が流れ始める。
「良いでしょう、この茶番劇すら僕が制圧してあげます。特戦隊!やってしまいなさい」
「会場には、マジカラットのエキストラが混じっております。近くで派手な演出が有ることが御座いますので、ご注意下さい」

 「涼司君、今のうちに!」
「ああ」
 観客の視線はステージへと集中している。加夜は『歴戦の立ち回り』で、戦闘員へと瞬時に近づく。
 『行動予測』で戦闘員の動きを予測し来賓が自分の側に来るように、立ち位置をコントロールする。
「シッ!」
 『疾風突き』による鋭い刺突で、戦闘員急所を狙って繰り出し突き崩す。
「ドン!」
 打撃が戦闘員に触れる瞬間、実際以上に派手な効果音が鳴った。
 沢渡や北都達が音響に指示を出しているようだ。
「涼司君、今の内に!」
「おう」
 加夜に続いて、涼司の『自動車殴り』が戦闘員を仕留める。
「良し!」
 
 「覚悟しなさい!」
 理沙はよくあるヒーロー漫画のように、十六凪を指差した。
「相手になりますよ」
 ダンスを交え、理沙は『雷霆の拳』を放つ。流れるような動きの中で、素早い打撃が二発、三発と十六凪へと向かう。
「ほぅ」
 『局所戦闘術』を用いて、十六凪は打撃を受け流す。時折、パンパンと乾いた音が聞こえる。素早い打撃に服が体に当たる音だ。
「なかなかやるわね」
「援護しますわ!」
 マジカラットの演奏(キーボード)担当のチェルシーが『炎の聖霊』を召喚する。
 チェルシーがキーボードから手を放しているが、勝手に曲が流れていた。
「え?」
「あれ?」
 一部の観客から疑問の声が上がったが、沢渡がフォローをする。
「あー、今流行りのエアーバンドです。演出としてお楽しみください」
「喰らいなさい!」
 炎の精霊が現れ、炎の腕を振るう。
「遅いですよ」
 後ろに数歩下がり、十六凪は攻撃を躱した。

 「♪〜♪〜〜」
 マイクを握りながら、空いた片方の腕で舞が『ラピッドショット』を抜き観客へ向けて『スナイプ』する。
 ハートマークの派手な効果付きで、弾丸が射出された。
 弾丸は真っ直ぐに『特戦隊』の戦闘員の頭部を正確に叩いた。
「もう一回いくよー!」
 イントロに入り、『二丁拳銃』が発動。舞はマイクを空に放り投げ、『ラピッドショット』を抜き『連射態勢』に入る。
「えい!」
 ハートマークが銃口から大量に放出された。『クロスファイア』により、更に二人の戦闘員を気絶させる。
「十六凪さんにも」
 『カラミティハート』を十六凪に放つ。
「くっ!」
 咄嗟に『調律改造』した『オニキスキラー』で舞の投げキッスを『ロックオン』、破壊した。
「……危なかった」
「失礼ね」
 舞ったマイクをキャッチすると、サビ部分へ戻り歌いだした。

 「舞、撃ち漏らしてるよ!」
 華恋が術の詠唱を開始する。周囲に華恋の呼び出した光球が浮遊する。
「『光術』」
 華恋の合図で一斉に光球群が戦闘員に直撃する。
「やた!」
 
 「あ、お姉さん」
 ノーンが招待客の一人に声を掛けた。
「何?」
 招待客がノーンの方へ、屈む様に振り向いた。
 直後に欠片が先程まで女性の上半身があった位置を高速で通過していった。
「?」
 女性が振り返るとそこには何もない。
「この料理美味しいね」
「そうね。沢山食べていってね」
「うん」
 ノーンの『野生の勘』が危険を察知し、『幸運のおまじない』と『聖獣:エンゼルヘア』で女性の幸運を引き寄せていた。

 「遅くなりました」
 玄関方面へ向かっていた真達が戻ってきていた。なにやら、マジカラットのステージが始まっているようだった。
「ですが、チャンスです」
 『貴賓への対応』で招待客の間をスルスルと通り抜け、真は『オリュンポス特戦隊』の戦闘員に接近する。
「入場許可の無い方はお引き取り下さい」
 戦闘員の背後を取り、一気に締め上げる。真は戦闘員に容赦なかった。首元を圧迫し、脳への酸素を奪う。
 短い時間で戦闘員は大人しくなった。
「では、片づけてきます」
「はい、宜しくお願いします」

 「お客様。イベントの都合上、席の移動をお願いする場合が御座います。ご案内を致しますので、宜しく御願い致します」
「お客様、此方の方がステージが良く見えますよ」
「あら、そう?」
「ええ、ご案内致します。お連れの方もご一緒に」
 大洞は優しめに笑顔を作り、婦人を闘っている場所から安全な場所へと連れて行く。
「こちらへお座り下さい」
 丁寧に椅子を引き、座ってもらう。
「何かお飲み物をご用意いたしますか?」
「不要よ。ありがとう」
「ごゆっくりご観覧下さい」
 「申し訳御座いません。お席の移動を御願い致します」
 コーディリアは申し訳なさそうに、頭を下げる。
「いや、構わないよ。何処に行けばいいの?」
「はい、あちらに移動を御願い致します。お席は既に準備してあります」
「そう。じゃあ、案内を頼めるかな?」
「はい。ご案内致します」
 席の移動という形で、コーディリアは招待客の避難を進めていく。
「こちらが新しいお席になります。イベントが終了しましたら、改めて御連絡致します」

 「君の相手は僕だよ」
「……」
 戦闘員が動き出した瞬間に『行動予測』で三月も動いた。招待客には近づけさせない。
 三月の『超感覚』が戦闘員の微細な動きを感じ取っている。
「させない!」
 武器を取り出す前に、三月は『真空波』を放った。戦闘員を不可視の刃が切り捨てる。
 時代劇で良く聞く斬られて時の効果音が鳴った。
「……恥ずかしい」
 パチパチとまばらな拍手が三月に送られる。


 「ふむ、この辺りが潮時ですね」
 十六凪の『戦況把握』が戦況の維持の限界を告げていた。用意した『特戦隊』、『オリュンポス特戦隊』も戦闘不能となっている。
「まあ、ハデス君の身体の試運転としては上出来ですね。このあたりで撤退するとしましょう」
 十六凪はパーティ会場を守った彼らを見た。
「また、いずれ。相見えましょう」
 『戦略的撤退』が発動。身を翻した十六凪の姿は何処にもいなかった。『特戦隊』の姿も消えている。

 「如何でしたでしょうか?緊張感を伴ったリアルな演出に今回は拘ってみました。楽しんで頂けたでしょうか?」
 マジカラットのライブも終え、静かになった会場に沢渡の声が響く。
「それでは引き続き、パーティをお楽しみください。リアルな演出はもうありませんので、落ち着いて御歓談下さい」
 ふふっと会場から、笑いが零れる。

 楽しい雰囲気の中、パーティは終了を迎えた。