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60


 ――三人とも浴衣姿だと、やっぱり印象が変わるもんだなぁ……。
 と、当たり前ながら榊 朝斗(さかき・あさと)は思った。
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は絞りの紺の浴衣を着て、きりりと情緒溢れる風情に。
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は白い生地にオレンジの花と葉の黄緑が鮮やかな、モダンな浴衣を。
 ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)は、ベタな感じに金魚が泳ぐ朱色の浴衣である。
 浴衣を着ようと言い出したのはルシェンだったが、驚いたのはアイビスがまんざらでもない様子だったこと。さすがにウイングを外さないと着れなかったけれど、それでもしっかりと着付けられている。
「はぁ……朝斗の分も用意できなかったのが心残りだわ……」
 残念そうに、ルシェンが息を吐いた。言葉の奥に、『それでもってネコ耳をつければ完璧だったのに!』というものが見えている。現に浴衣を着せられたアイビスとあさにゃんの頭にはちゃっかりネコ耳が装着されている。和装にネコ耳は合わないのではないか、と思っていただけに意外でもあった。
「あ。もしかして、アイビス……気に入ってるの? そのネコ耳……」
「悪くないと思います。変ですか?」
 予想外の回答に、首を振った。
 そうか、気に入っているのか。アイビスの返答を聞いたルシェンが、少し嬉しそうに笑っているのが見えた。それまで自分の格好が――長身女性の浴衣姿、というのが変なのではないかとやや沈んだ顔をしていたから、明るい顔を見れたのは良かったけれど。
 ――なんか、明日以降嫌な予感しかしないなぁ……。
 朝斗としては、苦笑いが零れてしまう。
 さて、そんな四人が向かうは人形工房。
 祭りを楽しみたいのが第一にあったけれど、だけど。
「お祭りに行きましょう」
「にゃー!」
 工房のドアを開けて第一声、アイビスとあさにゃんが言った。椅子に座って作業をしていたリンスが、目を見開いて、ぱちくり。
「工房にこもっているばかりではいけません。折角の夏祭りですから堪能しましょう?」
 リンスの傍に寄り、アイビスが真っ直ぐ目を見て言い放つ。言われたリンスはというと、「ええと」と曖昧に言葉を濁している。
 行くつもりはないんだろうなあ、とその様子から見て取れた、けど。
 ――だからって、こもりきりなのはアイビスが言うようによくないよね。
 朝斗は持ってきたラムネをリンスに差し出した。
「どうぞ。冷たいし、美味しいですよ」
 流れに呑まれるようにラムネを受け取ったリンスが、人形を作るときとは対照的に不器用な手つきでラムネを開けようと四苦八苦。
「こうですよ」
 アイビスがひょいと取り上げて、簡単に開けてみせる。
「お見事」
「……ではなくて。リンスの経験不足だと思います」
「ラムネを開ける経験なんてそんなにないんじゃないかな」
「知っていれば楽しめることは増えると思います」
 言い放たれたアイビスの言葉に、再びリンスが瞬いた。
「なんていうか……変わったね」
「私が変わったのはリンスの言葉があったからです。他にも、私は変わろうとしているようです。その話も聞いてほしい」
 変わろうと、というのは魔法少女騒ぎの時のことだろう。
 魔法少女になり、クロエと共に活動してみせ。
 様々なことを経験してきたのだから。
「リンスは、変わりませんか? このまま、こもったままなのですか?」
 アイビスの問いは、純粋な疑問だった。
 それゆえ、朝斗には絶対にできなかった問いだ。
 リンスが口を噤み、ラムネを一口飲んだ。中のビー玉が、かろんと転がって音を立てた。
「行きませんか? お祭りに」
 駄目押しに朝斗も言ってみる。
「きっと楽しいですよ」
「クロエだって行ってるんでしょう? 案外鉢合わせたりして、楽しい時間を過ごせるかもしれないわよ」
 ルシェンも、無理強いはしないような口調で誘う。
「にゃー、にゃっ」
 白い紙に、『いこう!』と大きく字を書いて、あさにゃん。
 四人から誘われて無碍にできるほど、リンス・レイスは薄情ではないと(朝斗は勝手に)思っている。
 現に、ラムネに口をつけたまま黙っているし。
 きっと、どうしたものかと考えているのだろう。
 あと一押しがあれば。
 けれどそれがないままに時間が過ぎ、ラムネが無くなる頃合に。
 ばーん、と工房のドアが勢いよく開いた。
「リンスくん、未散くんの寄席を見に行きませんか?」
 若松 未散(わかまつ・みちる)の寄席に行こうと。
 唐突に、突拍子もなく言い放ったのは、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)だった。