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少女と執事とパーティと

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少女と執事とパーティと

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 「今日はお招きありがとう」
 招待状を手にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)を連れ、チズに挨拶に来ていた。
 開催の祝いとして、エースチズにプチブーケを手渡した。ブーケはラグランツ家の花をベースに、種々の花々を添えてある。
「ええ、ラグランツ家にも来て頂き光栄です」
「色々な人のお陰で、無事にバーティが開催できてよかったね」
「はい、多くの方にサポート頂いています」
「……実は事前にジョージさんと話をしてきました」
 ニコッと笑いエースは話を続けた。
「え……」
 ライス、チズの表情が僅かに硬くなっていた。
「それで……どういう判断をされましたか?」
 チズに代わり、ライスが答えた。
「ふふ、パーティの後で判断をさせてもらうよ」

 パーティの開催される数日前の事。
 エースは『根回し』と『貴賓への対応』を使い、イリスフィル家の遠縁に当たる人物からジョージを紹介して貰っていた。
「此度は御機会を頂きまして、ありがとうございます」
「ラグランツ家がいったい何の用だ?」
「ええ、イリスフィル家の内紛の話を聞いたものですから」
 ピクリとジョージの眉が跳ね上がった。
「貴様には関係の無いことだ」
「そう、此方には関係ない。だけど、次のイリスフィル家の当主が相応しいか見極める必要がある。
 今後とも貴族として、永く付き合っていくに足る人物かどうか……グランツ家の当主としては知っておかなくてはいけないのでね」

 ジョージをエースは真っ直ぐに見据える。
「端的に聞きましょう。チズ・イリスフィルは次の当主に相応しいのか?」
「……なるほどな」
 ニィとジョージは笑う。不快な笑みだと、エースは思う。
「あの小娘はイリスフィル家の当主に相応しくない」
「ほぅ。それは何故?」
「奴はイリスフィル家の血を引いていない。捨て子だった奴を前当主はなんの気紛れか、拾ってきたのだ」
「それで?」
「イリスフィル家には歴代の当主になる為、たった一つだけルールがある。血の繋がりだ。イリスフィル家の血を絶してはならない。これは遺言以上の縛りがある」
「……この事は他の貴族達は知っているのかな?」
 エースの指摘にジョージは興奮の色を隠し切れない。
「これはイリスフィル家だけの秘事だ。あの小娘が当主の座を辞するのであれば、公表するつもりはない。
 だが、奴があくまで当主の座に居座り続けるのであれば引き摺り降ろしてやる」
「フフ、そういう事ですか」
「イリスフィル家の血を継いでいるのは、私だ。私が次の当主に相応しい」
「なるほど……良く解りました。楽しみにしていますよ」


 「いらっしゃいませ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は持てる限りの最高の笑顔と陽気さで招待客を迎えた。騎沙良は受付の担当だ。
 『貴賓への対応』がいかんなく発揮されている。淀みない仕草で騎沙良の体は動き、招待客をパーティ会場へと案内していく。
「この度は、イリスフィル家のパーティに御招待頂きありがとうございます」
「当主もお招きでき、大変喜んでおります」
 二言三言の挨拶を交わし短めの通路を抜けると、手入れの行き届いた庭園に出る。
「ここがパーティ会場になります。ごゆっくりと御寛ぎ下さい」
 パーティ会場は鮮やかな花が飾られ、中央には彫刻の掘られた小さな噴水が添えられている。デザインされたテーブル、調度品、様々な要素が絡み合って華やかな雰囲気を作り出していた。
 エアーコントロールされた庭園は室外にも関わらず快適だ。
 騎沙良の視線の先には、噴水の近くでチズの周りに招待客が輪を作っていた。
「へえ……」
 ライスのサポートもあり、落ち着いて談笑をしているように見える。
「上手くやっているようだね」
 騎沙良はチズの様子を見ると、受付へと戻っていく。


 ある日の御神楽家。
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)がポストを確認すると、ダイレクトメールと共に一通の手紙が来ていた。
 差出人はチズ・イリスフィルである。手紙の封を切り、中身を見るとイリスフィル家が開催するのパーティへの招待状だった。
「……うん」
 家の奥を陽太は覘いた。皆がバタバタと子育てに慌ただしくする愛い風景が陽太の瞳に映ってくる。
「ノーン、舞花!ちょっと良いかな?」
「なにー、おにーちゃん?」
「陽太様、何か御用ですか?」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が駆け足で、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)がその後ろから静かに歩いてくる。
「うん。イリスフィル家から冬のパーティの招待状が来ているんだけど、僕も環菜もまだパーティに出れそうにないんだ。代わりに、舞花とノーンにパーティに代理として参加して貰えるかな?」

