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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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地球に帰らせていただきますっ! ~5~

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 ■ 耀助への頼み ■



「んじゃ、行ってくるぜ」
 小さくまとめた荷物を肩に掛けると、地球行きの新幹線に乗る為に仁科 耀助(にしな・ようすけ)は空京駅へと向かった。
 実家に帰っても、きっと修行の毎日だろうが、長期休暇のこんな時でもないと、母や祖父、妹に会う機会はなかなか取れない。
「夏の女の子は薄着でいいねェ」
 周囲を見やって目の保養をしつつ、耀助がふらふらと歩いていると。
「すみません……」
 その背に一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)が声をかけた。
「あれ、もしかして逆ナンだったりする〜?」
「ち、違います。ちょっとお尋ねしたいのですが……これから地球に帰られるなら、一緒に……行っても構わないでしょうか?」
「別にいいけど、なんで?」
 不思議そうな耀助に、悲哀は実はと打ち明ける。
「その、私も故郷に帰りたいのですが……事情があって帰ることができないのです。でも……だからせめて、地球に行きたいんです。でも……普通に行って見つかったときに……なんて言い訳すればいいのか判らなくて……。どなたかと一緒に行けば、咄嗟に一緒に着いてきたと言えばいいかと……」
 そこまで話して、悲哀は申し訳なさそうに頭を下げた。
「……なんだかすみません。同行したい理由が、言い訳にしたいからなんて……余りいいことではないですよね」
「そんなことは全然構わないぜ。女の子が一緒に来てくれたら、帰省の道中も楽しくなりそうだ」
 耀助は安請け合いして、なんなら腕でも組んでこうか、なんて冗談を言って笑った。
 その様子に、悲哀の気持ちも少しだけ軽くなった。

「……やっぱり、仁科さんに頼んで良かったです。というか……仁科さんだから頼んでるというのは……本当はあるんです」
 新幹線の座席に座ると、悲哀はほっと息をついた。自分1人では新幹線に乗る勇気なんか出なかった。けれどここに座っていれば少なくとも地球には行ける。
「それは光栄だなァ」
 答える耀助は悲哀のような緊張はなく、実家に帰るのを純粋に楽しみにしているように見える。それが少し、悲哀には羨ましかった。
「……本当は、地球に行くのがとても怖いんです。また私を許してくれなかったらとか、また殴られたり、罵声を浴びせられるんじゃないかとか。それを考えるととても怖いんです」
「は? 殴られる?」
「はい。私の家系はあの村では最下層の身分の生まれで……。昔はそれこそ誰かに殴られることや悪口を言われることが日常茶飯事でした……から」
 悲哀は組み合わせた自分の指に視線を落とす。
「契約者になったことで、私はあの村を追い出されてしまいました……。正直行くのは怖いです。でも、それでもあそこは私の故郷ですから。あそこの皆さんに、許して貰えて、仲直りして……。もう一度受け入れて貰えればと思うのは……間違ってるんでしょうか……」
 どれが正しいのか、自分には良く分からない、と悲哀は悲しげに首を振る。
「……多分、行けばまた、私は殴られて罵られて村を追い出されてしまうけれど……それでも、それでも……やっぱり行きたいんです……。あれでも、私の故郷、ですからね」
 涙目になって言う悲哀に、耀助はうーんと唸った。
「事情がよく分かんねーからオレには何とも言えないけど、行きたいなら行けばいいと思うぜ。女を殴るような奴は、殴り返せばいいんだしさ。契約者になったんなら簡単だろ。けど、帰るのが怖いような場所なんだったら、逃げればいい」
「……逃げる?」
「ああ。人はどこにでも住むことはできるし、故郷は何も生まれた場所だけじゃないぜ? 要は心の在り様さ」
 耀助はぐっと自分の胸を指し、それからその指を悲哀の胸にも向け……。
「……え?」
 胸に差しのばされた指を、悲哀は反射的に避けた。
「なんだ、バレたか〜」
 耀助は悪びれずに笑っている。
 どうやら、格好良く決めつつ、それに紛れてセクハラしようとしただけのようだ。
「ま、自分の思うようにすればいいってことだ」
 とりあえず最後だけは格好をつけて、耀助はさりげなく指を引っ込めたのだった。