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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

リアクション

(……何があったんだっけ……)
 かすむ視界の中、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は残りの力を振り絞って、これまでの経緯を思い出そうとしていた。
(ユゥノ……ユゥノ・ユリン(ゆぅの・ゆりん)と一緒にクリスタルフォレストの調査に来て……そういえば、ユゥノのいた未来では、僕は水晶になるんだっけ……)
 徐々に記憶が明確になってきた。そう、一緒に居た者がいた。


「なんであなたは、そう不注意なの? この森には生き物を水晶にしてしまう力が働いていると、みんなが話してでしょ」
「そうだっけ? でも、取って見なきゃ、調べる方法なんてないじゃないか?」
 本宇治 華音(もとうじ・かおん)がかんかんになって、ウィーラン・カフガイツ(うぃーらん・かふがいつ)への説教を続けている。
 ウィーランがあろうことか、水晶の草を素手で引っこ抜こうとしたのである。
「そんなことをしたら、自分から危険に飛び込むようなものよ。燃えているものをつかむのとおんなじじゃない!」
 華音がげんこつ一歩手前、というように声を震わせている。
「そ、そうだったかな? 覚えてなかったよ」
 というのがウィーランの返答だ。
「あ、あはは……まあまあ、そのぐらいにしておこうよ」
 と、ユーリが止めに入った。
「だめだってあんまり言い過ぎると逆に触りたくなっちゃうものだし、ここでじっとしてても仕方ないって」
「そうですよ。せめて素手じゃなくて、こうやって手袋をつけるとか、ですね……」
 と、ユゥノ。
「……まったく。仕方ないですね。以降、気をつけるように」
 と、華音が腕を組んだ。
「まあまあ。……でも、ほら、ちょっと触るぐらいなら大丈夫だよ」
 ……と、怒られていたウィーランより咲に、ユーリの我慢が限界を迎えたのだ。
 ぺたり、とその手が水晶の幹に触れる。瞬間、ぐらっと視界が揺れたように感じられた。
「あ……あれ」
 手を離そうとしても、うまく体に力が入らない。吸い付いたように、掌を離すことができない。
「ほらほら、平気だって。ちょっとくらい持って帰った方が……」
 ウィーランの手が同じ木に伸びてくる。ユーリは止めようとしたが、声の出し方を忘れてしまったように、その動作を止められなかった。
 幹に触れた手が中に潜り込んでいく。ずぶずぶと、まさに飲み込まれる感触だった。
「……お父さん!」
 ユゥノがなんとなく危険な呼び名でユーリの名を叫ぶ。
「……危ない、これ……っ!」
 隣のウィーランも動揺、触れた場所から木の中に飲み込まれそうになっている。
「ウィラ!」
 悲痛に、華音が叫んだ。


(そうか、それで、僕は……)
 すでに半身が幹の中に取り込まれている。体に力が入らない。
(ユゥノが生まれる頃まで、居られなかったな……)
「ウィラ! ……もう、世話かけさせて!」
 半ばやけを起こしながら、華音がナギナタを構えた。
「ど、どうするんですか!?」
「これを壊して助けるしかないでしょ! 人命優先です!」
 二人を飲み込みかけている木をにらみつけて叫んでいる。
「でも……」
「水晶に触れると力を奪われるみたいデス。どんな手段でも、水晶から離せば助けられるかも知れマセン」
 危険を察知したのだろう、駆けつけたディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)が戸惑うユゥノに告げた。
「そういうこと! まったくもう!」
 その後、ユーリに感じられたのは、断続的な振動と、水晶が何度も砕ける音だけだった。気づいたときには、むき出しの地面に横たえられて、ディンスの手によって体にまとわりついた水晶を剥がされていた。
「……触っても、平気なの……?」
 と、聞く声はかすれている。
「最初に人の心配をするなんて、優しいデスネ。この手は生身じゃないから、少しは平気デスヨ」
 ディンスが、義手の精巧な指を動かして見せた。謝るべきかもしれないと思ったが、言葉は続かなかった。
「命に別状はないようデス。でも……生命力が失われているみたいデスネ」
「こっちも、そうね。まったく……あんなに言ったのに」
 と、ウィーランの様子を確かめていた華音が、言葉とは裏腹にほうっと安堵したように言った。
「お父さん! よ、よかったです!」
 一方のユゥノは感極まった様子でへたり込んでいる。
「これを見てくだサイ」
 と、ディンスが示すのは、水晶の木のそばに置かれた小さな盆栽だ。すぐ隣に、カメラも置かれている。しばらくすると、先ほどのユーリたちがそうであったように、サボテンがずぶずぶと水晶に飲み込まれていく。助けられなければ自分もこうなっていたかもと思うと、ぞっとしたものが全身に走る。
「……やっぱり、カメラのほうには反応しないネ。この森では、水晶化が起きる前に、先に水晶の中に取り込もうとするようデス」
「今みたいに、生命力を完全に奪われる前に水晶の方を壊せば助かるかもしれない……?」
「そうですね。……みんなにも伝えないと。それに……」
 華音が寝かせた二人を見る。少しずつ体力は戻って来ているようだが、まだ体を起こすのがやっと、と言う様子だ。
「お父さん……じゃなかった、ユーリさんたちのためにも、戻らないと」
 かなり今更の訂正を口にして、しまった、というようにユゥノは口を押さえる。
「事情がありそうネ。道すがらに聞かせてヨ」
 ユーリを抱き起こしながら、ディンスがウインクを送った。