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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 禁忌の眠る地下 ■



 夏の長期休暇を利用して、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)ケヴィン・フォークナー(けびん・ふぉーくなー)は実家に帰った。
 兄妹の両親は既に死去している。妹が1人いるけれど現在は留学中で家にはいない。
 使用人も全員休暇中なので、戻った実家はひっそりと静かだった。

「やっぱり実家は落ち着くわね」
 他に人がいないので、思う存分くつろげる。
 セシルはしばらくぶりの自室を掃除してみたり、兄のケヴィンの部屋に顔を出してみたりして時間を過ごした。
 家のあちこちを歩き回って、パラミタに行っている間に変わった場所を探してみるのも、間違い探しをしているようで楽しかった。

 そんな風にセシルは久しぶりの実家を堪能していた。
 自室の本棚にある本を懐かしく読み返していたセシルは、何気なく時計を見てかなり遅い時間なのに驚いた。
 つい、夢中になりすぎたらしい。
 さすがにもう寝ないと……と思いかけたセシルだったけれど、ふと兄のことが気になった。
 研究で夜更かしばかりしているケヴィンは、きっとまだ部屋であれこれしていることだろう。たまには夜食を持っていってあげるのも良いかも知れない。
 人はいなくても、食材は豊富に用意されている。夜食を作るには十分だ。
 セシルは読みかけの本を置くと、キッチンへと向かった。

 けれどその途中。
(あら、お兄様?)
 部屋を出て廊下を歩いているケヴィンを発見し、セシルは足を止めた。
 すぐに声を掛けなかったのは、ケヴィンがどこかこそこそしているように見えたからだ。
 こんな時間にどこに行くのだろう。
 興味を持ったセシルは、そっと足音を殺してケヴィンの後を付けていった……。



 ケヴィンは真夜中の廊下を歩き、階段を下りていった。
 彼にはどうしても処分しておかねばならない資料があった。
 本当なら1人で実家に戻り、秘密裏に処分を済ませたかったのだけれど、それではセシルに怪しまれてしまうだろう。
 だから妹のセシルが寝てしまった頃を見計らい、地下室に向かったのだ。両親から入るなときつく言われているから、妹は自分から地下に行くことはまずないが、念のため、見られてはまずい資料は速やかに破棄しておくのが得策だろう。

 フォークナー家は、没落した魔術師の家系だ。力を求めるあまり、様々な禁忌に手を出してもきた。変人揃いと言われるのも、その辺りのことがあってのことだ。
 ケヴィン自身、そのフォークナー家の中でも突出した異端児だ。……けれど、倫理や常識などに全く興味のないケヴィンですら、怒りを感じることが、かつてこの地下で行われた。
(娘にまで呪術を使用するとは……)
 けれどケヴィンのその怒りは倫理的なものではなく、妹に妙な呪いをかけられたから、という理由でしかない。これが妹ではなく赤の他人であればどうでもいいと感じるあたり、自分も彼等と同類なのかも知れないと、ケヴィンは自嘲した。

 とにかく今回はその資料も含め、きれいさっぱり処分しようとケヴィンは地下に入った。
 が、その背に微かな気配を捉え、ケヴィンは慌てて振り返る。
 そこには不思議そうに地下を見回しているセシルの姿があった。
「この部屋、昔見たことがあるような……お兄様、ここは一体……」
 その瞬間、ケヴィンはセシルを魔法で眠らせる。
 くたりと力を失うセシルを受け止めると、ケヴィンはそっと囁いた。
「眠っていろ……お前は知らなくても良いことだ」
 セシルの笑顔を失わない為にも、この事実は知らせるわけにはいかない。絶対に。


 翌日。
 目を覚ましたセシルは、昨夜のことを覚えてはいなかった。
 ただ、何かがずっと心に引っかかっている感じが消えない。
 かすかに残る記憶を頼りに地下に向かってみたけれど……既にそこには何もなかったのだった。