リアクション
〜名牙見砦の攻防 一階その一〜 東側の壁が破壊され、黒装束たちが庭へと雪崩れ込む。 「来たでござるか」 佐保は呟き、忍び刀に手を添えると声を張り上げた。 「皆、心してかかれ! 一人として、二階へ上げてはならぬでござる!!」 さて。 黒装束に混ざって、なぜかこの砦にやってきた者たちもあった。 ドクター・ハデス(どくたー・はです)とその部下、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)及び戦闘員の皆さんである。 いや、なぜか、と言うのは正しくない。彼らには彼らなりの理由がある。 「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! 警備が厳重な隠し砦に保管されている『風靡』とやら、きっと強力な力を持っているに違いない! 我らオリュンポスが風靡を手に入れて、その力で世界征服を成し遂げるのだっ!」 という理由が。 「フハハハ! さあ、我が部下、咲耶、アルテミス、デメテール、そして戦闘員たちよ! 一気に砦を制圧し、『風靡』を手に入れるのだっ!」 「す、すみません、おじゃまします……」 おずおずと言ったのはアルテミスだ。 「はぁ……結局、私も手伝わされるんですね……」 咲耶は嘆息し、 「よーし、宝探しなら、このデメテールちゃんに任せるのだー」 とやたら元気なのは、デメテールだった。 「ククク、幹部クラス3人と戦闘員24人を投入したこの計画! これならば、失敗する要素など皆無! 我らが『風靡』を手に入れた暁には、その力で世界を征服してくれるわ!」 そしてハデスは自信満々だ。 「多分、あの建物の中、ですよね?」 とアルテミス。 「いや、ひょっとしたら、この庭にあるかもしれん」 眼鏡をくい、と上げてハデスは答えた。 「でしたら、私が先に参ります、ハデス様。何かあったらいけませんから……」 騎士を自認するアルテミスにとって、盗みに入ることは抵抗があった。しかし、主君の命令に背くわけにはいかない。彼女は、ハデスたちの先頭に立った。そのすぐ後には、アサシンと特戦隊の計六人が続く。 すると突然、パン、と乾いた音が響き、戦闘員が倒れた。パン、パン、と続けて二発鳴り、更に二人の戦闘員が倒れる。 「狙撃――離れてください!」 アルテミスは戦闘員の倒れた角度から、どこから撃たれたかを咄嗟に確認し、そちらへ走った。しかしその前に、リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が立ちはだかる。 「彗星のアンクレット」「勇士の薬」を使ったリンゼイは、アルテミスより手数が多く、「銘刀・桜雪」で上段、上段、下段、中段と斬りつけていく。 一方のアルテミスは、【龍鱗化】【インビンシブル】【フォーティチュード】で防御力を上げているため、ダメージは少ないものの、リンゼイのスピードについていけず、 「先へ!」 とハデスたちを逃がした。 セルマ・アリス(せるま・ありす)の銃撃がハデスたちを追うが、残ったアサシンと二人の戦闘員が、リンゼイに襲い掛かろうとする。セルマはすぐに狙いを切り替えた。 「向こうには他の人もいる――」 リンゼイを見殺しにするわけにはいかない。セルマは、アサシンと戦闘員の足元を、ひたすら撃ち続けた。彼らは着弾するたびに足をぴょんぴょんと上げ、下手なタップダンスを踏んでいるようだった。 アルテミスは困った。相手はハデスの敵であるが、非はこちらにある。本気になれば、対等の戦いは出来るだろうが、相手を傷つけることは避けたい。 だがリンゼイにしてみれば、誰であれ「風靡」を狙う者はオーソンの仲間、もしくは敵だ。 この気持ちとスピードの差が、アルテミスを徐々に追い詰めていく。 ――スポッ。 アルテミスの左足が、空中を踏んだ。 「って、えっ?――きゃああぁぁぁ……!?」 ドップラー効果で声を残し、アルテミスは穴に落ちた。その上にアサシンと戦闘員も、飛び込んでいく。 「な、何ですかこれ!?」 穴は浅いが、手も足も貼りついて動かせない。アサシンたちも同様だ。 リンゼイが穴の上から「銘刀・桜雪」を突きつけた。 「さて、とりもちに引っかかった方の脚……腱を切らせていただきましょうか。二度と歩けない脚にしてあげます」 「ええっ!? こ、困ります!」 「それとも……ここから逃げて二度と葦原に訪れないというなら何もしないで返してあげます。さあ、どうしますか?」 「それも困ります! ハデス様に叱られます!」 リンゼイは嘆息した。 「どちらも選びたくないだなんて……困った人ですね」 リンゼイは、隠れて狙撃していたセルマを振り返った。少し離れたところで、セルマも「困ったね」と言うように肩を竦めていた。 清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)は、城壁の上にいた。 東側の城壁が破られると、勢いづいた黒装束たちが、南と西も破ろうと殺到した。正面はユリンがいるので、他に回ったらしい。 「来た」 北都は「アルテミスボウ」を引き絞った。壁をよじ登ってきた黒装束を、【エイミング】で丁寧に一人一人射る。しかし、黒装束が契約者のパートナーである可能性を考慮し、なるべく肩や足を狙った。 中に登りきるや、北都たちを狙う狙撃者もいた。北都は、その銃の部分を集中して狙う。矢が続けざまに当たり、その黒装束の銃が吹き飛んだ。黒装束は背中から、壁の内側に落ちていく。下では佐保が素早く縛り上げている。 次の矢を番えたとき、北都の【禁猟区】が異変を告げた。 「!?」 黒装束には飛行能力がある者もいたらしい。目の前に、銃を構える男がいる。 ――駄目だ、間に合わない。 北都が敵の攻撃を覚悟したとき、モーベットが【千眼睨み】を使った。 「我を忘れては困る」 襲撃者は、そのまま外へ落ちていく。 「ありがとう」 モーベットはクイ、と眼鏡を持ち上げた。 「徹底的にやる必要はない」 また、よじ登る者があった。モーベットは【恵の雨】を叩きつけ、滑らせる。落ちた者は、これも佐保が気絶させた。 「トドメは他の人に任せればいいんだね」 「そうだ。そのための仲間だ。我らは、機動力さえ奪えばいい」 少し、気が楽になった。執事として培われた性質か、北都はサポートの方が性に合っていた。味方が戦いやすいように、或いはトドメを刺しやすいようにする。 それなら、この仕事も大分楽になる。 「次が来るぞ」 「うん、分かってる」 二人はそれぞれ、矢を番えた。 |
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