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パラミタ・イヤー・ゼロ ~NAKED編~(第2回/全3回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~NAKED編~(第2回/全3回)

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  第五章 レイトウモロコシ


 世界コイルがある場所とは反対側のB地区では。
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が巨大光剣――ソード・オブ・リコで、レイトウモロコシの群れを薙ぎ払っていた。
 ぞろぞろと現れるレイトウモロコシを見渡して、彼はため息をつく。
「……まあ、放置はできないよね」
 八紘零の頭だらけな巨大トウモロコシも異様だが、なんでも世界コイルの周りでは裸踊りが開催中だという。これまで狂っているのは八紘零たちだけだと思っていたのに、ここにきて味方もおかしくなってしまった。
「前までは、もっと真面目な雰囲気だったのに」
 陽一は独りごちた。恋人の影武者やってるような彼にツッコまれるようでは、葦原島は世も末かもしれない。
 世界コイルに、レイトウモロコシ。こんなもので仮にエネルギー事情が改善されても喜んでいいのか陽一には疑問だったが、とにかく今はキモいトウモロコシを駆除するのが先決である。
 彼は火炎放射器を構える花澤 愛音羽(はなざわ・あねは)のとなりに立ち、飛んでくる八紘零の頭――レイトウモロコシの粒をブレイドガードで受け止める。

 いつの間にか敵の数は倍増していた。もう一度、気合いを込めてソード・オブ・リコを薙ぎ払う。
 巻き上がる土煙の中、陽一は言った。
「やったか!?」
「お、おい。それって失敗フラグなんじゃ……」
 思わず愛音羽が焦るが、土煙が消えていく先には、バラバラになったレイトウモロコシが散らばっていた。
「本当にやってた!」
 愛音羽はその場にひっくり返る。このレイトウモロコシ、フラグをへし折るぐらいに弱いようだ。


 だが、その数は尋常じゃない。さすがのソード・オブ・リコでも殲滅するのは骨が折れるだろう。
「トウモロコシを粗末に扱う奴は許さん!」
 そこへ風森 巽(かぜもり・たつみ)が参上する。前回、八紘零との戦いにおいて変身ベルトを壊されているため、今日は生身のままだ。
 無数のレイトウモロコシを見て、巽のヘイトは上昇する。
「あの顔をこれ以上見てると殺意の波動に目覚めかねん」
 平常心を保つため巽がとった行動は、愛音羽を驚かせた。なんと彼はマフラーで顔を覆いはじめたのだ。
「大丈夫なのか? 視界をふさいじまっても?」
「かまいやしない! どのみちマスクの時だって視界はふさがれてる。さして変わらん」
 殺気看破と超感覚で、周囲の状況を把握する巽。わずかな気配や物音、振動に神経を研ぎ澄ませている。
 顔を覆うものこそマフラーであるが、彼が放つオーラは、まぎれもなく仮面ツァンダーソークー1そのものであった。
「食らいやがれっ! これは、農作物を台無しにされた生産者の分!! これは、エネルギー計画の参加者の分!! そして、これが! 気色悪い顔にされた唐黍の分だっっ!!!」
 道産子の意地を爆発させて殴りまくるソークー1(マフラーVer)。大好きなヒーローを間近にみて興奮した愛音羽が、火炎放射器を構えた。
「よしっ! あたしも、こいつで焼きもろこしに……」
「愛音羽さん。そんなんじゃ生温い――。内側から熱して、ポップコーンにしてやる!!」
 ソークー1は【爆炎波】を拳に宿して、レイトウモロコシをぶん殴った。


「ポップコーンにする作戦。私も、協力します」
 富永 佐那(とみなが・さな)が颯爽と現れた。
 巽の爆炎波、愛音羽の火炎放射から逃れてきたレイトウモロコシの一団に向かっていくと、わざと囲まれるように煽動する。佐那を中心にしてレイトウモロコシが輪を作っていく様は、まるで台風の発生を見ているようだ。
 風使い・佐那は、敵さえも風のように手懐けている。
 レイトウモロコシに十分包囲された所で、全力の【ヘルスパーク】を放つ。
「今のあなた方は電子レンジに入れられたポップコーンです。ヘルスパークの帯電空間で、盛大に爆ぜて下さいな♪」
 佐那が指を鳴らすと同時、零の頭がパンッ! パンッ! と弾け飛んだ。

