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リアクション
●なお、レジスタンスの侵入は予期されていたため……
「待て」
最初に気づいたのは夏侯淵だった。
ブゥゥン……というスピーカー音を察知したのである。
「ようこそ。レジスタンスの諸君」
エコーのかかった声が聞こえた。
「僕は所長のクランジζ(ゼータ)だ。残念だけど諸君の来訪は既に、露見していたんだよねえ」
鼻歌でも唄いそうな口調で、それがやけに神経に障った。
「チッ!」
水銃を構えようとした淵の二の腕を、鋭い弾丸が貫通した。淵は悲鳴こそ上げなかったものの武器を取り落としていた。焼けつくような痛みに歯を食いしばる。
一行の正面の扉が吹き飛ばされた。
そこには大量のクランジ量産型の姿がある。
同時に、どこからか十数機の飛空艇、あるいは背にジェット飛行装備をほどこされた量産型が飛来する。ルカルカたちの乗ってきた飛空艇はたちまち撃墜されるか、捕獲の憂き目にあってしまった。
「まずはこのエデンのルールについて教えておこうかなあ。ルール2。『外部からの侵入者には、手厚い《歓迎》を行う』というやつだよ」
ルカルカ、七枷陣、シリウス・バイナリスタ、ファイス……いずれも動かない。
「そう。事態が飲み込めてきたみたいだねえ。君たちのいるそのスペースのほうぼうに、能力制御プレートと同様の装置を取り付けておいたんだよ。この一帯にいる限り君たちは、まるで場違いな場所に来てしまった観光客というわけさ。
……おっと、装置を探して取り外そうとしても無駄だからねえ。超人的な能力がまるでない状態で、どこまで抵抗できるか試すのがどれくらい愚かかは判っているだろう? それに、変な行動をしてごらん、すぐに撃ち殺しちゃうよ。可哀想だけど」
声の主の姿は見えない。どこか別の場所から話しているのだろうか。
「スキャン終了」
ファイスが言った。
「この空間には標的『ゼータ』の発言通りの装置が多数設置されていることを検知。限られたスペースゆえ可能になっていると憶測可能」
「おや……そこにいるのはうちの秘蔵ッ子のファイかい? おやおや」
珍しい昆虫でも見つけたような口調でゼータは言ったが、それ以上ファイスに興味を払うことはなかった。
「それはそうとして安心したまえ。全員、新入りとして歓迎するが殺しはしないからさあ。
まず、エデンに人為的に侵入したのは君たちがはじめてだから、それを評価したいという気持ちがあるんだよ。それに、レジスタンスの主要メンバーまでもがエデンに収監されたと伝われば総督府の支配はますます容易になるだろうし……あと、諸君には生きのいい情報がたくさんあるだろうから、聞き出さなければならないしねえ」
「ゼータ……ですか? 人をバカにした口調ですね。好きになれません」
リーブラ・オルタナティヴが不快げに言った。
しかしシリウスはむしろ愉快そうに、
「そうかい? オレ、そう嫌じゃないぜ。楽しみじゃねぇか」
と言って、サビク・オルタナティヴのほうを見たのである。
「そうですね。勝ち誇っている人が驚くとどういう口調になるか、聞いてみたいという気持ちは判ります」
「なに言ってる? 意味がわからないんだけど」
ゼータはそれを聞きとがめたようだ。
どこから聞こえる声かわからないので、ルカルカはただ、前方を指さして言った。
「まだわからないの? クランジζ、しゃべりすぎね! おかげで自分の間抜けさを露呈してしまったということに気がついていない!」
「間抜けさ、だって?」
「『エデンに人為的に侵入したのは君たちがはじめて』だなんてお生憎様!
謹んでこの言葉を贈ろう。人間をなめるなっ!」
このとき轟音が響き、左右に大きくエデンは揺れた。