リアクション
○ ○ ○ 「エアロックの解放は制御室から行われたようです。カメラに犯人の映像が残っていないので、遠隔操作か、タイマーが仕掛けられていたのか、それとも他の方法かは、分かりませんが」 制御室で調査に当たっていたルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)が、調査結果をブリッジに内線で報告する。 「先の攻略戦の時、制御装置のシステムを完全掌握出来なかった事が悔やまれるぜ」 作業員と代わり、制御室でシステムのチェックに当たっているのは、猫井 又吉(ねこい・またきち)。 「システム内に置き土産があって、古代戦艦とやらから送られてきた信号で遠隔操作を受けたか、この二代目風雲又吉城(=アルカンシェル)に工作員が紛れていて、端末から操作したかのどっちかだろ」 又吉は遠隔操作に注意を払いながら、不審なプログラムがないか探していく。 「外部からの干渉も完全に遮断しておくぞ。畜生、やることが多すぎるぜ。おい、そこのおっさんできるか?」 「!?」 内線を切ったルークは、誰の事だろうかと周りを見回すが、近くにおっさんに該当しそうな人はいなかった。 「受信ブロックですね。やっておきます」 答えながらちらちらと又吉を見ると、それは器用に肉球でぺたぺたタイピングし、コンピューター操作を行っているではないか。 (なんだか凄く偉そうな猫ですね。地味に早いですし。肉球なのに肉球なのに肉球なのに) ルークの中に対抗意識が湧いていく。 (こう……人間としての尊厳を脅かされているような気分になるのは何故でしょうか) 「良いでしょう。お兄さん、ほんの少しだけ本気出します!」 キリッとした表情になり、ルークも又吉に勝るとも劣らぬ速度でコンピューターを操作しだした。 『操縦室。フレデリカ・レヴィです』 オペレーターのフレデリカから内線を用いた通信が入る。 「なんだ」 手を止めずに又吉が答える。 『侵入した機晶姫の目標地点はエネルギー室と機関室にほぼ間違いないようです。隔壁の操作について各方面から意見が届いています。神楽崎指揮官の承認を得ています。データ送ります』 又吉とルークのHCに、隔壁を利用した侵攻ルートの制限に関する案が、届く。 エネルギー室で防衛に当たっているクレア・シュミットや、遊撃に出ている教導団員から発せられたものだ。 「メインとなるだろう敵侵攻ルートは残し、些末な脇道は閉鎖か……了解!」 モニターに届いた敵侵攻ルートのデータと、要塞内の地図を重ねて表示し、更に隔壁の場所を入れていく。 「こことここと、ここを塞ぎましょう」 表示とほぼ同時という速度で、ルークが隔壁を下す箇所をマーク。 「それで構わないだろ。操作は俺がやる。おっさんは各方面に連絡をしといてくれ」 「わかりました。お兄さんは連絡を担当します!」 又吉はモニターで付近に人がいないことが確認できた場所から隔壁を下していく。 『隔壁を下します。各自近くのコンピューターで場所の確認を行ってください』 ルークはブリッジに連絡を入れた後、艦内放送で皆に連絡をした。 「どうやらこっちには向かてきてないみたいね」 制御室前で防衛に当たっているイリス・クェイン(いりす・くぇいん)は、制御室に届くオペレーターからの連絡や、映像を見て、ふうと息をついた。 「殆ど感情はないみたいだけれど、知識は十分にあるみたいだからここを渡すわけにはいかないわ」 ここへのルートは隔壁で閉ざしたとのことだが、機晶姫が目標場所を変えれば爆破して向ってくるかもしれない。 ただ、所持している爆弾には限界があるだろうし、爆弾を仕掛けてから突入までの動作には時間を要する。 「こっちに向かってくるとしても、到着までには余裕はあるはずだ」 ちらりとこちらに目を向けてそう言ったのは、ミケーレ・ヴァイシャリー。守るべき要人だ。 彼は作業員と共に、入口付近で対策を練っている。 「はい。でも、いつ攻められてもいいように、バリア、張っておくね」 フェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)は、フォースフィールドを展開した。 