「――私に、考えがあります」
 佐那に寄り添ったソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)が提案する。
「なんでしょうか、ソフィーチカ」
「あのレイトウモロコシを一本。熱々の状態に焼いてから、【封印呪縛】で保存して欲しいのです。それをいつか八紘零に味わわせるのです!」
「なるほど。それは面白そうですね。そういう悪戯ならばやってみる価値はあるでしょう」
 ソフィアの作戦を聞いていたエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)も頷いた。
「では、わたくしの魔石にしっかりと封じ込めてしまいましょう」
 三人は頷き合うと、いたずらっぽくクスクスと笑った。
 そんな彼女たちにむけて、レイトウモロコシが粒を飛ばしてくる。
「覚悟なさい……。勝手は! ソフィアが! 許しません!」
 ソフィアが【темная‐урания】を召喚。影から呼び出した、炎を纏う鱗翅目の大群が襲いかかる。燃え盛る羽で抱擁し零の顔を炙った。
 レイトウモロコシの粒に、こんがりと焼き色がつく。
「ジナマーマ(佐那)が教えてくれました。焼トウモロコシは醤油、バター、マヨネーズが黄金比率と」
 ソフィアは手早く調味料を塗り、佐那直伝のレシピを披露する。こうばしい香りが辺り一面にひろがった。
 焼きたてのレイトウモロコシに向かって、エレナが封印呪縛を放つ。まるまる一本分を、魔石のなかに閉じ込めた。
「はい。これでよいのですか、ソフィア?」
「ありがとうございます。エレナマーツィ」
 手渡された封印の魔石を、ソフィアが握り締める。
「この焼きもろこしをいつか八紘零に……。でも、口からなんて食べさせてあげません」
 美しい少女の顔が、イタズラと呼ぶには少し過激な嗜虐に歪んだ。


 暴れまわるレイトウモロコシを見て、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、そのあまりの悪趣味な光景にげんなりしていた。
「さすがに、これは放っておけないよね……」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も、思わず苦笑い。美羽を見やりながらレイトウモロコシの伐採を決意する。
「よしっ、全部刈り取ろう!」
 どんな時でも元気をなくさない美羽は、レイトウモロコシの群れに飛び込んでいく。鋭い蹴りから【真空波】を放った。
 コハクも素早く槍を振るい、同じように真空波を放つ。槍先から放たれる真空のカッターがレイトウモロコシをバラバラにする。
 辺り一面に転がるレイトウモロコシの粒。零の頭があちこちにゴロゴロしているのは、かなり気持ち悪かった。
 生理的に耐え切れないとばかりに、愛音羽が火炎放射器を向ける。
「黒焦げになるまで焼きつくしてやんよ!」
 と叫ぶ彼女へ、美羽が声をかけた。
「焼きもろこしにするのもいいけどさ。原型をたもっておいたほうがいいんじゃないかな?」
「……それも、そうかもな」
 気持ち悪いとはいえ、もとはトウモロコシに違いないのだ。保存しておけば再利用できるかもしれない。
 愛音羽は足元の粒を蹴っ飛ばしながら、火炎放射器を下ろした。
 

 レイトウモロコシは残り僅か。
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、レイトウモロコシの残党を追い詰める。
 海兵隊特殊強襲偵察群【SBS】を2チーム展開し、追い込み漁のようにしてレイトウモロコシを窮地に集めていく。海兵隊の英霊が10人、無駄のない動きでレイトウモロコシを囲んだ。彼らは歴史に名こそ残さなかったが、戦いのエキスパートであり、教導団による選りすぐりの強襲偵察ユニットだ。
「あたしも手伝うぜ!」
 美羽の助言で、火炎放射器から自動小銃に持ち替えた花澤愛音羽がSBSに加わる。洗脳されていたときは、八紘零のテロリストとして暗躍していた彼女。その動きは、熟練のユニットの中にあっても遜色なかった。
 一箇所に集められたレイトウモロコシの群れ。
 狙撃ポイントから伏射の体勢で待機していた、ローザマリアが告げた。
「もう逃げ場はないわ。観念なさい」
 彼女の呟きは、レイトウモロコシの死刑宣告となる。ローザマリアが引き金を引くたび、世界一気持ち悪いトウモロコシは沈黙していった。
 まさに一撃必中。
 無駄のない狙撃で、瞬く間にレイトウモロコシを殲滅した。

 レイトウモロコシを片付けたローザマリアは、ハイナに連絡を入れる。
「ハイナ。貴方がエネルギー政策を妨害されたのは理由があるわ。前回、八紘零の素性を調べて判明した事があるの」
「なんでありんすか?」
「彼は電気会社を傘下に置いていたわ。つまり、エネルギーによる収入がある。ハイナの事業が邪魔って事よ」
「なんと。――それは、八紘零を追い詰める上で、重要なポイントになりそうでありんすな」