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空に架けた橋

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空に架けた橋

リアクション

 警備室へ乗り込んだ変熊達は葵達と合流をした。
 そして、警備員に防犯カメラをチェックしてもらう。
「明らかに、おかしい……」
 テクノクラートのクリスティーが瞬時にいくつもの異常に気付く。
 カメラの映し出す位置が固定されている。ここではない、どこかで操作されているかのように。
 上階だけ映し出されていないのも、不自然だった。
「ここの他に防犯カメラを操作できる場所は?」
 そのクリスティーの言葉に、警備員は知らないと首を横に振る。
「監視カメラをハッキングされてる可能性もあるよね」
「葵ちゃん……ここから先は用心して、アルを装備した方が良いですぅ」
 テロリストの可能性を考え、緊張する葵に、アル・アジフがそう言い、魔鎧の姿へと化す。
「先に行くね……いかなきゃ」
 葵はベルフラマントと隠れ身で姿を見えにくくし、カメラに警戒しながら上階へと向かった。
 百合園の学友達が、沢山上階に向かったことを知っていた。
「こんないたいけな美少年に悪戯とは……許せんっ!」
 変熊は身分を明かして、警備員に協力を求め、自分達の武器を解放してもらう。
 それから、変熊、クリスティー、クリストファーもカメラで状況を確認できなかった上階へと急いだ。

 先に出発していたマリーとローリーは鬼の面やキャラクターマスクで顔を隠し、不意の煙幕などに警戒し、口元を濡らして個室喫茶のある階へ飛び込んでいた。
「倒れている人達がいます。匂いからして、催眠ガスでしょうか。とにかく、急いで運び出しましょう」
「わかった、開かないドアは、撲殺寺院すればいいんだね!」
 ローリーはルミナスメイスをガンガン叩きつけて、ドアを破壊し、中へと入り込む。
 そして倒れている人々を廊下へと運び出すと、壊れたドアを一応閉じておく。
「なんだかくらくらするよ〜」
「大きく空気を吸い込んだら、わたくし達も危ないです。あ……っ」
 次の部屋に進もうとしたマリーは、中に機晶姫が存在していることと……血だらけの少女と、意識のない学友たちの姿を見た。
「く……っ」
 対処を間違えば、学友が撃たれてしまうかもしれない。
 そんな恐怖に襲われながらも、迷っている暇はない。ガスの影響でマリーも眠気に襲われている。
 意を決してドアノブに手をかけ、ドアを開け放つ。
 機晶姫の銃がこちらへと向けられた。
「させるか!」
 マリーが光条兵器を放つより早く、強化光翼で飛び込んできた勇平が大剣、白竜鱗剣「無銘」を手に、機晶姫に突進。銃撃を身に受けつつも機晶姫の頭部を破壊した。
「屋上にズィギルがいる。アレナも来ている!」
 簡単に状況を伝えると、勇平は血まみれのヴァーナーに近づき、応急処置をしようとする。
 が、手の施しようのない状態だった。
「ナーシングじゃどうにもならないよ……」
 唯一、回復能力を持つ、ローリーの手にも負えない。……既に、心臓も呼吸も停止していた。
「諦めるな」
 強い声が響いた。
 風銃エアリアルを撃ち放ち、窓を破壊し、空気を入れ替えながら現れたのは、レンだ。
 レンはヴァーナーに駆け寄って、命の息吹を使う。
「ノア」
「はい!」
 窓から飛び込んできたノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、命をうねりをかける。
「がんばって、がんばって」
 それから、ローリーが必死にナーシングで蘇生を試みて。
 ヴァーナーの心臓が再び、小さな音を立てはじめる。
「早く彼女を病院へ」
 再び、レンは風銃エアリアルを撃ち放って換気をし、別の部屋の解放と換気を急ぐ。
「ここは、頼んだ」
 勇平はヴァーナーを抱え上げると、強化光翼で飛び、窓から飛び出して病院へと向って行った。

(機晶姫がいる)
 葵は潜みながら光条兵器を手に、自分を落ち着かせていく。
(無理な突撃はダメ。人質の安全が優先だから)
「怖い、ですぅ……」
 葵に纏われているアルが小さな声を上げた。
「怖いね。でも……やらなきゃ」
 葵は意を決して、嵐のフラワシを行かせる。
 フラワシが死角から機晶姫に攻撃を仕掛けた直後、葵もドアを開け放って突入。
「えぇーいっ!」
 機晶姫の腹を、光条兵器で貫いた。
 機晶姫が倒れる位置にも気を付けて倒したのだった。
「早く皆を運び出さない、と……」
「眠くなっていきますぅ」
 機晶姫がまた現れる可能性がある。
 殺気看破で気配に注意しながら、葵は倒れている少年少女を慎重に運び出していく。
 