「あなたもあまり前に出てこないで、安全な場所で支援しててね」 「……うん」 イリスの言葉にフェルトは頷きながらも、自分も頑張らなきゃと強く思っていく。 モニターには、エネルギー室、機関室前で防衛に当たっている人達の奮闘が映し出されているから。 「みんなで頑張って争奪したこのアルカンシェルを、あんな奴らに壊させるわけにはいかなよ!」 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)は気合を入れて、ディフェンスシフトで皆を待ちながら、敵を待ち構える。 「バリケード、こんなもんか」 国頭 武尊(くにがみ・たける)は、制御室や近くの部屋から家具を持ち出して、制御室前に積み上げて氷術で凍らせて襲撃に備えていた。 銃型HC弐式にも、ハイドシーカーにも今のところ変わった反応はない。 「無事に戻れたら、今度こそ神楽崎から写真を貰うんだ……」 真剣な表情の武尊の口から、そんな言葉が漏れた。 (写真……?) 彼の言葉を聞いたイリス達に、何故か悪寒が走る。 機晶姫はこちらに向かってきてはいない。だけど何故だか凄く嫌な予感が駆け巡る。 先ほどまで制御室に居たルシンダ・マクニースは、機晶姫の侵入と状況を知り、自分も何か手伝いたいと……医務室で救護なら行えると、医務室へ向うことを望んだ。 ルシンダと親しくしているミケーレが承諾し、護衛として契約者何人かに同行してほしいとお願いをした。 「では、まとまって移動しましょう。ルートは……」 制御室はひとまず大丈夫そうであることから、本郷 翔(ほんごう・かける)が取りまとめ、数人の契約者がルシンダと共に医務室に移ることになった。 「これを持っていてくださいますか?」 ルートを決めると、すぐに出発となった。 出発と同時に、翔は禁猟区の御守をルシンダに差し出した。 ルシンダは少し戸惑いの表情を見せたが、礼をいって御守を受け取る。 「ルシンダちゃんの護衛護衛がんばるばるー」 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は、ルシンダの傍で、梟雄剣ヴァルザドーンを持ち、敵が現れたらいつでも飛び掛かれる態勢でいた。 (君の最後の言葉だけは本心かな?) 医務室へ向かって歩きながら、桐生 円(きりゅう・まどか)はルシンダにテレパシーで話しかけていく。 (でも、君は味方のつもりだろうけど、此方から見たら裏切りに見える) 円のその言葉に、ルシンダが顔を歪める。 (ボクに怪しいと思われてる時点で、相当の人数に怪しまれてると思う) (……) (このまま蝙蝠みたいに動いていると、ボクのパートナーみたいに死んじゃうと思う。ボクも協力してくれる人を集めるから、一人で頑張るんじゃなくて、周りと頑張ってみない?) 円は優しく語りかけていた。 失ったパートナーにルシンダはどこか似ているような気がして。 (結局好きな人の為に死ぬって聞こえはいいけど、結果としては最悪だよね? 生きて楽しんだ方がボクは好きだよ) (私は、貴方のことも、貴方とパートナーのことも知りませんが、ひとつ思うのは……) 「私はあなたが亡くしたパートナーとは違う人間です」 ルシンダは声に出して、円に言った。 「あまり大きな声では言えないのですが、私は、ミケーレ・ヴァイシャリーさんとお付き合いをしています。彼と交わした約束もあります。好きな人達の為に、頑張るのは当然のことだと思いますし、私もその為に国の……パラミタの力になりたいです。そして、平和を掴みとって、大切な人達と一緒に幸せに生きていけたらいいと思っています」 (でも、君は命を賭そうとしている。そう見えるんだ。本当にミケーレくんが好き? 君が敵側に協力していることと、互いの命を守るための約束の意味がつながらなくて) 円の言葉にルシンダは押し黙る。 (……今後の計画は? 今やらなければならない事? そして、それを破ったらどうなるの?) 円の問いにルシンダは答えない……。 (自分の能力を知らせていたのは、止めてほしかったから?) 「当たり前のこと、です。協力者ですから。どうして……そんなに疑うんですか」 ルシンダは苦しげに円に言った。 