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リアクション
ミッション・スタート
まだできたばかりの中継基地は、いきなり、その歴史の中で最大のピンチを迎えていた。
砂漠での戦いから逃げ延びたイレイザー……ニルヴァーナの凶悪な生物なのだが、その中でもきわめて巨大な個体がやってきたのである。
それは契約者たちによって頭部を破壊されたのにもかかわらず、無尽蔵とも思える生命力で生き残っていたのである。そして、あろうことか、基地に取り付いてそのエネルギーを吸収しようとしているのだ。
ニルヴァーナ調査隊はこの事態を重く見た。近辺に分校を作ろうとしているパラ実生徒達も協力して、イレイザー打倒に向けての作戦が開始されたのである。
エネルギー率の低下している基地内部。弁天屋 菊(べんてんや・きく)は基地の食料をかき集めた釜を開けて、その中でほくほくと湯気を上げる白米をかき混ぜる。時間がない、冷まさなければならないのだ。
「うっわ、すごい量。これ全部お握りにするの?」
その中身をのぞき込んだ魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)が驚きの声を上げた。
「当たり前だよ。これからあのデカブツと戦おうってんだ。まずは何より腹ごしらえだよ。ほら、手伝いな!」
菊は早速取りかかる。それを見て、三二一も渋々ながら、
「よ、よーし。分校と夢のランドのため!」
と、腕まくりをしておにぎりづくりに取りかかる。
「……ここが勝負だよ。あたしらが調査隊の手伝いをしてやったなんてことになったら、分校は調査隊の手下になっちまう。ここであたしらが売った恩で、植える種をぶんどるんだ」
じっと集中した様子の菊が、ぽつりと漏らすように言った。
「種を……!」
三二一は戦慄した。パラ実において、種籾から食料を育てることの難しさを痛感していたからである。そして、同時に菊の覚悟に恐れにも似た経緯を感じたのだった。この戦いが終わっても、長く続くであろう開拓の日々。それに立ち向かうだけのものを、この女は抱いているのだ……!
「あ、あたし感動したよ! 姐さん、なんとしてもこの天王山、制してみせるよ!」
「口より手を動かしな! ほら、とりあえずあんたの相棒に飯運んでいってやりな。今、動けないんだろ」
「はい、姐さん!」
湯気を上げるおにぎりをニルヴァーナの植物の葉でくるみ、三二一は駆けていく。その背を見て、小さく肩をすくめてから、菊は調理を再開したのだった。
「それで……一気に突っ込んでったんだ! それから、もうとにかく突っ込んで、そしたら、あの水晶があって、あとは夢中で……」
漫画みたいに包帯ぐるぐる巻きの浦安 三鬼(うらやす・みつき)が、必死に思い出すように報告を口にする。
「うーん……」
なんとか、その報告のイメージをつかもうとしているルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、困ったようにペンのお尻でこめかみを叩いた。
「ま、まあ、とにかく、中にギフトらしきものとコアらしき水晶があるってことは分かったね」
教導団の理路整然とした報告とはまったく毛色の違う報告の仕方に戸惑いながら、なんとかその意味を解釈しようとしているようだ。
「すまねえ……無我夢中で、見てくるので精一杯だった」
と、言っているところに三二一がおにぎりを運んでやってきた。
「三鬼、ケガは平気? まったく、あたしはたった今心を入れ替えたって言うのに、情けないよ」
「おまえの心入れ替え事情は知らねえよ! ……ってて」
思わず叫ぶ三鬼にやれやれと首を振り、おにぎりを彼の口に運ぶ三二一。ふっとほほえんで、ルカルカは手を上げた。
「三二一、よろしくね。みんなで力を合わせて、基地を救いましょう」
が、三二一はきりりと目をつり上げる。
「愛想の良いフリをしても、あたしは騙されないよ。あんたたちの手下になんかならないんだからね!」
「は……えっ?」
反応に困るルカルカ。どうも、三二一は分校を守るために気負っている様子だ。
「行くよ、三鬼!」
ぐい、と(包帯の巻かれた)手を引いて歩き出す三二一。
「おい、こっちはけが人だしまだ食い終わってねえ……あいててて!」
悲鳴を上げながら歩き去っていく二人。その背を見送って、ルカルカは、しばらく呆然としたもののすぐに自分のペースを取り戻した。
「……まあ、とにかく、共同作戦開始よ!」
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