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終りゆく世界を、あなたと共に

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3.終わりゆく世界から目覚めた私は

「行かなくては、いけません。自分にもできることが、何かあるかもしれません」
「…………」
 静かに装備を整える赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)
 霜月のパートナーであり、妻でもあるクコ・赤嶺(くこ・あかみね)は黙ったまま、悲しげにその顔を見つめるだけだった。
 そんな霜月の袖が、きゅっと握られた。
「……ヤダ」
 赤嶺 深優(あかみね・みゆ)だった。
「おとーさん、いっちゃヤダ」
「それでも、自分は最後の瞬間まで、無様にみっともなくても足掻こうと決めたんです」
「……なんかわかんないけど、いっちゃヤダ! いっちゃダメ! おかーさん泣きそうでしょ!」
 いつの間にか、黒狐形態となった深優は霜月の袖に噛み付いていた。
 血がにじむ程に。
「……ぅう」
 そんな霜月に、もう一つの小さな影がぶつかった。
「う……うぅ……うっ。
 影は霜月にしがみ付いたまま泣きじゃくる。
 アレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)だった。
「僕……僕、怖いんだ。だから、霜月にここに居て欲しい。ごめんなさい……」
 少し身じろぎすれば振りほどけそうな弱々しさで、アレクサンダーは霜月に縋っていた。
「皆……」
「お願い。最後の瞬間まで、霜月と一緒にいたいの」
 クコの言葉が、最後の駄目押しとなった。
「……仕方ないな」
 ふうと、霜月は大きく息を吐く。
「分かった。諦める」
 霜月のその言葉に、ぱっと家族全員の顔が明るくなる。
「最後の時まで、皆と共にいよう」
 深優は歓声を上げ、アレクサンダーは安堵の息を漏らす。
(ごめんね……)
 そして、クコは心の中で懺悔した。
(霜月はきっと、さいごまで足掻くと思った。でも、どうしても側にいて欲しいから……子供たちの力を借りたの。卑怯な手を使って、ごめんなさい)
 そのまま笑顔を作ると、クコは家族全員を抱きしめた。

「……さーん、おかーさーん、ご飯まだー?」
(ん……)
 遠くから、家族の声が聞こえる。
 次いで鼻を刺激する、朝食の香り。
「珍しいわね、霜月がまだ寝てるなんて…… 深優、アレク、起こしに行ってもらえるかしら?」
「霜月が寝坊なんて本当に珍しいね。起こしに行こうか」
「はーい、おとーさんを、起こしにいこー!」
 とたとたと、声と足音が近付いてくる。
(ああ……)
 霜月は心の底から、安堵した。
 夢だった。
 みんな、いる。
 恐ろしい夢だった。
 自分が死ぬことが、ではない。
 家族がいないかもしれないということが。
(いつかは終わってしまうものなのかもしれない……それでも、俺は)
 霜月は決意する。
(――今は、家族と一緒に生きていたい)
「おとーさーん、起きて!」
「朝、だよー!」
 ばぁんと、勢いよく扉が開かれた。
 霜月を家族の元へと誘う扉が。