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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 23 ファーシー×ファーシー

 時刻というものを描写しそびれていたが、休憩しているうちにツァンダの元巨大ゴーレムの中もすっかり暗くなっていた。光術の明るさがほんのりと中を照らす中、土偶は言った。
「あんた、誰?」
「誰って……」
 ぴき、となるラスに、土偶は陽気とも取れる声で言う。
「あんまり印象に残ってないのよねー。脇役?」
「おい、こいつ壊していいか? 今ここで壊して存在抹消していいか?」
「ら、ラスさん、落ち着いて……」
 まあまあ、とエースが止めに入ってくる。脇役自体は上等なのだが、というよりむしろ脇役思考で最近出番多すぎだろとか思っているくらいなのだが、この土偶……機晶石に言われると無性に腹が立つ。
「とにかく、わたしは合体なんかしないわよ! わたしはわたしだもの。それより身体寄越しなさいよ。出来るんでしょ?」
 カツアゲか。新手のカツアゲか。
「まあ、それは解るんだけどな……でも、仮に身体を得たとしてお前どうすんだよ。どうせ、ファーシーと同じで何かしらの障害は出る。それがどんなもんかも分かんねーんだぞ?」
「う……、それは……」
 少し勢いの衰えた土偶から目を逸らし、ラスはエースの方を見た。先程から、ずっと気になっていた物がある。
「……で……エース、それ何だ?」
「あ、これ?」
 エースは持っていた機械を見下ろす。円柱の形をしていて中央に薄い溝がある機械だ。
「別室で見付けたんだけど、メシエが何かに使えるっていうから持ってきたんだ」
「修理すれば、まだ何とかなりそうだったからね。まあ、機能についてはそれを示す文献が見あたらなかったのだが」
「ふぅん……」
「ああ、それなら……」
 そこで、エミールが会話に加わる。
「先程見つけた皮紙に、その機械に似た図がありました。ということは、あそこに書いてあった説明は……」
 それを聞いて、メシエが期待に満ちた表情をする。だがエミールは、何かに気付いたように言葉を止めると土偶を見て首を振る。
「いえ、この話は後にしましょう」
「む、そうか。残念だな……」
 メシエは何かを感じ取ったのか、無理に聞き出そうとはしなかった。
「何か、今回のことに使えそうな機械なのかな?」
 エースが不思議そうに首を傾げ、それから思い出したように皆に言った。
「そうだ、こうして機晶石も集まってファーシーも見つかったことだし、一度、ファーシーに電話してみない? あ、キマクの方のファーシーにさ」
 
