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57


 会いたい死者の存在なんて、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)には存在しない。
 ついでに言うと、今日みたいな祭りの日に付き合ってくれる素敵な彼女も居やしない。
 ――去年の夏祭りは、世間のカップルへの僻みをバイトにぶつけたっけ……。
 苦い思い出を懐かしく思いつつ、さて今年は何をしようかと考える。
 バイトもないし、彼女も居ない。特異な現象に身を任せる理由もないし。
 ――そうだクロエをからかおう。
 という結論に至った。しかし、いや待てよ、と脳がストップをかける。
 クロエは最近、賢くなってきた。下手な出方をするとカウンターパンチを食らう羽目になる。それはまずい。いただけない。
 とあらばどうするか?
 答えは簡単だ。
 ――よし、今日は全部クロエに任せてみよう。
 祭りの会場へ向かったら、丁度良くクロエが居るじゃないか。しかもおあつらえ向きにひとりで。
 これはもう、神様がクロエで遊べと言っているようなものである。
 スレヴィはひらりと手を振ってから、
「ねえクロエ、俺と遊んでよ」
 キーワードを言い放つ。
「あそぶの? スレヴィおにぃちゃんと?」
「そう。今日の俺はクロエにお任せ自然体モードなの」
「なあにそれ。へんなの」
「……言うようになったねえ、クロエ」
 いつもながらに辛口なクロエの頬をむにぃと引っ張った。
「まあさ。お金は俺が持つし、本当俺と遊んでくれるだけでいいからさ」
「またなにかたくらんでるの?」
「企んでないよ。裏読みしないで素直に遊んでって」
「ひまなのね?」
 認めるのは癪だけど、図星である。仕方なしに頷くと、「しょーがないわねー」とやたらお姉さんぶった態度で言われた。
 ――……あれ、なんだろうすごくいじめたい。
「ほんとはもうかえるつもりだったけど、あそんであげる!」
 胸を張って、えへんと偉そうに言うものだからこう、むずむずと。
 だめだめ、今日はクロエに任せるんだから。
 言い聞かせ、自分を抑えていざ祭り会場へ。


「あれはなあに?」
 クロエが指差したのは、お面屋だった。
「お面を売っているんだ。耳のところに紐をひっかけて、お面をかぶるんだよ。
 クロエにはなんでも似合いそうだね。例えばおたふくとかひょっとことか。でも必要ないかな? 素顔のままでも、おたふくでひょっとこだから」
 冷やかすと、ぷぅっと頬を膨らませてきた。そうそうそれがおたふくでひょっとこなんだよ、と笑う。
「さ、そんな顔してないで。次行こうか、次」
「だれのせいよっ」
「さあねー。クロエの顔を作ったのはリンスだから、リンスかな? ああほらクロエ、カキ氷だよ。好き?」
「いろがきれいだとおもうわ」
「じゃあ食べる? 俺のお勧めはブルーハワイだよ」
 だって、舌が青くなって面白いから。
 何より本人が気付かないところがまたいいんだな、と頷く。
「それからりんご飴もお勧めだ」
 唇や、口の周りが赤くなるからね。とは言わないで。
 ああそうだ、両方食べさせて赤と青でカラフルに仕立ててやって、写メでも撮ろうか。そしてリンスに送りつけようか。
 ――……ああでもリンスは携帯電話を持っていなかったっけか。
 なら紡界にでも送るかな、と計画立てて、
「食べる?」
 悪魔の笑みを、向けた。


 携帯がメールの送信完了を済ませたのを見届けてから、
「それにしても、人形を通じて死者と会えるなんて不思議だな」
 スレヴィはクロエに話しかける。
「元彼女と死別だったら、ここでこうして遊んでなんかいないんだろうなぁ」
 舌を青くしたり、唇を赤くしたりしているお子様となんて。
 頭をぐりぐりと撫でながら言ってやると、「かのじょ?」と疑問符を浮かべられた。
「そ。居たんだよ、俺にだってね」
 今頃何をしているだろうか。少なくとも、地球でぴんぴんしているはずだ。
「振られたけどね」
「やっぱりせいかくがわるかったから?」
「お前……本当言うようになったね。性格じゃなくて、性癖が原因だよ」
「せいへき?」
「……っと。それはお子様に話せる内容じゃなかったな。忘れていいよ」
 むしろ忘れろ、と今度は頭をシェイクする勢いで撫で回した。
 うきゃー、と面白い悲鳴を上げたのでもう少し続けてやると、どぉんと空中で音がした。
「花火か」
「はなび!」
 クロエが目を輝かせた。好きなのだろうか?
「よく見えるところに寝転がって見ると最高なんだけど」
 クロエの格好は、浴衣である。さすがにこの格好で寝転がれというのは酷い話だ。
 かといって、こう人が多い場所だとお子様のクロエには見えない様子。
 なので、
「よいしょっと」
 スレヴィはクロエを抱き上げた。肩車、というより、片方の肩に座らせる感じだけれど。だって浴衣じゃ足を開けないし。
 きゃ、と驚いた声を上げていたけれど聞こえないふり。
「どう? よく見える?」
「きれいー……」
 ちらり、横顔を見た。これ以上なく幸せそうな顔をして、空を見上げている。
「そりゃ良かった。足元でぴょこぴょこ跳ねられて、いつ足を踏まれるかドキドキだったんだよね。あ、肩車代は後で請求するからよろしく」
 なので空気を壊すことを言っておいた。
「スレヴィおにぃちゃんって、いつもそう!」
「あはは。クロエ、またおたふくでひょっとこだ」
「もうー!!」
「ああこら暴れなさんな。落ちたら痛いじゃすまないよ」
 適当に宥めて、さあご覧と夜空を見上げた。
 花火が、きらきらと輝いている。
 あの人も地球でこうやって花火を眺めたりしているのかな。
 その隣には、今もう誰か居るのかな。
 なんて、余計なこともちらりと過ぎらせながら。