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はっぴーめりーくりすます。2

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はっぴーめりーくりすます。2

リアクション



14


 ヴァイシャリーに飾られたクリスマスツリーが、それは見事で美しいものなのだという評判を受けて。
 キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)は、みんなで見たいと思った。
 だから街までやってきたのだが、
「噂のクリスマスツリーはどのあたりでしょうか〜?」
 どうにも見当たらない。
 セラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)に手を繋がれたまま、キリエは辺りを見回した。
 雑誌に書いてある地図のとおりに来たのだから、この辺のはずなのだが。
「う〜ん……?」
 悩んでいると、メーデルワード・レインフォルス(めーでるわーど・れいんふぉるす)ラサーシャ・ローゼンフェルト(らさーしゃ・ろーぜんふぇると)が雑誌を覗きこんできた。
「ね、メーデル。これって」
「ああ。……キリエ。道を間違えているぞ」
 告げられた言葉に、きょとん、となって地図を見る。それから、再び見回し。
 正直、よくわからなかった。地図と睨めっこし眉根を寄せる。
「……すみません。わからなくなってしまいました」
「今、俺たちがいるのはこの辺りです。目的地はここで」
 地図を見たセラータが、ぴっ、と指差して教えてくれた。
 どう見ても、反対方向に歩いている。ここから戻るとなると、相当な距離を歩かねばならない。
 戻ろうか。でももう日は落ちてきたし、これからは寒くなる一方だ。あまりうろうろしていると風邪を引くかもしれない。
 三人も同じ考えなのか、戻ろうという意見は挙がらなかった。代わりに、この辺りのお店を見て回ろうよ、とラサーシャが言った。
「……本当、すみません」
 みんなで見たくて、張り切っていたのに空回り。
 さすがに落ち込む。俯き気味に歩き始めると、繋がれた手に少し力が込められた。はっとして顔を上げる。と、優しく笑んだセラータと目が合った。
「大丈夫です。来年のクリスマスツリーも、きっと綺麗ですよ」
「来年、」
「はい。来年も再来年も……これから何度でも、見る機会はあります。それより君の手がこんなに冷えてしまっていることが俺は心配です」
 温かな手が、指が、絡められた。こちらからも指を絡める。
「ね! 今日は寒いよね。雪、降るんじゃないかな」
「降ると言っていたな。夕方から夜にかけてと、一度止んでから夜半過ぎにまたと」
 ラサーシャの言葉に、メーデルワードが返す。寒いのが苦手なメーデルワードは、マフラーに半分埋もれていた。動きもぎこちない。
「じゃあもうすぐ降ってくるかも? ねえねえキリエ、どこかお店に入ろうよ! 僕、何か温かいもの食べたいな。冷えちゃった」
「賛成だな。……でないとそろそろ氷像になる……っくしゅ、」
 身体を震わせ、小さなくしゃみをひとつ。
 慌ててメーデルワードの手を握ってみた。冷たい。セラータに冷たいと言われた自分の手よりもずっと冷たい。
「あああっ、こんなに冷えてる……! 気付かなくてごめんなさい、メーデル」
 寒気に弱いことも苦手なことも、もっと考慮するべきだった。申し訳なく思う。
「景色より休憩場所を探しましょう! ラサーシャ、近くに何か手頃な飲食店は見えませんか?」
「了解! ……三十メートル先にケーキ屋さん発見!」
 言われた方向を見ると、『Sweet Illusion』という看板が見えた。
「あのお店で休憩しましょう。良いですか?」
 セラータとメーデルワードに問う。二人が頷くのを見てから、キリエは店まで歩いた。
 イートイン可能な店内は混み合っていて、すぐには入れそうにない。
「そういえば、このお店も雑誌に載っていました」
 内装やケーキの種類を見て、ふっと思い出す。そう、雰囲気が気に入ったから、一度行ってみたいと思っていて。
「そうなんですか?」
「はい。ケーキも紅茶も美味しいそうです」
 楽しみですね、とふわり、笑む。
 待ち時間は長くて、寒くも思ったけれど、四人で固まって手を繋いでいたらそう悪いものではないように思えて。
「みんなの手、温かくなってきましたね〜」
 こうしているだけでも楽しいです、とキリエが言うと、三人が微笑んだ。
 そのまましばしの時間が経ち、四人分の席が空いた。席に座り、それぞれケーキを注文する。
「クリスマスですから、用意しましたよ〜」
 と、キリエが取り出したのはプレゼント。
「俺も用意してありますよ」
「僕も!」
「私もある」
 示し合わせたわけでもないのに、みんなプレゼントを準備していた。考えていたことが同じだったことにおかしく思いつつも、以心伝心具合に嬉しくなる。
 渡し、渡されたプレゼントは様々なもの。
 アクセサリー、小物、雑貨。どれもこれも、贈る相手の事を思いながら選んだプレゼント。
「私……みんなの契約者になれて本当に良かった……」
 受け取ったプレゼントを抱きながら、キリエは言葉を零す。
「今までの人生の中で、一番幸せなクリスマスを迎えられました。みんなのおかげです。ありがとう……」
 絡められたセラータの手が、緩く握られた。
 ラサーシャが、「僕も!」と陽気に笑う。
 メーデルワードは、寒さで白くなった頬を赤くさせて目を逸らし、頷いて。
 ああ、なんて幸せな時間なのだろう。
「あの」
 幸せを噛み締めていると、不意に声をかけられた。カメラを持った青年が、人懐っこい笑みを浮かべて立っている。
「いきなりすみません。幸せそうな皆さんの写真、撮らせてもらってもいいっスか?」
 四人は顔を見合わせた。見知らぬ人が見ても、幸せそうに見えるのか。形に残したいと思わせるほどに? そうなら嬉しい。
「どうぞ」
「構いませんよ」
「素敵に撮ってね!」
「悪用はするなよ」
 各々の反応を見て、青年が微笑んだ。カメラが向けられる。
「はい、チーズ」
 お定まりの言葉に笑んだ四人の顔は、心からの幸せに満ちていた。