 隠形の術、隠れ身を駆使して、クリストファーは姿を隠しながら、先頭を歩き、鍵をピッキングで開錠して回る。
 機晶姫が入り込んでいる部屋はロックされてはいなかった。
「まだ出てこんのかー!」
「今だ」
 イオマンテが暴れ、塔が揺れ機晶姫の体勢が崩れた直後に、クリストファーがドアを開け放つ。
「眠るのは、あなたの方だよ」
 クリスティーがパワードレーザーを撃ち、機晶姫を沈黙させた。

「やっぱ屋上か、馬鹿と煙と悪役は高い所に上るってね!」
『屋上にズィギルがいる。アレナも来ている!』
 勇平のその言葉を聞いた途端、明子は動いていた。
 九條 静佳(くじょう・しずか)と共に、ベルフラマントで姿を隠し、神速、更に静佳のゴッドスピードで素早さを上げると、屋上に続くドアをぶち破った。
 中型飛空艇を確認した途端に、ズィギルのみを指定して真空派を打ち放つ。
「ぐはっ」
 殴り飛ばされ、飛空艇から落されたズィギルは、フェンスにぶつかって辛うじて落下は免れる。
「……っ、ああ、乱暴者のお嬢さんだね。こういうことをすると、どうなるか……」
「うるせえ、問答無用だこの三度ネタ野郎!」
 ズィギルがまた明子の真空派で殴り飛ばされる。
「く……この塔、仕掛けてある爆弾で、爆破してもいいんだよ」
「はあ!? 爆弾!? 爆発させたらアンタの首ネジ切るわよ!」
 言いながら、明子はズィギルに必要以上近づかず、真空派で殴る殴る殴る。
「……うーん」
 その様子を見ながら、静佳は軽く苦笑する。
「まあ、守勢にまわると不利なのは否定しないけど。このガンガンっぷりは往時の時の僕より酷いなあ……」
 静佳が手を出す必要もなく、明子はズィギルをボロボロにしていく。
「ぐふっ……、わ……私が死んだら、自動的に、この塔は……爆発を起こす仕組みになっている」
「おお、そうなんだ。ってことは、爆弾を既にセットしてあるってことね。そんなケチな脅しがこの私に通用すると思うか!」
 明子は強烈な真空派の一撃をぶちかます。ズィギルの身体が派手に吹っ飛んだ。
「……ひひ、今日もステキに脳筋だわなあ」
 レヴィが声を上げる。
「従っても爆発させるきまんまんでしょアンタ!」
 嘘つきの約束なんかだーれーもーしーんーよーうーしーまーせーんー! と、明子の重い一撃がズィギルの骨を砕いていく。
「ふ、ふふふふ……」
 倒れたまま、ズィギルは魔法で自らの傷を癒した。
「よく、分かってるね。そう……アレナちゃんと避難したら、この塔、吹き飛ばす予定だよ。爆弾探さなくていいのかな?」
「それじゃ、アンタを半殺しにして塔に埋めておけばいいってことだな!」
 ガツン、バキッ、ドカッ――。
 サンドバックのように、明子はズィギルを殴って殴って殴り飛ばした。
「やっぱり……可愛げのまるでないお嬢さんだ。君のような娘は大嫌いだ」
「うーるーせぇー! またいいやがったなー!」
 ガツッ、バキッと、明子は殴り続ける。
 ズィギルは彼女の素早さについてはいけず、殴られた後に回復するので精一杯だった。
「……遊んでいる暇はなさそうだよ」
 中型飛空艇に接近し、中を覗き込んだ静佳が言う。
「というわけで、終わりだ」
 人型に戻ったレヴィが梟雄剣ヴァルザドーンで、アナイアレーション。
 ズィギルを斬り倒した。
「アレナさん……!」
 ノア、そしてレンが屋上に駆け付ける。
「時よ、止まれ……っ」
 ノアは封印の魔石を用いて、封印呪縛を発動する。
 変に体が折れ曲がり、血だらけなズィギルはノアの封印の魔石に封じ込められた。
「アレナ……」
 レンは飛空艇に駆け寄って、乗せられていたアレナを引きずり出す。
 彼女は――意識がなかった。
 温かさも感じない。命が感じられない。
 だけれど、死んでいるのではない。
「封印、されています」
「ううっ……大丈夫、外傷はないみたいだし、解除すれば、すぐに目を覚ますって。とりあえず、病院につれていけばいいのかな?」
 明子は自分に言い聞かせるように言うと、レンの手からアレナを受け取って、強化光翼を用いて飛び立つ。
「アレナさん……。もう少し、早くたどり着けてれば」
 ノアは心配そうに空を見上げていた……。
「何だかわからんが――救出はおわったんじゃー!」
 変熊から連絡を受けたイオマンテが、屋上に向かって大声をあげた。
 ヴァーナー以外、大きな怪我をした者はいなかった。
 急ぎ外への誘導が行われる。

