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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 姉妹と兄妹と ■
 
 
 
 年末年始は使用人に暇を与えるのが、秋月家での習わしだった。
 普段仕えていてくれる人々が、それぞれの家で新しい年を家族と迎えられるようにとの配慮からだ。
「SPもお休みを取ってるんでしょ? だったら逃げたりしないのに〜」
 駅で囲まれるのは勘弁だけれど、そうでないなら普通に家に帰るのにと言う秋月 葵(あきづき・あおい)に、イレーヌ・クルセイド(いれーぬ・くるせいど)はそうは参りませんと首を振る。
「梓様より、くれぐれも監視を怠らぬようにと仰せつかっていますから。それに……」
 駅を出た所でイレーヌが足を止めると、次の瞬間、葵とエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は見知らぬSPに取り囲まれていた。
「……えーと、これはやはり……」
 エレンディラが困り顔で呟くと、葵も漸く事態を飲み込んで声をあげた。
「え、え、ええー?」
 
「で、イレーヌちゃん、これってどういうことなのかな?」
 SPに車に押し込まれた葵は、恨みがましい目をイレーヌに向けた。
「梓様から連絡を受けています。こちらは政府要人の護衛もされるスペシャリストだそうです」
「聞いてないしー。わざわざ外注で頼まなくても良くない? 一般人だよ私……」
 今回はSP無しで家に帰れるかと思っていたのにと葵が言うと、イレーヌはとんでもないと首を振る。
「常識的に、シャンバラ王国のロイヤルガードをなされている契約者を一般人と言う人はいないかと」
「むぅ〜」
 ちょっとむくれてみたけれど、車に乗せられてしまってはもうどうしようもない。
 葵は今回もSPに護衛されての帰宅になってしまったことを頭から追い出すように、窓の外に見える風景を眺めるのだった。
 
 
 私邸について車を降りる。
「それにしても使用人のいない屋敷は寂しい……あれ?」
 玄関を入った葵は、左右に並ぶメイドの姿に目を見開いた。
「使用人にはお暇を与えているはずなのに……」
 そう言いつつみれば、やはりそこにいるのは秋月家のメイドではない。
 けれど……見覚えがあるような……。
 葵が思い出すより先に、エレンディラが微苦笑した。
「なんだか自分の家に帰ってきたような変な感じです……」
「ああそっか。みんなノイマン家のメイドさんだ〜」
 見覚えがあるのも当然だ。秋月家の玄関で待ちかまえていたのは、エレンディラの実家ノイマン家で働いているメイドだった。
 地球に帰ってきたのに、迎えてくれたのはシャンバラにいるはずのメイドたち。
 違和感を感じつつも、葵たちはまず秋月財団総帥である葵の姉、秋月 梓の部屋へと向かった。
 
「葵、お帰りなさい」
 帰ってきた葵を見るなり、梓は思いきり抱きしめた。
「ただいま、梓お姉様。そんなにぎゅうぎゅうしたら息が出来ないよ」
 そう言いながら葵も久しぶりの姉を抱きしめる。こうしていると、実家に帰ってきたのだと改めて実感する。
 2人の抱擁が終わるのを待って、エレンディラが大きな荷物を梓に差し出した。
「今回も梓義姉さまに、パラミタでの葵ちゃんの記録をお持ちしました」
 荷物の中身は、この半年間、葵がパラミタでどう過ごしてきたかを記録した写真やビデオだ。
「まあありがとう。さすが気が利くわね」
 葵を思う梓の想いを汲み取ってエレンディラが持ってきた土産を、梓は嬉しそうに受け取った。
「そういえば、なんでうちにノイマン家の使用人がいるの?」
 聞こうとしていたことを思い出し、葵が尋ねる。
「ああそれはね、茜の提案でウチの使用人が休暇の間、ノイマン家の人に働いてもらうことにしたのよ」
「茜お姉様の?」
「ええ。茜たちも帰ってきてるわよ。せっかくだから一緒にお茶にしましょうか」
 梓は葵とエレンディラを促して、リビングへと向かった。
 
 
「他愛のないことだけど、家族そろうのってイイよね〜」
 ソファでくつろぎながら、秋月 茜(あきづき・あかね)はしみじみと言った。なんだかんだで忙しい茜だけれど、年末ぐらいは地球で葵たちとゆっくりしたいからと、時間をやりくりして地球に戻ってきているのだ。
「メイドたちに声かけて正解だったわね♪」
 家事はずっと使用人任せにしてきた茜は、今でも出来ない。だからよく知ったメイドたちが働いてくれるのは助かる。
「はい、葵は私の隣ね〜」
「茜、葵の席は私の隣と決まってるのよ」
「いいからいいから。葵、こっちに……」
「茜お姉様、梓お姉様、引っ張らないでよ〜」
 2人の姉に取り合われながら、葵は真ん中に座った。
「今年はね、不思議な体験をしたんだよ」
 生まれてすぐに死んでしまった母に会って、たくさん話をしたことや、あっちで元気でやっていること、夏祭りを楽しんだこと。葵はパラミタでの出来事を姉たちに話して聞かせた。
 エレンディラはそんな団らんの様子を眺めていたが、気になることがあって茜にそっと尋ねる。
「そういえば、兄さまの姿が見えないようですが?」
 一緒に帰ってきたのではないのかと聞くと、茜はキッチンのある方を指した。
「向こうのほうが落ち着くみたいよ」
 
 エレンディラがキッチンを覗いてみると、兄のエーベルハルト・ノイマン(えーべるはると・のいまん)はメイドたちに交ざって料理を作っていた。
「兄さま、手が足りないのでしたら私が手伝いますから、どうぞリビングにお戻り下さい」
「いえ、いいんです。私はここにいるほうが性に合っていますから」
 妻の実家ではどうものんびりしにくい。それに、茜の姉であり仕事相手でもある梓のことをエーベルハルトは少し苦手としていた。
 だからこうしてキッチンで料理を手伝っているほうが、エーベルハルトにとっては落ち着く。
「では私もこちらを手伝いますね」
 向こうは姉妹水入らずにしておいてあげようと、エレンディラもエプロンをつけた。
「メイドをこちらに連れてきてしまって良かったんですか?」
「それなら心配いりません。当人達も地球に降りられて喜んでいる様子ですし」
 報酬は東京観光なんですよとエーベルハルトは楽しそうに働いているメイドたちを指す。
 茜のアイデアで、地球の秋月家で使用人が休暇から戻ってくるまでの間、働いてくれる人の希望者をノイマン家のメイドたちから募り、連れてきたのだ。
「事前にイレーヌさんに指導をお願いしましたから、秋月家での仕事のルールも呑み込んでいますし、問題はありません」
「用意周到なんですね」
 兄らしいことだとエレンディラは微笑むと、兄とメイドたちを手伝って料理をするのだった。