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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 26 もう1つの魂、その欠陥
 
「まだ、アクアと仲直りできてないみたいだね。ファーシー、あんまり元気が無かった」
「へー……」
「何か、気のない返事? まあいいや。番号ありがとう」
「別に」
 最早、光術が無いと元巨大機晶姫の中は真っ暗である。皆は、それぞれに帰り支度をしながらエースとファーシーの会話を聞いていた。
「ファーシーちゃん大変なんだね。お友達とうまくいかないのかあ……」
「向こうは向こうで何とかすんだろ……あ、そうだ」
 そこでラスは、先程リーンから頼まれた事を思い出した。
「帰る気満々な所、すっげー言い難いんだけど……」
 そして、この建物内に特大機晶石がある事。そこから一部回収して研究所に持ってくるように言われた事を皆に話し始めた。だが、途中でニーナがそれを遮る。
「……あ、その石なら持ってます」
「……?」
「たまたま見つけたので、破壊工作で粉々にして一部持ってきました」
 そう言って、そこそこのサイズの機晶石を出して見せる。
「……………………これだな……って破壊工作だ!?」
「……何か?」
「…………」
 首を傾げられ、彼は言葉を失ってしばらく黙っていたが――
「……帰るか」
 脱力して、自分も帰り支度を始める。良く考えれば、件の特大機晶石が砕かれても特に不都合な事は思い当たらない。強いて言えば特大のまま売り払えば大金ざっくざくだったのにというのがあるが、ラス自身も電話が来るまでは石の存在を忘れていたし、どちらにしろ持ち運べなかっただろうし、まあ詮無いことだ。それよりも、一番の重要事項は今背負っている壊れた少女型機晶姫だろう。
「で、何で俺がコレを運ばなきゃいけねーんだ?」
「いやあ、スマンな、ラッスン! こっちのデカイ機晶姫、手分けして運んだ方が良さそうだったんや!」
「……確かに、でかいけどよ……」
 機晶姫の胴体を担当する社の隣では、スタンリーが無理に掘り起こした腕や足をまとめて縛って持っていた。荷物の重さに上半身が負け、かなり猫背ぎみだ。
「重い……」
「無機質な機晶姫ですよね。男性型機晶姫ですか……」
 ニーナがつるりとした機体にそんな感想を漏らす。各々通路に出て、一行は来た道を戻りだす。銃型HCを見ながら道案内をする明日香達の後ろを、光術と光る箒の明かりを頼りに歩いていると、土偶が突然声を出した。
「ねえ、アクアって……誰?」
 …………!?
 何人もがその言葉に驚き、足を止めかける。『ファーシー』が『アクア』を知らない……? 手の中の土偶に向けて、ザカコが言う。
「ファーシーさんの以前からのご友人ですよ」
「友達? 知らないわ。ううん、ちょっと待って……どういう友達? 見た目は?」
「そうですね、集合時に聞いた話では……」
「青くて長い髪で水色で、電気を使うのが得意だそうです」
 前の方から、ノルニルが言う。
「青くて、得意技が電気……? ああ、それならぼんやりと覚えてるわ。でも、名前までは思い出せないなあ……というよりね、ここが活発だった頃? の事ってあんまり覚えてないみたい。『わたし』が言っていた、『ルヴィさま』のこともね……」
「ルヴィを覚えてない……? じゃあ、俺のことも……」
「あ、それは別」
 合点のいきかけたラスだったが、土偶はそれについては即効否定した。
「この建物を動かしてた時の事は良く覚えてるから」
「…………あ、そう……」
「だけど……ルヴィさまについては……、執着心だけはあるみたいだけどね。顔も、性格も、覚えてないわ」

                           ◇◇

「先程の皮紙についてですが……」
 行きのルートを戻りながら、エミールが皮紙を出す。集団の最後尾、土偶ファーシーを持つザカコから離れた位置だ。今なら、土偶まで会話が聞こえることも無いだろう。
 エミールは、メシエの持つ機械を指して言った。
「その機械の説明書だと思います。図柄が似ているので。ここには……機晶石に残るデータを集め、1つにする機械だと書いてありますね」
「……1つにする? なんだそれ」
「壊れた機晶石に、データが微細に残ることは以前にもあったようです。それを吸い出す為の機械みたいですね。しかも、幾つか纏めてセットできるという優れ物です」
「機晶石のデータを吸い出す……?」
 つまり、この大量の小っこい欠片達にデータが残っていればそれを吸い出してこねくれる――ではなく1つに出来るということだろうか。
「私にも読ませてくれないか」
 メシエに言われ、エミールは彼に皮紙を渡す。
「なるほど……」
 ざっと確認したメシエは、内容からこう判断した。
「こねくれるかはともかく、全て吸い出すことは可能だろうね。時間は掛かるかもしれないが」
「……なんだ、その都合の良いチート機能」
 確かに、欠片の中にいちいちファーシーの魂の一部があったら激しくなんてもんじゃないレベルに面倒臭い、というかしゃべる魔物化ファーシーを前にしてからはファーシー大増殖みたいな事態にもなりかねないような気がしていて、それを防げるなら万々歳なのだが。
「確かに、チートだねえ……」
「しかし、これは……設計図ではない所が残念だね」
 呟くエースの隣で、メシエは本当に残念そうに皮紙を見直した。