○     ○     


「ち、ゆり、ちゃん……」
「日奈々……!」
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は、目を覚ました日奈々に思わず抱き着いた。
「よかった、無事、で……よかった」
 寝ているだけと聞いていたが、それでも本当に心配だった。
「なかなか帰ってこないし、携帯もつながらなくなって……心配、したよ」
「学校の皆と、会ったんですぅ。喫茶店で休憩してるうちに、眠く、なって……」
 日奈々は思い出しながら千百合にそう話した。
「怪我はない? 痛いところは?」
「寝ちゃってただけですぅ……あ、でも、血の、匂いが……」
「それは……」
 日奈々の服にも、飛び散ったヴァーナーの血が付着していた。
「怪我をした人、いたみたい。日奈々は寝てたんじゃなくて、眠らされてたの」
 ヴァーナーは命は取り留めたが、心肺停止するほどの酷い怪我だったと聞いている。
 日奈々も、同じ目にあっていたかもしれない。
 そう考えると、震えてしまうほどに、千百合は怖くなる。
 自分の無力さを痛感してしまう。
「……あたし、今回も何もできなかった。このままじゃ駄目だよね」
「……私、また……心配、かけちゃいましたね……」
 ほぼ同時に2人はそう言って、愛しい互いを大切に抱きしめた。

「白百合団に入ったばかりだというのに、助けられる側になってしまうなんて……」
 救助されてパートナーのシェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)と合流を果たしたは、とても落ち込んでいた。
「油断した、治安の良いヴァイシャリーの街中と思って……!」
 シェリルは付き添わなかった事を激しく後悔していた。
 帰りが遅すぎると心配していたところに、事件の知らせが舞い込んできて。
 急いで駆け付けて、リンの救護に当たっていた。
 倒れた時の打撲が心配だが、他に怪我はしていない。だけれど、服にわずかに血が付着している。
 同じ学校の……白百合団の班長であるヴァーナーが怪我をしたのだと聞いた。
「だめですね、私……」
 凛は寂しげに微笑んだ。
 凛の事ばかり考えていたシェリルはなんだか不思議な気持ちになる。
「ヴァーナーさん、大丈夫でしょうか。アレナお姉様も……」
 詳しく教えてもらっていないが、アレナは自分達を助ける為に駆け付けて、寺院のメンバーに封印されてしまったのだと聞いた。
 アレナがその人物に狙われているということも、噂程度には聞いている。
「アレナお姉様は、ずっと……こんなに、辛くて悲しい思いをしていらしたのでしょうか」
 空を、ヴァーナーとアレナが運ばれたという方向を見ながら言う凛を見て。
 シェリルも複雑な思いを抱えていた。
「ありがとうございます」
 精一杯微笑んで、凛はシェリルに礼を言った。
 契約者として活動していけばまたこんな危険も伴うだろうと、凛は恐怖を感じながらも覚悟を決めようとしていた。
 そんな凛にシェリルはぎこちない笑みを浮かべて頷いて。
 薬を探す振りをして視線を落とす。
(私は、リンの成長や独り立ちを見守るつもりだった筈……)
 それなのに、彼女の足を引っ張りかねない感情が自分の中にあることに、気づいてしまった。
(私は、剣の花嫁は……所詮、パートナーに依存しなければ、存在意義を見出せないのかな……)
 そう思いながら、顔を上げて。凛と一緒に空を見上げた。

「申し訳ございません……葵お嬢様にご迷惑をおかけしてしまうとは……」
 助けられたイレーヌは悔しくて唇をかみしめる。
「ううん、大丈夫。ちょっと怖かったけどね。皆、無事でよかった。よかった……」
 葵の言葉の語尾は、消え入りそうなほど、小さかった。
 アレナが屋上にいたという話を聞いたから。
 ズィギルがアレナを手に入れる為に起こしたことだと、知ったから。
「後で、アレナ先輩のお見舞いに行こうね」
「射手座のお気に入りってお茶持っていったら、喜んでもらえるでしょうか〜」
 アルのそんな言葉に、葵は笑みを浮かべて首を縦に振る。
 イレーヌは葵もまた悔しさを抱えていることを感じ取る。
「本当に申し訳ありません」
 再び、イレーヌは頭を下げた。
「悪いのは、イレーヌちゃんじゃないよ! 悪いのは……」
 何なのだろうと、葵は思う。
 友人達も、パートナー達も、買い物に来た皆も、何も悪くない。悪くないのだ。

 ――この後、レンは報告のためにノアと共にヒラニプラに戻り、封印の魔石を国軍に預けた。