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リアクション
「情報はこちらで取りまとめさせていただきます。必要な情報がありましたらご指示を」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は、優子の傍に控えて、操縦者やオペレーターが受信した数々の情報をまとめて、整理を行っていた。
「エアロックが開いた原因が気がかりだな。制御室でも調べていると思うが」
ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)は、内線で制御室に連絡をして確認を行う。
電話に出たのは、ミケーレ・ヴァイシャリーだった。
『殆どのエアロックが解除されていたからね。ここから何者かが解除した可能性が高い……としか言いようがない』
ミケーレは淡々とした口調でそう言った。
「制御室にいたメンバーは?」
『俺とルシンダ・マクニースさんと作業員数名。現在は猫のゆる族と教導団のルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)君が制御に当たってくれている』
猫のゆる族とは国頭 武尊(くにがみ・たける)のパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)だ。
武尊が優子の信頼を得ていることと、先の事件でも、制御室のコンピューター制御に携わり、事件解決に貢献した為に、信用に値する人物として任されている。
ザミエルからその報告を受けた優子は眉間に皺をよせ、考え込む。
「内通者が乗っている、か」
レンは小さくそう言い、優子の横顔を見守る。
今回は彼女が経験してきた前線の部隊指揮とは違う、純粋な集団戦闘。
直接剣を振るうのではなく、人をどう動かすか。
各現場から集まった情報をどう活かすか。
不慣れな面もあるかもしれないが――。
「慌てる必要はない。俺たちがサポートに付いている。存分に指揮官として指示を飛ばすと良い」
レンはそんな言葉を優子にかけた。
彼女は良いリーダーになるだろう。純粋に、レンはそう思っていた。
「内通者の可能性が一番に考えられるが、ならば何故もっと直接的な妨害を行わないのかが疑問に残る」
レンは優子にだけ聞こえる程度の、小さな声で語る。
「機晶姫の目的が、機関室、エネルギー室の爆破ならば、なぜそれを直接行わなかったのか」
その方が確実な妨害となる。
「となれば敵の狙いは「妨害」だけとは限らない。もしくはブラッディディバインとは別の思惑で行動している人間が「協力者」として暗躍しているのかもしれない」
「……」
レンの話を優子は無言で聞いていた。
「あくまで憶測だ。だがその可能性も視野に入れて行動すべきだろう」
レンは制御室の様子を艦長席のモニターに表す。
「この戦いはそういう戦いだ」
映し出したのは、ミケーレとルシンダ。
二人は作業員の後ろで会話をしている。
「……ルシンダさんの違和感については、報告を受けている。だけれど事実がそのまま記された報告書と、制御室に残っていた防犯カメラの映像からは、彼女は仲間を守り、敵に捕縛され、酷い怪我を負わされた、被害者だとしか思えない。故に、彼女のことは丁重に御守するように……と皆に指示を出してある」
そう言った後、ごく小さな声で優子はこう続けた。
「ミケーレさんにそう指示されたから、だが」
レンは何も言わずにただ小さく頷く。
2人のことは、護衛につく契約者に任せるより他ないだろう。
要人である2人を護るために、2度と怪我をさせないために、決して側を離れないように。
レンは新たにそう指示を出すことだけ、優子に提案をした。
「敵機晶姫には、ほぼ感情はないようですが、知能は人と変わらない程度にあるようです」
機晶姫の動きについて調べていたメティスが報告をする。
最短ルートで向かっているが、障害があった時には、爆破して進むか、迂回するか、その都度機晶姫達は独自に判断して進んでいるようだ。
放送や、契約者達の会話も理解しているようであった。
「エアロックは複数個所同時に開いたと思われることからも、制御室からの操作に間違いないとは思うが……防犯カメラの映像からは、割り出すことが出来なかった」
ただ、と。
ザミエルは小声で言葉を続ける。
「ルシンダがじっと操作パネルを見ていたこと。作業員が作業をする裏で、黙想をしていたこと。この2点に引っかかりを覚えるがな」
「わかった。カメラでの監視を続けてくれ。とはいえ、戦況が悪化するようなら最低限の人員を残し、皆にも戦ってもらうことになる」
その時には、自分も前線に出よう、などと言う優子に、レンは首を左右に振る。
「この戦いおいて、お前は指揮官だ。持ち場を離れらせるわけにはいかない」
指揮官として無能のレッテルを貼らせたくはない、とレンは考えていた。
「……でも、解ってますから」