「確固たる証拠もなく、疑うのはやめてください」 ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)が、円とルシンダの間に入り込む。 「報告を受けた限り、疑う要素はありません。彼女は私達と同じか弱き人の姿をしていますが、エリュシオン帝国の神です。帝国の神を疑う事は両国の為にはならず、つまらない猜疑心は身を滅ぼします」 ザウザリアスはルシンダに付き従い、必要な情報を彼女に提供し、サポートしている。 「ありがとうございます……」 ほっとした表情でルシンダはザウザリアスに礼を言い。 円に(ごめんなさい)とテレパシーを返した。 「捕えられて傷を負った時の精神的、肉体的なショックがまだ十分に癒えていないのに、こうしてパラミタの為に、今回の作戦にも参加してくださったことを心から感謝いたします」 ザウザリアスはルシンダに礼を言い、皆を見回す。 「彼女は救護される側でもあります。長い会話で追い詰めたりすることがないよう、お願いします」 ザウザリアスも彼女には何か秘密があるということくらいは感じていた。 ただの善良無垢なお嬢様ではないということを。 だから、自分の神の力を全て語っているはずもないとも、軍人として理解していた。 だけれど、こうして彼女を大切に扱って、信頼をされれば……。 いずれ、話してくれることもあるだろうと考えた。 「先日は失礼しました、私達も協力出来るような事があれば嬉しいわ。それと相談事や、悩みを打ち明ける気分になったら遠慮なく私達に言ってくださいね?」 円のパートナーオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が、ルシンダに微笑みながら言う。 「……はい。その時にはよろしくお願いいたします」 ルシンダは軽くオリヴィアに頭を下げた。 オリヴィアは嘘感知で注意を払っているが、違和感を覚えるようなことはなかった。 聞いた話によると、ズィギルは精神攻撃が得意らしい。 (つまり、洗脳系かしら? ルシンダさん、魔術的な力で洗脳されている可能性も?) その可能性も考えながら、オリヴィアはルシンダを注意して見守る。 「んんん? 変な気配あり! こっちに向かってくるよー」 殺気看破で警戒していたミネルバが機晶姫の気配に気づく。 「迂回してください。医務室に敵を連れていくことがないように」 剣を抜き、そう言ったのは樹月 刀真(きづき・とうま)だった。 刀真はロイヤルガードだけ所持するロイヤルガードエンブレムをとって、禁猟区を施すとルシンダに差し出した。 「何かありましたら、駆け付けますから」 持っていてください、そう言ったが。 「結構です」 ルシンダは拒否して受け取らなかった。 「あなたも私を疑っているのですよね。魔法を施して……襲われた時、反応があるかないか、探るために、また私に持たせようとしてる……」 ルシンダは監視目的で刀真が自分に物を持たせようとしていると考えてしまった。 彼が自分に対して不信感を抱いていると思っていたから。 「わかりました。何かあったら、連絡をください」 刀真はエンブレムをしまうと、円にそう言ってパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と共に、戦いに向かう。 (ん……気を失ってたから知らないと思うけど) 円がルシンダにテレパシーを送る。 (この前、キミの命を助けたのは刀真くんだよ? だからちゃんとお礼言っとくんだよ) ルシンダが小さく反応を示して円を見る。 即座に、ザウザリアスが警戒の目を円に向ける。 「そーゆー話じゃないから。散弾銃で殺されそうになった人を、身を挺して庇って死にかけた人がいたって話」 円が声に出してそう言うと。 (ごめんな、さい) ルシンダの本当に申し訳なさそうな声が、円の脳裏に響いた。 それから、彼女は刀真にテレパシーを送った。 (あなたが私を助けてくださったこと、聞きました。ありがとうございました。先ほどは本当にすみませんでした) 私の方こそ、恩人を疑うようなことをしてしまったと。 |
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