 「こんばんわー」
「こんばんわ」
「いらっしゃいませ」
 騎沙良は笑顔で舞花とノーンを迎えた。
「陽太様、環菜様の代理で来ました。本日は宜しくお願い致します」
「宜しくー」
 舞花は『プラチナのドレス』、ノーンは『氷霊のドレス』を身に付けていた。
 ドレスで着飾りほんのりと付けたお化粧が、この場にいる二人をパーティーに相応しい麗人にしていた。
「二人とも良く似合っているわ」
「へへ、ありがとう」
 騎沙良の前で、ノーンはクルリとターンする。ドレスの端が緩やかに舞い、すらりとした細い足首が僅かに見えた。
「ふふ、楽しんでいってね」
「はい、陰ながら御協力させて頂きます」

 「ジョージ様がお見えになりました」
 暫くするとチズの傍に居た執事のライスが騎沙良の元に急いで来た。あくまでも品がある程度には。
「傍に居なくて良いの?」
「今は控室の方に戻っております。また直ぐにお嬢様と会場の方へ向かいます」
 ライスが離れると、入り口付近がどよめいた。
(来たようね……)
 ジョージはガタイの良いボディーガードを二人引き連れ、此方へと歩いてくる。
「ようこそ、いらっしゃいました。」
 再び騎沙良は営業スマイルでジョージを出迎える。
「学生風情に何が分かる?」
「……」
 笑顔のまま暫し考える。『身体検査』で視たところ、武器の類は持っていない。ボディーガード達も同様だ。自分の手を使うつもりはないのだろう。
「……パーティ会場へご案内致します」
「ふん、要らん世話だ。自分で分かる」
 いちいち癪に障る言葉を吐いてくる。ぶん殴りたくなる衝動を『貴賓への対応』で無理矢理に押さえつける。
「わかりました。ごゆっくり御寛ぎ下さい」
「チッ」
 大した反応も示さない騎沙良に御不満なようだ。ボディーガードを引き連れ、ジョージはパーティ会場へと歩いていった。
(……大物は殆どパーティ会場へ行ったようね)
 一寿から渡されたプロファイルデータを脳内で反復しながら来客リストに目を通す。特には不審な人物は見当たらない。
(まあ……ジョージ派っていうのは何人か来たみたいだし、後でみんなに連絡だけしておこうかな)

 「こ、困ります」
 ホール付近で若いウェイターが声を上げていた。
 騎沙良が見ると、ウェイターの周りに七人の男達が囲むように立っている。
「で、ですから。リストにない方はご入場できません」
「何だと!我らはジョージ様の使用人としてここに来ている。ジョージ様の顔に泥を塗るつもりか?」
 ウェイターの胸ぐらを掴みあげ、脅すように声を荒げる。

「まあまあ、落ち着いて」
「何だお前?」
 今度は騎沙良の周りにぞろぞろと男達が集まってくる。
(さて、どうしたものか……)

「どうした?」
「ジョージ様」
 ゴロツキ達が一斉に頭を下げた。
 騎沙良はゴロツキ達が頭を下げたほうを見る。見計らったように、ジョージがこちらへと歩いてくる。
「彼らはパーティの手伝いをさせる為に私が呼んだ使用人達だ」
「はあ……」
 騎沙良は彼等をそっと見た。
「……」
 スーツの上からでも見てとれる程、体格はかなり良い。そして、脇の部分が微かに膨らんでいる。袖にもギミックを仕込んでいるようだ。
 何よりも顔付きが悪い。堂々とやってくれたものだ。ボディーガードに見えなくも無いが、使用人には程遠い。
 騎沙良の視線に気付いたジョージはジロリと見てきた。脅すつもりが満々だ。
 どうせ、拒んでも当主チズの器の小さいだの、度量が無いだの、言うにきまっている。
「何か不満でも?」
「いーえー。どうぞごゆっくりー」
 ジョージは自称使用人達を引き連れて、会場とは反対の方向へと消えていく。
 
 「え?武器を持っていても見逃してくれ?」
「ええ……」
 騎沙良は少し驚いた表情をしていた。
「良いの?困るのは貴方よ?」
「構いません。それに貴方達が居ます」
 騎沙良は困ったように頭をかいた。
「その言い方はずるいなぁ……」
「宜しく御願い致します」