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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション

 刀真は医務室のある階の、階段室側に来ていた。
「っと、こちらは事前に準備を。樹月は敵の足止めを頼む」
 先に到着していた四条 輪廻(しじょう・りんね)が刀真と月夜に気付いてそう言い、作業を進めていく。
 輪廻は階段室にトラップと簡易バリケードを設置していた。
 通路を完全にふさぐのではなく、狭めている。
「相手は多数、少数での防衛は困難、交戦場所として狭めの通路を事前に抑えておけば一度に交戦する相手は減らせる」
 ここは他の階段室が封鎖された後、居住区側にあるエアロックから侵入した機晶姫が通ると思われる階段室だ。
 また負傷者を医務室に運ぶ道としても利用される。
「この階には侵入させませんよ」
 殺気看破で気配を感じ取った刀真は、階段室の中に走り込む。
 上の階から、駆け下りる音が聞こえる。
「乗組員じゃない」
 月夜は銃型HCに送られてきた情報から、敵であると確信する。
「テキ発見、ハイジョ……」
 機械的な声が響く。
 機晶姫のセンサーに感知されたようだ。
 走っていたと思われる機晶姫が3体、飛んで急降下してくる。
「3体同時か……!」
「1体は私が」
 刀真と月夜は相談する必要もなく、自らのターゲットを決める。
 後方に立つ月夜がまず、機晶姫以外を透過させ、強化型光条兵器ラスターハンドガンを撃つ。
 スナップで狙いを定めた光の弾丸は一番手前の機晶姫の頭部にぶち当たり、破壊する。
 機晶姫は飛びながら機晶キャノンを撃ってくるが、攻撃の先に刀真の姿はなくなっていた。
「こちらです」
 行動予測と百戦錬磨の経験を以て、刀真は敵機晶姫を翻弄する。
 気配に視線、間合いに構え、重心のかけ方から、攻撃を見切り、躱す。
 軽身功で壁を走り、死角に回り込み、敵が振り向くより早く、壁を蹴って接近。
 左手に装備した黒曜石の覇剣で、首を刎ね落す。
 更に、右手に装備したワイヤークローでもう1体の敵を金剛力の力を持ち、引き寄せる。
「終わりだ!」
 銃を向けてきた敵の目に、ブラックコートの裾をぶつけて視界を塞ぎ、体を回転させた勢いで、正面から首を狙い、刎ねる。
 ……首を落された機晶姫2体は、そのまま動かなくなった。
 月夜に頭を砕かれた機晶姫にも刀真は剣を振り下ろり、完全に機能を停止させる。
「次はもっと多そうだ」
 刀真が上階に目を向ける。
「トラップを発動する。少し下がれ」
 輪廻の言葉に、月夜はドアの外へと出た。刀真は構わず武器を手に敵の接近に備えている。
 敵の姿が見えた途端。
 輪廻はトラップを発動させる。
 スプリンクラーと、天井に仕掛けてあった水袋が破裂。
 階段室が水浸しになっていく。
 それから、真のトラップの起動スイッチを入れることに……。
「そういえば、刀真がこの間グラマラスなお姉さんといちゃいちゃちゅっちゅしていたぞ」
 月夜に囁いたその瞬間。
「!?」
「ディスチャージ」
 月夜のスイッチが入り、放電実験を階段室全体に発動。
「樹月ー、死ぬなよー」
 輪廻が笑顔で言う。
「危ないよ!」
 発動までのわずかな間に、月夜の殺気を感じ取っていた刀真は階下に転がり落ちて躱していた。
 カッコよく着地しようとしたが、自分もまわりもびちょぬれだったので、つるんと転んで無駄に怪我をしてしまった。
「まあ、全員を1人で相手にしていたら、その程度の怪我じゃすまなかっただろう」
 言いながら、輪廻は倒れた機晶姫を脇へとどかしていく。
「すまん、な……弔いは後でゆっくりと」
 そう小さな声で言いながら、身なりを整えた。
「よし、まだまだ仕事はあるだろう、次、行こうか」
 そして、表情を変えずに次の場所へ向かう。

