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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 過去の想いは冷たい石の下に ■



 彼女の墓参りに行きたい。
 そう久我内 椋(くがうち・りょう)が言うと、兄の久我内 玲はいつもの飄々とした様子で送りだしてくれた。
「俺はここに残ってるぜ」
 墓参りには興味がないからとモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)は椋と同行せず、実家にいると言う。
「私は……椋様と一緒にお墓参りに行ってきます」
 剣の花嫁である在川 聡子(ありかわ・さとこ)は、墓に眠る彼女の姿とそっくりであり、名前の『聡子』も彼女の名前からもらっている。こんな形でもう1人の自分に合うことになるとは思っていなかったけれど、椋の大切な人の墓参りに行くことにした。

 最後に椋が地球を離れたときには、まだ彼女は生きていた。
 どうすることも出来ない理由で婚約を解消することになったが、それが彼女にとって一番いい、幸せになる近道なのだと椋は信じていた。
 その彼女が死んだのは、椋が地球を離れて数ヶ月後。けれど椋がその事実を知ったのは、ここ最近の話だった。
 パラミタに渡ってからも、椋は元婚約者の彼女のことを無意識に想い続け、それが聡子にも反映された。
 それから歳月が経ち、椋は彼女と聡子を別々に思えるようになったというのに。
 訃報を聞いて、椋の心に兆した考えは、
 ――俺があの時、彼女に一度会いたいと願わなければ、こんなことにならなかったのではないだろうか。
 ということだった。

「幼い頃から、彼女とは手紙のやり取りだけでした」
 墓の前で、椋は思いつくままに彼女とのことを聡子に語った。
 モードレットと出会い、椋はいつかパラミタへと至らねばならないことを知った。
 その先に何が起こるのか判らないし、すでにモードレットの道具となった自分では、彼女と共に在ることは出来ない。彼女を自分とモードレットのことに巻き込む訳にはいかない、そう思った椋は彼女との婚約解消を決めた。
 その際、思ってしまったのだ。
 せめて、一目でも、と。

 それが過ちだった。

 彼女は椋の願いを聞き入れ、久我内家を訪れた。
 その際の出来事は彼女に大きな傷を負わせ、激高した椋はその手で父親を殺めることとなってしまった。

「モードレットについていくと決めたときから、この手が汚れることを覚悟していました。大切なものは自分の側に置けないことも。けれど……だからこそ遠くで、幸せでいて欲しかった」
 まさか自分で命を断っていただなんてと呻く椋に、聡子は小さく首を振った。
「私は事情を聞いただけですが、なんとなく椋様のことを怨んでの自害ではない気がします。……初めて椋様と出会って、契約した日のことを私は今でも覚えています。あなたはモードレット様のために生き、その為の仲間を捜していると、真っ直ぐな瞳で言いました」
 きっと彼女も似たような話を椋から聞いていたのだろうと聡子は思う。
 邪魔にならないように、地球に思いを残すことがないように、彼女はこの道を選んだのではないかと。
 その考えが正しいのかどうか、答えられる彼女はもうこの世にはいないから、確かめるすべはないのだけれど。

 ひっそりと佇む彼女の墓に、椋は誓いを立てる。
「俺は……この先何があっても大切な人を俺自身の手で守ります。たとえそれが、人とは違う道だとしても」
 自分はあの金色に魅入られているのだから。

 そうして誓いを立てる椋を見ながら、聡子も誓う。
 自分はそんな椋を守るのだと。きっと他のパートナーの気持ちも同じことだろう。



 そうして椋と聡子が墓参りをしている時、モードレットは玲の部屋にいた。
 玲の部屋にある良い酒を、モードレットは心ゆくまで堪能する。肴は椋がパラミタに来ることになったきっかけ、そう、父親を殺したときの話だ。
「まさか椋があそこまで思い切るとはな」
「特に問題はありませんよ。父親殺しについては表向きは病死として片づけましたから」
 玲は何でもないことのように答えた。彼女が自殺していたことも、玲はかなり早くに知ってはいたが、時期尚早と椋に伏せていた。それらはすべて、椋を自分の片腕になれる様に育て上げる為の手段にすぎない。
「あれからずいぶんと経ったが、ようやく少しは使えるようになってきた。玲、お前の好みにもずいぶん近くなったんじゃないか?」
「そうですね。まだまだではありますが、良い方向に進んでいるようです」
「これからどう化けるのか、見物ではある」
 そう言ってから、モードレットは玲の方に手にしていたグラスを突きつける。
「弟の為に、この俺すら駒のように使おうとするその態度は気に食わんがな」
「兄として、弟の育成に心を配るのは当然のことでしょう」
 モードレットのグラスに血のようなワインを注いでやりながら、玲は冷ややかに微笑む。まるでゲームの行く末を楽しんでいるかのように。