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夏最後の一日

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夏最後の一日

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■夏最後の素敵な一日


 朝、ツァンダ、ロスヴァイセ邸。

 朝食が運ばれる少し前。
「……(……夢札で夢を見てから……両親の夢ばっかり……これって……)」
 リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)はテーブルに膝を突きながら快眠効果付きの夢札で両親の夢を見てからここ最近度々見る夢について考えていた。
 そこへ
「リネン、おはよう。何か悩み事?」
 フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が登場。挨拶をするが様子のおかしいリネンに心配の顔。
「あ、おはよう、フリューネ」
 フリューネに気付いたリネンは顔を上げて迎えた。
「それで……」
 フリューネは席に着き再度先程の質問を口にしようとした時、朝食が運ばれ話は一時中断。

 話が再開したのは食事が運ばれた後。
「あぁ、話ね……実はここ最近両親の夢ばかり見ていて……丁度、夢札で両親と過ごす幼い自分の姿を見てから」
 リネンは夢の件を打ち明け始めた。
「……夢?」
 フリューネが食事の手を止めて先を促すと
「そう、夢の私は小さくてアマニって呼ばれてて、エクルベージュさんは若くて、優しくて、まさにお母さんって感じで……夢札で見た時は私の誕生日で……」
 リネンはまずはときっかけとなった夢札で見た夢の内容を語り始めた。あの貧しいながらも幸せであたたかな家族団らんの様子を。
「そう、両親に祝って貰った誕生日会……素敵な夢ね」
 フリューネはあまりにも幸せな風景にほわぁと柔らかい表情になった。聞いている方も幸せになる。
「そうでしょう。夢だから私の希望や理想も少しはあると思うけど」
 リネンは頷きながらも苦笑する。現実の母親は夢とは違い夫亡き後は世話が難しいと娘を手放した人だから。
「……そうね」
 リネンに頼み込まれ付き添いでランに会った事があり事情を知るフリューネは唯うなずいた。実はリネンが頼み込んだ理由は激情に駆られて母親のラン・エクルベージュに何かしでかしてしまうのではと二人きりで会えないほど怯えていたからだ。
 さらに
「あとね、お父さんは私が物心つく前に亡くなったから夢だと名前とか姿はぼやけていて……どんな姿なのかなぁって」
 リネンは記憶無き父親について話題にする。幾度も夢を見るも父親の姿はいつも同じ。名前も姿もぼやけているのだ。
「きっと素敵な人だと思うわよ。リネンのお父さんなんですもの」
 フリューネは決まっていると言わんばかりの口調で言った。
「そうだといいなぁ」
 フリューネは少し顔を上に向け、様々な父親を想像してみたり。
 ここで急にリネンは真剣な表情になり
「……あのね、フリューネ」
 声にも同じく真剣味を込め真っ直ぐにフリューネを見る。大事な話をするために。
「……」
 フリューネは空気から真剣な内容だと察し、口を閉じて静かに耳を傾ける。ただ、漆黒の瞳はリネンを真っ直ぐに見ている。
「最近思うの……私の人生はフリューネとパラミタにあるけど……少し昔を振り返ってもいいかなって……」
 リネンは最愛の人を前に夢札の件から湧いてきた気持ちを語る。
「そうね。リネンはずっと飛び続けて来たものね」
 フリューネは真面目な顔を崩し、口元に笑みを浮かべた。リネンと過ごしたこれまでの事を振り返りながら。
「えぇ、それは大切なのは過去より“今”と、“その先”だって思っていたから(自分から捨てたのにズルイと自覚してるけれど……やっぱり過去も私の一部で……大切なもの)」
 リネンは昔の自分を思い出し外と内でつぶやいた。きっと昔の自分は思わなかっただろう。こうして昔を振り返る時が来る事やそれを大事に思う時が来るとは。夢札の件に気付かされたためかもしれない。
 ここでリネンは
「……だから、また会いにいってもいいかな? エクルベージュさんのところ」
 話の一番の目的を口にした。夢札の夢から目を覚ました時に洩らした言葉を。
 それに対してのフリューネの返事は
「えぇ、もちろんよ!」
 もう決まっていた。
「ありがとう、フリューネ」
 いつも自分を気遣い優しいフリューネに感謝し、リネンは朝食に戻った。
 夏最後の今日もきっと素敵な一日になるだろう。