                           ◇◇
 
「…………アクアさんと、お話……」
 ハーレック興業の静かな事務所に甲高い音が鳴り響く。ファーシーは、携帯電話を取り出した。
(……誰だろう……?)
『ファーシー、俺だよ、エース』
「エース、さん……?」
 そこでファーシーは、パークスでの結婚式を思い出した。礼拝堂の壁一杯に飾られた花。フラワーシャワー。
『今、ファーシーが前に動かしたっていう機晶姫製造所にラスさん達と来てるんだ。そこで、ファーシーの脚を治すのに役立つかもって壊れた機晶石を集めてたんだけど、結構集まったから、伝えておこうと思ってさ』
「機晶石? え? あの時に魔物化した部分を集めて? え、しゃべる……石? ……そう、そんな事までしてもらえてるんだ……」
『うーん……アクアの件、まだ、うまくいってないのかな?』
 元気の無いファーシーの声を心配したのか、エースは言う。
「うん……、わたしのせいで、怪我人まで……」
『……そっか。でも、きっと良い方向に行くよ。アクアは、まだ少し心を許せないだけなんだと思う。俺は、ちょっと話を聞いただけだけど』
 そして、野良猫の話を少しして。
『感情部分っていうのが、理性で割り切れないのも判るけどね。……うん、まあ、俺はそう思うってこと。こっちでファーシーも待ってる。また、後で会おう』
『待ってないし、わたしはわたしのことなんてどうでもいいんだけど……あ、わたしっていってもね向こうの……ああもう、ややこし……』
 ぷつん。
 電話が切れる。
「わたしの、声……?」
 何だか訳が分からない。ただ、分かるのは、皆が自分の為に動いてくれているという事。一生懸命、協力しようとしてくれていること。
 暖かくて、嬉しくて、涙が出そうだ。
 でも同時に、先程見た映像を思い出して、今の状況を考えて、アクアを叩いた時よりも強い、怒りの感情も起こって。
 これが……理性で割り切れないもの、なのだろうか。
 少しだけ、少しだけ、理解出来た……?
 そう思った時。
「……いたっ!」
 チョップを食らって、ファーシーは頭を両手で押さえた。座ったまま見上げると、そこでは犯人であるフリードリヒが右手を手刀の形にして不敵な笑みを浮かべていた。
「なにするのよ!」
 当然の権利として抗議すると、彼はすたこらとファーシーから離れていく。そして突然振り返り立ち止まると、挑発するように言った。
「鬼さんこーちら〜♪ 手の鳴るほうへ〜♪」
「な、何よこんな時に……!」
「少しは歩けるようになったんだろ〜?」
「分かったわよ行ってやるわよ!」
 無駄にむかっとくるにやにや笑いにファーシーは立ち上が……立ち上……
 ぐにに……
 ぐに……
 おおっ!? と、皆もつい彼女に注目する。
「……え、えいっ!」
 立ち上がった。つい拍手が起こる。しかし何だろうこれは。Claraが立った時のような感動が全く無いのだがこんな重要なシーンをこんな風に流していいものだろうか。
「ほれ、こっちまで歩いてみ〜? ほれほれほれ」
「うーーーーー………………なんかむかつく……うざい……」
 しかし悔しいのでぎぎぎ……、と少しずつすり足で歩いてみる。しかしそこで力尽きて、ファーシーはぴたっと動かなくなった。ぜーぜーと息を吐いている。涙目だ。
「と、突然そんなに歩けないわよフリッツの馬鹿! な、なんなのよもう……!」
「んなの、お前が暗い顔してるからに決まってんだろー?」
「…………!」
 ファーシーは、驚いて彼を見返した。
「え……?」
「んな顔してんなら暇あんなら、動け! さっさとあいつに会いに行きゃーいいじゃねーか!」
「……う……い、言われなくたって会いに行くわよ!」
 勢いでそう叫んで、彼女はまたぎぎぎ、と足を動かす。だが、そこではたと止まった。
「あ、会いに行くって……、どこに?」
「「「「「「「「……………………」」」」」」」
 独り言のようなフリードリヒに言ったような、皆に言ったような。自分でも判然としなかったが……何にせよ即答出来る者は誰も居なく。
「ん〜〜〜〜……」
 相変わらずビデオカメラを回して2人のケンカ……いや真面目な歩行訓練……いやファーシーが自力で立った貴重なシーンを撮っていたシーラが、何か考えるようにしてからのんびりと言う。
「私達、最初に地図をもらってましたわよね〜。確か、避難場所とかに丸がついていたはずですわ〜。アクアさんについていった方々はそちらに行くのではありませんか〜?」
 その時。
 事務所のドアが開いてエプロンをつけたシルヴェスターが入ってきた。
「夕飯が出来たけぇ、飯じゃ! 辛気臭い顔しとるやつらも飯でも食って……、て、何じゃ? そう辛気臭くも無さそうじゃな、ええことでもあったんか?」
 きょとんとするシルヴェスター。大事なシーンにまたもや立会いそびれたことには気付いていない。
 ――皆はひとまず夕飯を食べることになり――

 その数時間後、地図を頼りに避難場所へ向かっている最中――

 キマクで、爆発が起こった。