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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 25 パーツ開発、開始(機晶姫編)

 機晶姫のパーツ製作工房は、イコンパーツを開発する研究室から少々離れた所にあった。廊下を歩いて長めの階段を昇ってドアを開けると、そこでは着々と開発が進んでいた。 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は、機晶姫の空挺用強襲ユニットを造っている。輸送コンテナ内臓型、仮名称『コンテナユニット搭載型機晶姫用飛行ユニット』だ。飛行ユニットに脱着可能な小型コンテナを搭載し、物資輸送に使える様にしたタイプで、コンテナの部分に食料、弾薬等各種物資が搭載出来る。
 ライナスはその製作状況を見ながら、亮一に言う。
「順調のようだな」
 楽しそうにかちゃかちゃと部品をいじっていた亮一は、それを聞いて顔を上げた。
「先程は手が離せなくて開発の方向性の話だけで終わってしまったが、何故飛行ユニット作ろうと思ったんだ?」
「ああ、機晶姫用飛行ユニットっていうのは出回ってるが、まだ少数だからな。今後、イコンと共同で作戦を行うとなると、随伴歩兵にも飛行能力が求められるようになると思うんだ。で、どうせ作るなら只の飛行ユニットじゃ物足りないんで、ユニット自体を少し大型にして、武装を追加してみようと思った訳だ」
「なるほどな……」
「この分だと、数日で完成するだろうな。A案とB案も造ってみたいけど……。飛行ユニット自体の構造を主翼、動力ユニット、本体の3パーツに分けて本体部分を換装する事で、ABC案全てに対応出来る様にしたい所だが、流石に難しいかな?」
 コンテナ型はC案。亮一の考えてきた案は他に、機晶キャノン装備型のA案――コームラントを参考に飛行ユニットに機晶キャノン2基を搭載したタイプ――とミサイルポッド装備型のB案――店売りの6連ミサイルポッドをユニット本体後部に2基内臓させた火力支援タイプ――があったのだが多分にガイド的メタな理由にて……
「それは難しいだろうな。今回はやはり、C案のコンテナ型に留めておいたほうがいいだろう」
「そうかあ。なんにせよ、複合兵装って浪漫だよな!」
「ロマンというのはぴんと来ないが……面白い案であるのは確かだな」
 その頃、モーナは助手達の手伝いをしていた東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)の様子を見に行っていた。
「…………」
 雄軒の後ろに立つバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)に興味深そうな目を向けつつ、彼女は言う。彼の方が年上なので、一応敬語だ。
「ライナスさんが開発中のパーツは、どうです?」
「……ふむ。実に興味深いことばかりですね。知識欲を刺激される事ばかりです」
 雄軒は答える。彼は、研究所の知識を得たい、というのとちょっとばかり自分の知識も活かしたいということで今日ここを訪れていた。助手であっても、自分よりも遥かに上の知識を持つ人物も大勢いる。彼らと協力して開発をしていければと思っていた。
「分からない所はどんどん教えていただきたいですね。私も、まだまだ未熟ですから」
「……東園寺さんは、謙虚ですね」
「知識に対しては敬意を払う。これは当然の事ですから」
「知識には敬意を、か……本当にそうだね」
 その言葉を自分に刻み込むように、モーナは半ば独りごちた。そこに、ライナスがやってきた。一通り開発の経過を確認する。
「この開発中のパーツ、どうだ? 何か意見があれば、私としても取り入れていきたいが」
 そう言われ、雄軒は改めてパーツの各部に目を通す。
「そうですね……」
 これまでに手伝ってきたことを思い出し、相手の知識量の方が上であることは承知の上で、感じた事を述べていく。その1つ1つに対し、ライナスは頷いて確実にコメントを返していく。雄軒も、彼の言葉を真剣に聞いている。ライナスの持つ技術についても質問をし、返ってくる返答や、直に工具を持って説明される事を理解しようと努めた。忙しいとはいえライナスには余裕があるようで、積極的に話をしてきた。
 しばらく、そんな会話が続いた所で――

