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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第1章 2人のテスカトリポカ Story1

 保護した子供たちについて話し合うべく、祓魔師たちは特別訓練教室に集まった。
 トラトラウキと対となる黒髪の者、2人のテスカトリポカがパラミタの地で暮らすためには、どうしたらよいか意見を出し合う。
「話しに参加する者はこれで全員か…。リオン、意見が出たらこれで入力してもらえるか?」
「そのようだ、和輝。…む、私に書記をやれと?」
 供与されたノートPCを寄せられ僅かに眉を潜めたが、彼は進行役をしなくてはならないのだから、“まぁよいか…”と引き受けた。
「では、1人ずつ、意見を述べてくれ」
「俺からいいか?」
「あぁ…」
「意見というよりも、先に質問だな。校長、テスカトリポカが同一化したら、2人の意識はどうなるのだろうか?それと、手伝いがいるなら協力したい」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は無自覚ではあったが連れて来た責任を感じ、率先して助力したかった。
 災厄のほうが主だった場合、トラトラウキにとっては辛い結果しか得られない。
 ゆえに、いったいどのような意思を持つのか、予め聞くべくエリザベートに質問した。
「主となる器によりますねぇ。その身体が持つ能力に、大きく影響しちゃうんですよぉ〜。魂も同一化させるならぁ、どちらかを主にすることになりますぅ」
「そうなのか…」
「グラキエス様。救出した際に、お話の中にありましたね」
「確か、ラスコットがそんなことを言っていたか?…校長、仮に同一化が成功したとしたら、どんな存在になるんだ?」
「幻魔…テスカトリポカとして、覚醒することになりますぅ。あとは、人と異なる人格に…なるということですねぇ」
「それはありえるな…」
 今まで遭遇した魔性たちは、彼らが行ってきた当然のことと自分たちの思考がかなり異なっていた。
 すぐに言葉だけで理解してくれるはずもなく、説得までに至るまでそれなりの費やさなくてはならなかった。
 トラトラウキがいくら人の世界に害を成さない存在だとしても、どこか自分たちと異なる分はあるのだろうと考える。
「エンドロア、意見として何かあるか?」
「同一化には賛成だが、その手段も聞かなくては…」
「それは、話が粗方まとまってからだな」
「ふむ…それもそうか。ひとまず、俺からは以上だ」
「分かった。…他に意見は?」
「はーい!赤のほうが黒の心臓を欲しがるんだったわよね。融合して安定するのであれば、それが一番だと私も思うわ」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は大きな声で賛同し、何度も手を挙げた。
「ツェツェ、1回挙げりゃわかるから」
「む、いいじゃない別に」
「なぁ、破壊衝動があるやつって黒いほうか?」
 指一本動かすことなく横たわるテスカトリポカと、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の傍で寝ているトラトラウキを見比べる。
「そうみたいよ、タイチ」
「へぇー…。まぁ、そうじゃないやつに心臓やったて、止まるシロモノじゃねーしな」
「心臓をあげたほうは、死んじゃうから。あげるのはナシってこと」
 それだと取られたほうは命が消えることになるため、片方にやるのはエリドゥでの話し合いで、すでに却下済みだとセシリアが言う。
「私も1つの身体に共存させるのは賛成よ。災厄を起こさせないように、赤い髪の子のほうがいいね」
「ふむ、小鳥遊も異論はないと?」
「和輝。全員、器となる身体については、トラトラウキのほうがよいという結果だ」
「リオン、魂を同一化については?」
「今のところ2人だけ賛成の票があるな」
 賛成票はグラキエスとセシリアのみだと、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)佐野 和輝(さの・かずき)に伝えた。
「そうか。…魂の同一化に関して言ってない者がいるようだが。何か意見はないか?」
「簡単に決められることではないからな。考える時間を与えてはどうだ、和輝」
「意思の主導権がどうとか…話があったからな。…皆、今から30分ほど休憩する。その間、魂の同一化について賛成かどうか。また、他の考えがあるなら述べてくれ」
 リオンの言葉に急かして決めることではないと思い、彼らに休憩を取ってもらうことにした。



