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【真相に至る深層】――前奏

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【真相に至る深層】――前奏

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4:愛しい優しい、束の間の時



「なんだ、早かったな?」
「からかわないでくださいよ……」
 各々がそれぞれの時間を過ごすこと暫く。
 出かけていたツライッツも帰還し、イコナが作ったイチゴと、ブルーベリーにバナナ……三色のフルーツが載った真っ白な円形のババロアをアニューリスやアルケリウスも交えて食べたり、情報交換を行ったり、幾度かの打ち合わせを終えた面々のもとに、ディミトリアスがようやく姿を見せた。が、その手に持っている贈り物のチョイスに、何人かが頭を抱えた。
「スタンダード、だけどさ……」
「あれだけ時間かかって、結局それなんだ……」
 全員の心の声を代弁したのは、かつみとエドゥアルトだ。観光地らしくさまざまな商店や露天もあるというのに、ディミトリアスが選んだのは、両手で抱える程の花束だ。それも別段珍しいとも思えないような花々で、綺麗は綺麗だがホワイトデーのお返しとしては、どうなのだろうか。何より、その格好と相まって何と言うか酷く浮いているディミトリアスの姿に皆の顔は何とも言えない顔をする中、歌菜やティーはディミトリアスの努力に頑張れ、と目を輝かせている。そんな色々と視線が痛い中、居心地が悪そうにしながらも、ディミトリアスは「アニューリス」と自らの恋人の名前を呼んだ。
「正直を言えば、余りホワイトデーと言うものは理解できていないし、お返しといっても、何が喜んでもらえるか、思いつかなかった……すまない」
 気のきいた言い回しの出来ない様子で、頭を下げるディミトリアスは、皆がやきもきしているのにも気付かないまま「俺に出来るのは、この花束ぐらいの、本当に些細なことばかりだ」と真面目な顔で続ける。
「君に貰ってきたものを、何も返せていない。足りていないのは判っている。だから、これからの時間で君に返していきたい。それが許されるなら……受け取って欲しい」
 ホワイトデーと言うには重く、酷く堅苦しく、どちらかと言えばそれはプロポーズと言うのではないだろうか、と何人かがツッコミを飲み込まざるをえない物言いだが、それもディミトリアスらしいといえばディミトリアスらしい。そんな彼の性格を良く知るアニューリスは、彼が歌菜のアドバイスに従って花束に差し込んでいたメッセージカード……ただ一言、永久に愛している、とだけ書かれたその文字に、その花束に込められたディミトリアスの想いと愛情の深さを理解して、アニューリスは、頬を緩ませて花束を抱きしめた。
「嬉しいよ……ありがとう、ディミトリアス」
 蕩けるように優しい、満足げなアニューリスの声音に、嬉しげに目を細めたところで、皆が見守っていた、と言うことをようやく思い出したらしいディミトリアスは、ばつが悪そうに、しかし幸せさを滲ませながら、みなの祝福の拍手の中で頬を掻いたのだった。


「ふふ。大成功みたいで、良かった」
 そんな二人の様子に、満足げに頬を緩めていた歌菜だったが、不意に、羽純は皆から少し離れる様にその手を引くと、後ろからその体を抱きしめると「ちょっと、動くなよ」と囁いた。
「え……え?」
 抱きしめられる感覚と、耳元の声に、どきりとしながらも歌菜が戸惑っていると、羽純がその耳へと指を伸ばした。なんだかくすぐったい感触のあと、飾られていたのは小さなイヤリングだ。瞳の色と同じ優しい青の宝石が嵌ったシンプルな涙型だが、よく見ると鳥の意匠の金細工は細やかで、キラキラと揺れて歌菜の顔に映える。
 突然のホワイトデーの贈り物に目を瞬かせている歌菜に、羽純は再びその体を抱きしめ直すと「渡すだけでも良かったんだが……」とほんの少し照れくさそうに囁いた。
「俺の選んだものを、俺が最初に着けてやりたかったから……と言うと、変か?」
「ううん」
 歌菜はその言葉に勢いよく首を振ると、頬を赤らめながら嬉しさを全開にして、羽純に向けて首を振り返らせた。抱きしめ返す代わりに、その手の上に自分の手を重ねる。
「嬉しい……ありがとう、羽純君」
 愛しさの篭ったその声に、羽純も満足げに目元を緩ませると、自分の手で飾った耳元へと、そっと触れるだけの口付けを落とした。


 そうして「その日」を迎えるまでの束の間の時間は、柔らかく暖かく幕を閉じたのだった――……



――前奏 了


担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加された皆さま、大変お疲れ様でした

今回はLC含めてまるごと過去補完に使っていただいた方や
最後まで本名登場しなかった方もいらっしゃったりで
現代サイド、過去サイド共に、楽しんで書かせていただきました!
本編とはまた違う雰囲気で、これからああ(第一話)なるのか……と(色んな意味で)

前回から引き続きの方、今回が初参加の方、様々なアクションが揃いまして
また一段と、一筋縄ではいかなそうな感じとなってまいりました過去サイド
折角おまけ的シナリオということなので、頂いた設定や、本編で描かれないだろう部分の設定もちらほらと出させていただきました
初回参加の方は、作成いただきましたキャラクター様の立ち位置などについてを開示しております
能力等につきましてはお送りしました個別コメントをご参照ください
(二回目の方につきましては、申し訳ありませんが前回以上の情報はございません)

引き続き、許可を頂きました過去キャラクターさまについては、マスターページにてイラスト化させていただきます。ただ、どう頑張っても逆凪画力なので、そのあたりはご了承ください

それでは、過去も振り返りましたところで、次回は再び本編でございます
前奏と打って変わって、状況は今以上のシビアさになってくるとは思いますが
是非最後まで、どうぞよろしくお付き合いをお願いいたします