                          ◇◇

 研究室に男が入ってきた。ドアを勢い良く開けた途端に堂々とした口調で話し始める。
「我輩、化野 久太郎(かの・きゅうたろう)というである! 機晶姫の強化パーツを開発すると聞いて海京から必死こいてやって来たのである! 運動は苦手なのだが、ぶっちゃけチャリンコでマッハを超えるスピードで赴いてやったのである!」
 突然の名乗り口上に、室内に居た面々はぽかんとして動きを止めた。しーんとした研究室の入口で、久太郎は皆の反応を待つように胸を張って立っている。
 そこで、突っ込みを入れたのはモーナだった。
「いや、自転車でマッハなんて超えらんないよね……」
 しかし、本当に海京からここまでチャリンコで来たとしたら――実際チャリンコで来ているが――普通にスゴい。マッハ超えてなくてもスゴい。だが、そこより突っ込みを入れたい所は――
「もう一度、名前教えてくれる? あ、ひらがなで」
「ばけの きゅうたろうである!」
「おばけの……」
「それ以上は言ってはならんのである! 我輩の事は化野、若しくは博士と呼ぶのである!」
 否が応にも白くてアヒル口のキャラクターを思い出す名前の久太郎は、そう要求した。
「じゃあ化野で」
 一度は「お」をつけてフルネームを呼んでみたいがそれは版権というボスがやってきそうなのでやめておく。どうでもいいが白くてアヒル口のあのキャラクターを思い出そうとしたら中の人は外国の女王の名前を持つキャラクターの方を最初に想像してしまった。……精進して出直してきます。
「では化野……」
 そのテンションにも動揺も気後れも何もせず、先程までと全く変わらない態度でライナスは言う。
「早速だが、このパーツ開発を手伝ってくれないか」
「承知したのである!」
 化野はライナスの示した造りかけのパーツに駆け寄ると、おおっ、と興奮の声を上げる。
「これは、あと少しで完成であるな! すごいパーツなのである! 我輩、漲ってきたのである! 胸熱と言うやつなのである!」
「……ふむ。少々個性的だが確かに知識はあるようだな」
「少々……? ていうか、ライナスさん、もしかして化野君試しました?」
「……まさか」
「むむ、今のは聞き捨てならないのである! ライナス殿、我輩の完璧なる腕前をその目に焼き付けてほしいのである。このパーツは、出来たら我輩がテストの監督をして最適化するのである!」
「いや、それは……」
「いいんじゃないですか? 皆、テストは各々やってますし」
 化野はパーツと研究所の設備を前に、すぐに残りのパーツ作成を開始した。既に目の前の作業に没頭して2人の会話は聞こえていない。
「伊達や酔狂で、海京でニートもびっくりな引きこもりっぷりの研究なぞしていないのだ。今こそ、我輩の研究の成果を世に知らしめてやるときなのだよ! おお! この補助機械は! おお! 構造を知りたいのである! 早速分解を……!」
「わー! それは分解しないでください!」
 助手が慌てる。それからしばらく、助手と化野の開発用機械を巡る攻防は続いた。ダメだこいつ……早く(以下略。
「何だか危ない雰囲気が出てますね、漫画とかに出てくる狂科学者のような」
「……私も若い頃はああだった」
「……は?」
「冗談だ」
 そしてライナスは、雄軒の所に戻っていく。話が中途半端に終わっていたらしい。再び話を再開して程なく、雄軒は自分の考えたパーツ案について話し始めた。
「『ワイヤークロー』?」
「ワイヤーによって、遠くまで飛ばして鉤爪の部分で相手を拘束する事も出来るし、致命傷を与えることもありません。捕獲などにはもってこいになるのではないかと」
「ふむ……」
「実践面を考えるなら、素材を考えれば捕まえた後に電流を流したりすることも可能になるのでは? 捕獲用としても攻撃用としてもアレンジ次第では派生します。自動で動くようにはまだ出来ないにしろ、追尾可能になれば大分有効性も出るのではないか、と。……あくまでも、意見としてですが」
 武器の形状を想像していたのだろうかライナスは少しの間黙り、彼に言った。
「……それは、機晶姫限定で作らなくてもいい気がするな」
「……そうですか……」
 その意見に、雄軒は内心で肩を落とした。すわ却下かと思われたが――
「他の種族が使えてもいいんじゃないか? 制限無しの武器として、機晶姫以外の専門家にも話をしてみよう。形になるのは、機晶姫パーツよりも遅くなるかもしれないが」
「他の種族……、なるほど、何かの参考になれば幸いです」

                          ◇◇

「センセ、忙しそうやけど、何か楽しそうやな。……お、こっちきた」
「……形状を考えている所か」
 ライナスとモーナは、小尾田 真奈(おびた・まな)七枷 陣(ななかせ・じん)の前に並んだ様々な三日月型の太刀を眺めた。
「ブーメランのような使用が出来るような最適な形を色々と考えて切り出してみました。重量は、全て重めです」
「うん、機晶姫が使うんだからそれでいいと思うよ。威力も出るだろうし。ですよね、ライナスさん」
「そうだな……」
 ライナスは、太刀の一つを手に取って目を眇めた。
「これなんか、オレは良さそうな気がするんやけどな」
「……ああ、それもバランスが取れていそうだな。これまでに取った刃のデータを見せてくれるか?」
 4人は、そうして太刀の形、柄の構造などを話し合う。その中で、ふ、と陣が言う。
「……何か、去年もこんな風に色々練ってたなぁ……懐かしい」
「君は、メイド専用武器を連呼していたな。パーツ開発というよりメイド的な何かに夢中だったような……」
「センセ、メイド部分はほぼスルーだったのに、覚えてるんや」
「スルーしたから覚えてるんだ」
 そんな雑談も交わしつつ、機晶姫用のパーツ開発は続けられた。