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リアクション
■ 師匠という壁 ■
初めて師匠と出会ったのはいつだったか。
目的地に向かって歩きながら、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は考える。
確かあれは……。
幼い頃に偶然、お腹を空かせた師匠と街で出会ったのが最初だった。
「お腹すいてる? ならこれあげるよ」
子供だった宵一は、行き倒れそうだった男に、何の気無しに持っていたチョコレートを差し出した。
「いいのか。これは有り難い」
男は涙を流さんばかりに感謝し、チョコレートを押し頂いた。
それが宵一と師匠との出会いだ。
チョコレートを食べて人心地つくと、男はベイグラントと名乗った。といってもそれはバウンティハンターとしての仮の名だと言う。
「ばうんていはんたー?」
「賞金稼ぎと言った方が分かり易いか?」
「賞金稼ぎ? かっこいい!」
目を輝かせた宵一に、ベイグラントはチョコレートをもらった恩に報いる為だと、半ば強引に剣術を教えてくれた。
そんな日々が2年ほど続いた後、ベイグラントはどこかに旅立っていってしまった。
それ以来、全く音沙汰が無かったというのに、突然パラミタにいる宵一に師匠から手紙が来た。
――宵一、お前が二十歳になった記念だ。地球のあの場所に来い
手紙に書かれていたのはその1行だけ。
相変わらず無愛想なところは変わっていないらしいと思いながらも、宵一は地球のあの場所……とある公園へと向かうことにしたのだった。
公園に入るとすぐ、ベイグラントが目に入った。
古びたジャケットとジーンズ、額にはゴーグル。40歳は超えているだろうに、その身体は力に満ちている。
「師匠、お久しぶりです」
「よく来たな、宵一。いざ真剣勝負だ」
ベイグラントは挨拶を交わすのもそこそこに、持っていた剣を抜くと、片手でくるりと一回転させて構えた。
真剣勝負を挑まれたからには、受けるのが礼儀。
宵一は魔剣ディルヴィングを抜くと、ベイグラントと同様に一回転させる独特の剣術の構えを取り、黄金の闘気を身に纏った。
子供の頃はまったく敵わなかった師匠だけれど、宵一は二十歳にまで成長した。それに加えて契約者となり、一般人とは桁違いの力まで手に入れている。契約者ではないベイグラントに後れを取るはずがない。
それでも全力でかからねばと、宵一は自らの防御と引き替えに素速さを得、一気に師匠へ斬りかかった。
重い手応えと共に、振り下ろした宵一の剣が弾かれる。
弾かれた剣を返す勢いで再び斬りかかったが、それは紙一重でかわされた。
やはり簡単には勝たせてくれないようだ。
ベイグラントの技を封じようと斬りつけた一撃は、軽やかに受け流され、宵一はたたらを踏む。
このままではいけないと、宵一は周囲の聖なる力を剣へと結集させ、伝説の英雄が編み出したと言われている奥義、レジェンドストライクを叩き込んだ。
が。
耳が痛くなるような金属音。弾ける光。
師匠は剣を一振りすると、受け止めた宵一の剣を跳ね上げた。
「師匠、あんた人間ですか?」
ベイグラントが契約者でないことを宵一は知っている。ならばこの化け物じみた身体能力は何なのだろう。
驚愕しながらも、宵一は何度も師匠に斬りかかった。
宵一はそれから30分ほど剣を振り回したが、その全てがベイグラントには通用しなかった。
「もう終わりか?」
「くっ……」
唇を噛む宵一に、ベイグラントはにやりと笑う。
「では、反撃と行くぞ」
そんな一言を発した後、ベイグラントは神速の一撃を繰り出した。
かわしたつもりなのに、その一撃は確実に宵一を捉え、打ち据えた。
「宵一、お前もまだまだだな。しかし、随分強くなった」
これで勝負はついたとベイグラントは剣をおさめた。
「そのようですね……」
幼い頃ならまだしも、今になっても師匠に勝てないどころか、一撃もくらわせられなかったことに、宵一は愕然とした。
「俺はまだ力不足のようです。けれどいつか、一流のバウンティハンターになれるよう、これからも修行を重ねてゆきます」
改めてそう誓う宵一に、ベイグラントは心から嬉しそうに目を細めた。
その後、宵一は師匠と酒を飲みに行き、昔の思い出話と、近況報告に花を咲かせたのだった。