「話し合い…まだかかりそうね」
「同感です」
 ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)の言葉に、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー) が小声で言う。
「あらん、アンタもなの?」
「いえ…まぁ、これもグラキエス様のためですから」
 にこやかな笑顔を向けたが、周りに悟られないための作り笑顔だった。
 彼にとってテスカトリポカは、一見さして良い感情もない対象だったが、見聞きした情報をグラキエスのためにまとめている。
「それにこの件が片付いてしまえば……後はもう…」
「言いたいことはなんとなくわかるわ」
「あなたもパートナーのためですか?」
「アタシのほうは純粋に、人の知識が好きなだけ。祓魔術もね、色んな術を見たり試したりしたい、っていう欲求の現れなの」
「好奇心の強さという意味では、グラキエス様と少し同じかもしれませんね」
「ふふ、そう?」
 同じものに興味を持ったという点では確かにそうかと、口元に手をあててくすくすと笑う。
「エルデネスト、何か飲み物を出してくれないか?」
「かしこまりました、グラキエス様。本日の紅茶は、セイロンのアイスティーです」
 ポットに濃いめにつくっておいた紅茶を、氷の入ったグラスへ注ぐ。
「ありがとう。それと皆にも…」
「はい。…お茶を淹れましたので、皆さんもどうぞ」
 満足そうなグラキエスの笑みにエルデネストは上機嫌になり、ヴェルディーたちにも冷たい紅茶を勧める。
「どうも♪」
 グラスを受け取った彼は、ゆっくりと上品に飲む。
「セシル?どうかしたの…?」
 1人暗い面持ちで考え込むセシリアの姿が視界に入り、彼女の傍へ寄った。
「どちらかを主人格に残すとしても、もう片方の存在が消える…そうよね、そうなることが平和に繋がるものね」
「くっら〜くぶつぶつ何言ってるのよ」
「あ…ヴェルレク!?」
 まったく彼の気配に気づかず、驚いたように振り向く。
「んもぅ、“あ…”じゃないわよ。何ぼーっとしてるの」
「うん、ちょっとね…」
「平和がどうとかは知らないけど、そうなるんじゃないのかしらん。アンタがそれでいいかどうかは別だけどね」
「だって……そんなこといったって…」
「ツェツェ、そう固まるんじゃねぇ」
 かぶりをぶんぶん振るセシリアの肩を緒方 太壱(おがた・たいち) が掴む。
「お前は消えねぇし消さねぇ、そう俺と約束しただろ?それに…ツェツェの病因はお前のとーちゃんが探してんだろ」
「タイチ…」
「だったら、とーちゃん信じてみればいいじゃねぇか」
「―…タイチ解ってる、これはあたしの事じゃないって。でもね、あたしがこの時代に来た理由を考えると…ちょっと緊張しちゃうわよね?」
 黒のテスカトリポカが望まれず選択されないことを直視し、自分がやってきた理由と重ね合わせてしまっていた。
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に自分が生まれない選択を取って貰う。
 そのために未来からこの時代へ来たのだ。
「お前…まさかまだ……」
「大丈夫よ、今は自分を消そうとは思ってないわ」
 今は自分が生まれることを選択したい。
 肩から彼の手を退かせ、そう小さく笑みを向けた。
「ツェツェ、スマフォの音が鳴ってるぞ」
「パパーイからだわ」
 また料理を失敗したのか、それとも何かの小言なのだろうかと思いつつ教室を出てメールを開く。

-お帰りがまだのようなので…-

 今日も祓魔師として、まだ魔法学校にいると聞きました。
 連日の任務で身体に疲れが溜まっているでしょう。
 体調が優れなければ直ちに帰りなさい。

「…もう、心配性なんだから」
 予想通りの内容に、ふぅとため息をついた。
「ははっ、お前のとーちゃんらしいな」
「待って。……え、これって!?」
 携帯の画面を指で操作し、下の文面を見るなり思いがけない内容に目を丸くして声を上げた。

 シシィ、キミの持病について見当がつきました。
 留守番組のパートナーに手伝って貰って、治療の目処も立ちました。
 短くて1年、長くて3年以上。
 治療という苦しみを味わって貰うかもしれませんが。
 キミの病は、父親であるボクが必ず直します。
 それまで、祓魔師の修行を、無理せず行ってください。

「パパーイ…」
「…やっぱりお前のとーちゃんだよ、良かったな、ツェツェ。そうと決まれば、話し合い頑張ろうぜ」
 涙を溢しそうになるセシリアの肩を、ぽんぽんと軽く叩き皆のところへ戻ろうと促す。
「うん、タイチ。そろそろ休憩時間も終わっちゃうはずだもの」
「セシル、何やってんの?」
「えっとパパーイからメールが来てたのよ」
「ふぅーん…。あらまぁ、よかったじゃない。下にあるもので、人間でいう感動とやらが薄れそうだけど」
 メールの画面を覗き込んだヴェルディーは、一番下の文面を目にしてため息をつく。
「へっ?」
「ゾディーはやっぱりゾディーだってことよ」
「あ…あぁああー!?まったく、パパーイったら!」
 追伸の文章を読んだ瞬間、せっかく感激したのに一瞬にして台無しにされた気分になってしまう。

 【追伸】
 イルミンスールのお祭りが今日あると聞きました。
 カフェの美味しいケーキか、屋台の食べ物が食べてみたいです。
 お土産をよろしくお願いします。

「感激して損したわ…」
「まぁまぁ、そう言うなって」
「そこの小娘とバカ息子。さっさと教室に戻れ!」
 いつまでも立ち話をしている2人に怒鳴り散らした緒方 樹(おがた・いつき)は、その“バカ息子”だけに鉄拳をくらわす。
「ってぇええ!?何で俺だけ……」
「うるさい、バカ息子」
 バカ息子の背に蹴りを入れ、強制的に教室へ戻してやる。
「―…どーして俺ばっかり!」
「えー、いつものことじゃないの?」
「いつもあってたまるかっ。…ちくしょう」
 “やかましい”と言いたげなリオンの無言の視線が突き刺さり、なさけない声音で声のボリュームを下げた。