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リアクション
■ 甘くほろ苦い思い出 ■
「ごめんね、何だか1人では来たくない気分だったのよ」
鶴 陽子(つる・ようこ)に言われ、金元 ななな(かねもと・ななな)はいいよと笑った。
「国立競技場に宇宙怪獣が来ないかどうか監視するのも、宇宙刑事の任務だからねっ」
新春。
国立競技場では全国高校サッカー選手権大会が開かれる。
今年は陽子が通っていた高校のサッカー部が東京都の地区予選を突破し、その大会に出場するのだ。
だから陽子はハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)に断って、今年の新年は地球に帰り、サッカーの試合を観に行くことにしたのだった。
その観戦に、陽子がなななを誘ったのには訳がある。
今日の試合には、陽子のクラスメイトにして初恋の人……そしてほんの2ヶ月前に手痛い失恋をしたばかりの生徒が出場するのだ。
彼の姿をもう一度見たい。けれど、1人でぽつんと試合を観たら寂しくなりそうで。
ちょうどその頃に関東圏にいるというなななに、一緒に行ってもらえないかと頼んだのだった。
「あ、選手が出てきたよっ。陽子のいた高校はどっち?」
「青のユニフォームを着ているほうよ」
なななに教えた陽子は眼下の競技場を見下ろし、打たれたように動きを止めた。
――彼だ。
彼は1年の時からレギュラーを任されていた、サッカー部の主力選手だった。
入学後まもなく彼に恋愛感情を持った陽子だけれど、なかなか想いを打ち明けることは出来なかった。
教室の窓から彼の練習風景を幾度となく眺めていたのだから、距離があっても陽子にはすぐに彼が見分けられる。
彼への想いを抱いたまま時は過ぎ、ようやく陽子が告白こぎ着けたのは、2年生ももう半分が過ぎた頃。
けれど、その頃には彼は別の女子生徒と付き合いはじめていたため、陽子の初恋は実らなかった。
失恋のショックに街をさまよい歩いている最中、陽子はシャンバラ人としての記憶を取り戻し、直後にハインリヒと会ってバートナー契約を結んだ。何もかもが嫌になり、どこか遠い場所に逃げ出したかった陽子は、そのままハインリヒとシャンバラに渡ったのだった。
それから約2ヶ月。
最近では落ち着いてきたと思っていたのだけれど、実際、彼を目の前にすると胸にほろ苦い感情が湧き上がってくる。
それでも陽子は、最後まで席を立たずに応援し続けた。
(サヨナラ……わたしは新しい世界でもう一度やり直してみるわ)
少しいい加減なところもみられるけれど頼りがいのあるパートナーを得て、陽子は新しい世界へと導かれた。
今はその場所でがんばってみようと思う。
フィールドを駆け回る彼を見つめながら、陽子は改めて決意した。
試合観戦が終わると、陽子は同行してくれたなななに礼を言った。
「今日は有難う。何か美味しいものでも食べていかない?」
「そうだね。お魚が食べたいなっ」
「お魚が好きなの?」
「うん、サワラ料理だったら最高なんだけど、他の魚も好きだよ」
「だったら美味しい和食屋さんがあるわ。ちょっと距離があるけどそこでいい?」
観戦に付き合ってくれたお礼に、と陽子はなななを和食の店に案内していった。