○     ○     ○


「酔い止めです。無理はしないで安静にしていてください」
 医務室にて涼介は、揺れで酔ってしまって吐き続けている人達に酔い止めを配っていた。
 アルカンシェルも攻撃受けたり、急加速、減速で攻撃躱すことがあるため、大きく揺れることがある。
 到着したアレナ達が治療を手伝ってくれており、回復した人々の多くがここに留まり、手を貸してくれている。負傷者や酔って動けない者も多かったが、比較的医務室は落ち着いていた。
「敵の目的は何だ? アルカンシェルの爆破か!?」
「阻むことが目的のようです。でも、作戦が成功しなければ……パラミタに住む人々に未来はありません。だから、力を合わせて、契約者の皆さんが襲ってくる敵を阻んでいるところです」
 心配をする人々に、大丈夫です、もう少しの辛抱です、と。『エイボンの書』は優しく語って、ナーシングで、心と体の治療を行っている。
「ええと……悪い知らせ。言いにくいんだけど、放送でも入ると思うから言っておくね」
 アリアクルスイドが、銃型HCで確認した敵の情報を話し出す。
「エネルギー室に向かっていた機晶姫の一部が、こっちに向かってきてるみたい。負傷者の後をつけてきたのか、それとも敵がこっちに目をつけたのかわからないけど」
「人手が増えてからで良かったというべきか……」
 それとも、人が増えたから狙われたのか。
 訪れた人の中に、敵の狙いとなる人物がいるのか。
 そんな考えが僅かに過るが、涼介のやることは変わらない。
「怪我人を一刻も早くここへ。防衛は……任せた」
 部屋の前にいるクレアに言い、涼介は受け入れ態勢を整えていく。
 クレアはうんと頷いて、防衛に当たっている仲間達と一緒に怪我人を迎えに出る。
「手伝います。……気を付けなければいけないこともあるかと思います」
 が涼介に近づき、小声で言う。
「突然、こちらが狙われ始めたのには何か理由があるような気がします。少し、調べたいこともありますので、運び込まれた怪我人の検査を担当させてください」
「ああ、手分けして行おう。重傷な者は応急処置をしてから、な」
 涼介は翔が何を気にしているか、なんとなく分かった。
「うん、重傷患者は俺も診る。優先的に治療するさ」
 言ったのはソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)
「これから更に、怪我人が沢山運び込まれるでしょう。今、治療に当たっている人達も……。ですから、精神力は緊急の治療が必要な方のために、とっておきたいと考えております」
「出来るだけ苦しみを長引かせたくはないと思ってるけど、ここは戦場だからな」
 翔とソールの言葉に、涼介はしっかりと頷く。
「魔法を使わずとも、適切な治療が出来るようお互い頑張ろう」
 そう声をかけた。
「私は危険を感じ取ることが出来ますので、ここにいます」
 医務室に到着したルシンダは、入口の傍で立ち止まる。
「無理はされないでくださいね。治療が必要なのはあなたも同じですから」
 ザウザリアスはルシンダに親切に接しながら、彼女と共に部屋の入口付近に留まる。
 彼女に疑いを向けようとする人がいるのなら立ち塞がり阻み、追い詰めようとする者がいるのなら、彼女を擁護し、止めるつもりだった。
「ここで護衛しますねー」
 オリヴィアミネルバを伴い、入口の前に立った。
「何かあったら、ちゃんと助けを求めてね」
 は自分の頭を指差す。テレパシーも歓迎だよというように。
 ルシンダは複雑そうな顔で頷いて、俯き加減になる。
「特攻の可能性があるかもしれません。近づけさせないようにしましょう」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は、ルシンダをちらりと見た後、魔鎧の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)を纏った詩穂と共に、迎撃に出る。
 ルシンダが精神攻撃に侵されてはいないかと気にしてはいたが、探るよりも今は詩穂と共に守ることを優先にする。
「相手の手に渡ってた要塞だからねー」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がルシンダに近づいて笑みを見せる。
「もし何か変な事を感じたら、ちょっとの事でもいいから周りの人に知らせてね」
「はい」
 素直にルシンダは返事をした。
「そーいえば、ミケーレさんとは本当に?」
 付き合ってるの? と興味津々そうにヘルは尋ねる。
「え……広めないでください」
 ルシンダは困ったように答える。
「わかった。広めないから聞かせて。貴族同士じゃ色々ありそうだけど、どの程度……あたたっ」
 そんな場合じゃないだろと、呼雪がヘルを引っ張って連れいていく。
 ――勿論、ヘルはただコイバナをしたかったわけじゃない。
「んー、ミケーレ・ヴァイシャリーも罪な男……なのかなぁ」
 引っ張られた先で、ヘルはそう呟く。
「盲目的な恋をしている、というわけではなさそうなカンジも?」
「彼に対する思いは、強そうではあるけれど、な」
 ヘルのつぶやきに、呼雪はルシンダをちらりと見て、とある女性を思い浮かべながら答えた。
 …それを見ていたローリーが、マリーの服をくいくい引っ張る。
「マリちゃん、ルシンダさんは、制御室にいたミケーレさんとイイ関係みたいだよー。美男美女でお似合いだねー」
 広めるつもりはなかったが、そういう噂は瞬く間に流れてしまう。
「お似合いだけれど、何か裏があるかもしれないわ」
 注意しておきましょう。と、マリーはローリーに答えておく。