彼の後ろから、ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が顔を出して微笑みを見せる。
彼女は有事に備えて、回復魔法の使い手として待機している。
「何かの時にはご一緒します」
ノアはザミエルに歩く警報装置と言われることがある。
炎の精霊やイナンナの加護、女王の加護などで護られているから。
神楽崎優子の性格上、何かの際には自ら駆け付けるだろう、それを止めることは出来ないだろうと、レンも考えており、有事の際にはノアに一緒に行くように、話してあった。
「そうならないよう、適切な指示を出していかないとな。引き続きサポートを頼む」
優子はレンに、ブリッジに、そして操縦室内にいる仲間達にそう言った。
「新たな情報が入りました」
オペレーター達から次々に報告が入り、取りまとめたメティスから優子へと必要な情報が届けられていく。
「ちょっと思うんだけど、精神系得意なあんちくしょうが暗示とか遠隔洗脳とかで誰かの頭いじくってる可能性ない?」
操縦室入口で防衛に当たっている伏見 明子(ふしみ・めいこ)が、医務室に向かおうとするアレナに尋ねた。
あんちくしょうとはズィギルのことだ。
明子自身は、超人的精神で自衛している。
「前回接触した面子は念のため、頭洗っといた方がいいかもしれない。……ルシンダさんも含めて、かな」
そんな意見を、目の前のアレナだけではなく、テレパシーで優子にも伝える。
「ない、とは言えないのですが、どう対処したらいいのかは、分からないです……」
「ま、そうだよね。拘束しておくわけにもいかないし。とにかく心に留めといて」
「はい」
こくりと頷いて、アレナは仲間達と医務室の方へと向かっていく。
「おっさんは戦艦の中か。ちぇー。前線に出てきたらそのままブン殴ろうと思ってたんだけどな」
明子は操縦室のモニターに映し出された敵戦艦を見て、ため息をつく。
今の状況では出てくる必要はないだろうし、アルカンシェルも攻め込むより優先しなければいけないことがある。
「仕方ない。今回は一回お休みだ」
機晶姫がここまで攻めてくるようなことがあったら、全力で排除し、一歩たりとも、軽い衝撃であっても操縦室が受けることがないよう努めようと、明子はこの場の砦として護ることに。
「敵の目的はエネルギー炉と動力炉のようだな。落されそうならば、俺達もそっちに回った方がいいんだろうか」
橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、殺気看破で警戒しながら操縦室周辺の見回りを行っていた。
機晶姫は今のところ操縦室方面には向かってきていない。
その他、近づいてい来る害意を感じることもない。
「操縦室を爆破しても、船は沈まないが、エネルギーを爆発させれば要塞を落す事も難しくはない。そういうことだろうか」
「落とせなければ、こちらを狙ってくるかもしれないし……離れる訳にはいかないわ」
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、ブリッジにいる優子をちらりと見て、そう言った。
亜璃珠は先ほどまで優子の傍で、秘書のように彼女をサポートしていた。
敵の侵入が確認されてからは、逸早く対処に動けるよう、入口前で警備に当たっている。
「隔壁の向こうには、機晶姫さん来ているようですよ。こっちには向かってこないようです」
崩城 理紗(くずしろ・りさ)は、ディテクトエビルで機晶姫を感知しながら、位置の割り出しに努めていた。
「怪我した人はこっちに引っ張ってきて、回復してあげてるよ。ほんとにまずい人は医務室に行かせてるけどね」
崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)は理沙と共に艦内を回り、機晶姫と戦い怪我をした者達の治療に当たっている。
「こちらを利用しようとする機晶姫は今のところいないようです」
そしてマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)マリカはブリッジから一番近い、エレベーターの監視を行っていた。
「引き続き、お願いね」
3人の報告にそう言った後、モニターに映し出される映像に目を向ける。
機晶姫は隔壁を爆弾で破壊して進んでいるが、目的地以外に下された隔壁には近づくことはない。
機晶姫がここを狙っていないのであれば、遊撃に出ている契約者も、重要機器のあるここや機関室には来ないように誘導ているため、ここは大丈夫なはずだった。
だからこそ、一番気がかりなのは……内部からの干渉。
「操縦室には鏖殺寺院とつながりのある者はいない、はずだけれど」
警戒している亜璃珠の頭に、テレパシーで桐生 円(きりゅう・まどか)から連絡が入った。
ルシンダは医務室に向かうそうだ。
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