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リアクション
■ 月見で一献 ■
ザナドゥでの騒動も一段落し、パラミタへ戻ってこられたことだから、とザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を月冴祭に誘った。
別大陸での月見は、アーデルハイトの良い気分転換にもなるのではないかと思ったのだ。
パラミタでも地球やニルヴァーナのように月は満ち欠けし、満月も当然のように巡り来る。だから月見は馴染みのものだと思っていたのだが、アーデルハイトはふむと首を傾げた。
「月見か……私達には苦手でも、地球人はそういう風習があったの」
「苦手でしたか。ではご無理は言えませんね」
気乗りしない行事に誘ってもとザカコが引こうとすると、いやいやとアーデルハイトはそれを遮った。
「地球人の風習を体験するのも良いことじゃろうて。よかろう、付き合うのじゃ」
「ありがとうございます」
「良い良い。してみれば案外良いものだったというのも、珍しいことではないからの」
かなり柔軟に、アーデルハイトは月見というものを受け入れてくれたようだった。
月冴祭に時間を割かせてしまう代わりにと、ザカコは学校の雑務を手伝ってからアーデルハイトと共にニルヴァーナへとやって来た。
「む。少々遅れたかの?」
雑務を片づけていた分、夜も随分更けてしまったと悔やむアーデルハイトに、ザカコはいいえと笑う。
「お月見には丁度いい時間ですよ。楽しみです」
ザカコはたいむちゃんの搗いた餅や団子等を調達してくると、小舟を借りて池に漕ぎ出した。
池と空の月がよく見える場所まで来ると、ザカコは小舟を漕ぐのを止めた。
「花より団子という訳ではありませんが、やっぱりお月見ならお餅やお団子は必要ですよね」
貰ってきた食べ物を並べると、アーデルハイトもそうじゃなと同意する。
「行事にはそれにちなんだ食べ物がつきものじゃ。しかし団子も良いがここは月見酒といきたいところじゃが……」
「もちろんお酒もありますよ」
「気が利くのう。では、まず一献とゆこうかの」
アーデルハイトが手にした杯に、ザカコは酒を注いだ。
「おまえも呑むじゃろう?」
ザカコの杯はアーデルハイトが満たし、月下のささやかな酒宴がはじまる。
「綺麗な月ですね……アーデルさんと一緒に見ることが出来て、本当に良かったです」
「そうか、それは来た甲斐があったというものじゃな」
答えるアーデルハイトも、随分とくつろいで月を楽しんでいるようだった。
「あ、っと、それを食べるのは少し待って下さい」
アーデルハイトの手が月うさぎの餅に伸びたのを、ザカコはそっと遮って自分でその餅を取り上げた。
「このお餅には、分け合って食べるとその2人は永久に結ばれると言う伝説があるらしいですよ」
単なる言い伝えだと思いますが、と言いながらザカコは餅を2つに分ける。
「良ければ……一緒に食べて頂けませんか?」
餅の片方を差し出すと、アーデルハイトはそれをしばし見つめ。
やがて首を振った。
「いや、遠慮しておこう。ただ、勘違いするでないぞ、これはおまえの為じゃ」
これまでもザカコはアーデルハイトに告白したことがあった。けれどそのたびに、ごたごたしていて有耶無耶になったり、時間が欲しいと言われたりで、はっきりした返事はもらえていない。
アーデルハイトの意向を尊重し、ザカコは待つ気でいる。
時間はたっぷりあるのだし、もし結ばれなくとも、ザカコはアーデルハイトが笑顔でいてくれれば、それで充分なのだから。
けれど、今一度気持ちをきちんと伝えておくことまでは、控えなくとも良いだろう。
「アーデルさんにとっては、友人でも構いません。自分はアーデルさんを生涯愛しています」
ザカコの宣言に、アーデルハイトは返事をすることはなく。
空に浮かぶ見事な満月へと目をやって、無言で月見酒を煽るのだった。
持ち込んだ酒が空になる頃を見計らい、ザカコはアーデルハイトに声をかけた。
「そろそろ夜も更けてきましたし、イルミンスールに戻りましょうか」
「そうじゃな。名月も充分に堪能したことだし、帰るとしようぞ」
小舟を岸に戻して返却し、歩き出そうとしたザカコはアーデルハイトが寒そうにしているのに気付いた。
自分がしているマントを取ると、ザカコはそれでアーデルハイトを包み込む。
「少し大きいかもしれませんが、身体が冷えては大変ですし、使って下さい」
「おまえは寒くはないのかえ?」
「はい、平気です」
ザカコの言葉に、そうか、とアーデルハイトはマントを手で押さえる。
「……ほんに、温かいのぅ」
マントに隠すようにそう言うと、アーデルハイトは帰るぞとすたすたと回廊に向かって歩き出したのだった。
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