「みんなで、お月様にいくですよ〜。お月様まであともうすこしですよ〜」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、激励や幸せの歌を歌い、歴戦の回復術の能力も使って、皆を治療し、元気づけていた。
「アレナおねえちゃんも、だいじょうぶですよ〜」
 機晶姫の接近を知り、座って治療に当たっていたアレナの顔が強張る。
 自分を狙ってかもしれない、そんな考えが過り、恐れていた。
「はい」
 無理に笑顔を出そうとするアレナに、ヴァーナーは両手を広げて近づいて、ハグをして。
「だいじょうぶなんですよ〜」
 と優しい声で言って、アレナの頭を撫でた。
「はい、大丈夫、です……大丈夫、にします」
 アレナはお礼のようにヴァーナーの頭を撫でて、立ち上がる。
「私も行きます。守りますから、絶対大丈夫です」
 医務室にいる皆に声をかけて、星剣を取り出して見せて。
 それから、ヴァーナーと一緒に、友人達が待つ通路へと向かっていく。
「……」
 そんな2人の様子を、ルシンダが感情のない目で見ていた……。

「好きな相手との約束を守る為に、抜き差しならない状況になっている、のだろうか」
 少し離れた場所から、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)はパートナーのイルマ・レスト(いるま・れすと)と共に、ルシンダを見ていた。
 傍らにいる円から、話は聞いていた。
「なんだかユリアナを思い出すな。まどかも何とか助けたいようだし……ソフィアさんとルシンダをダブらせてるんじゃないかな」
 だけど、ユリアナともソフィアとも、ルシンダは違う人物だから、その思いがどのようなものなのか、まだ誰も解ってはいない。解ってからでは遅いということも、これまでの経験で円達は知っている。
 ユリアナ、ソフィア……そして、綾、クリス、晴海、ファビオ、ミクル。命を賭けて、敵対してきた者達の立場も思いも、それぞれであった。
 似た部分はあった。
 思いを遂げて逝った者。
 志半ばで討たれた者。
 罪を背負って生き続けている者。
 シャンバラの為に、命を賭し続けている者。
 多くの者に許された者。
 彼女達の今の違いは何だろう。
 どうしたら、目の前の彼女を助けられるのだろう……。
 真剣にルシンダを見詰める円を、千歳は複雑な気持ちで見つめていた。
「敵方と通じているかどうか本当のところは分からないが、目の前で死なれるのはこりごりだしな」
 ふうと、千歳はため息をついた。
 だけど……。
 彼女が内通者なら、判官としては捕縛するべきなのだろう。
 しかしできれば、穏便に済ませたいと思うのは。
(甘ささろうな)
 尤も、裏切りを示す証拠は何もないし、それを理由に今身柄を拘束することは難しい。
 とはいえ、離れた場所で行動に移されてしまうことは防がなければならない。
「彼女が、ソフィアやユリアナと同じ運命を辿るのではないかと、不安なのですね。あなたも、円さんも」
 千歳の隣で、ルシンダ達を見守り、監視をしながらイルマは言葉を続ける。
「確かに、彼女は2人に似ているところもありますが、2人の死は誰の失敗でもなかった」
 それは、彼女達の選択だったから。
「ルシンダが同じ選択をするのなら破滅するでしょう」
 そんな予感がしていた。
「ミケーレ様は、ラズィーヤ様のご兄弟です。愛国者であり、背信者であるわけはありません」
 だから、ミケーレが敵方と通じている可能性はないとイルマは考える。
 ミケーレが敵側の一味であり、ルシンダを愛で縛り、操っている可能性はない、と。
「そうだな……」
 と、千歳はイルマの言葉に答えた後。
 二人は一緒にルシンダに近づく。
「契約者達が迎撃に出ているが、入口は危険だ。あなたには戦う力がないと聞いている。もう少し中で戦闘が終わるまで待機しててくれ」
 厳しめの口調で、千歳は言う。
「攻撃が見えていれば受けないことはできますので……。見える位置で待機させていただきます」
 言って、ルシンダは少しだけ入口から離れて、ドアの方に目を向ける。
「一つ、お聞かせください」
 続いて、イルマがルシンダに問いかける。
「あなたには、恋人がいるようですが、恋人への想いを貫こうとする一途さは悪いとは思いません。ただ、あなたの選択によっては、傷つく者もいます」
 翻意を期待しているわけではなく。
 イルマは言葉を続ける。
「あなたの選択はどれなのですか」
「何を言いたいのかわからないけど、答える必要のないことだわ」
 そう言ったのは、ザウザリアスだった。
「ええ、言葉で答えてほしいとは思っていません。見させて、いただいますわ」
 言って、イルマは千歳を連れてまた少し、ルシンダと距離を取って見守っていく。