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リアクション
■ ささやかでもそれは愛 ■
――とても素敵なお祭りだそうなので、ご都合が宜しければ是非大鋸さんとご一緒したく思います。
ニルヴァーナの月を共に楽しめるよう願っております。――
度会 鈴鹿(わたらい・すずか)が送った手紙に応え、王 大鋸(わん・だーじゅ)は月冴祭にやってきた。
「今日は来て下さってありがとうございます」
鈴鹿が礼を言うと、大鋸は何と笑う。
「月なんて見て楽しいかは分からないが、美味いもん食えるんだろう?」
「お餅やお団子等が用意されているそうです。お口にあうといいのですけれど」
「そりゃいいや。早く食べに行こうぜ」
「はい、でもその前にこの子を紹介させて下さいね。大鋸さんがあの時小咬と名前を付けて下さった子犬です。こんなに大きくなったのですよ」
鈴鹿は連れてきていたペットのボーダー・コリーを示す。
「これがか? てめえ大きくなりやがって」
大鋸ががしがしと乱暴に撫でると、小咬はちぎれんばかりに尻尾を振った。
何か食べたいと大鋸が言うので、まずは月見菓子と茶を楽しみ、その後鈴鹿は大鋸をニル子のところに連れて行った。
「こんばんは、ニル子さん。佳い夜ですね」
鈴鹿が挨拶すると、ニル子も笑顔で返す。
「こんばんはぁ。天気も良くてお月見日和ですねぇ」
「よろしければ一緒に遊びませんか?」
鈴鹿は持参してきたボールを取りだすと、それをぽんと投げる。
「シャオ!」
弾かれたように小咬はボールの飛んでいった方向に走っていった。
すぐに追いつき、ボールを口にくわえて自慢げに戻ってくる。
「わぁ、速いですぅ」
目を丸くしているニル子に、鈴鹿は小咬が取ってきたばかりのボールを渡した。
「私がやったみたいにボールを投げて下さい。ボールを取ってきたら、褒めてあげて下さいね」
「投げてもいいんですかぁ?」
ニル子は嬉しそうにボールを受け取ると、えいっと投げた。
小咬はちらっと鈴鹿の顔を見たが、鈴鹿が頷くとぱっと走ってボールをくわえてくる。
「よく出来ましたねぇ」
「大鋸さんも是非、シャオと遊んであげて下さい」
子供好きで面倒見の良い大鋸なら、ニル子とも楽しく過ごせるだろうと鈴鹿はそう頼んだ。
「よーし、俺様の剛速球と勝負といこうぜぇ! どりゃーあ!」
威勢良く、けれどちゃんと小咬が取れるように加減して投げる大鋸の優しさに、鈴鹿はそっと微笑んだ。
一頻り遊んだ後、鈴鹿はニル子に話す。
「愛って、とても深く強いだけではなく、ささやかなものでもあるのです」
「ささやかですかぁ?」
「ニル子さんがシャオのことを可愛いと思って下さったら、一緒に遊ぶのが楽しいと思って下さったなら、そこにもう愛はあるのですよ」
「ここにもう愛があるんですかぁ」
「はい。だからまずは難しく考えずに、『好き』と感じるものを沢山作って下さい」
友達、仲間、家族……恋愛感情だけでなく、様々な愛で人と人は繋がっていることを、ニル子に少しでも感じてもらいたい。鈴鹿はそう願うのだった。
ニル子と別れてからも、鈴鹿は大鋸としばらく月冴祭を見て回った。
楽しい時間は早く過ぎるもの。
名残惜しく感じながらも、鈴鹿は頭を下げた。
「今日はお付き合い下さって、ありがとうございました」
「いや、俺様の方こそ場違いで気を使わせちまったんじゃねえか? 悪かったな」
「そんなこと、まったくありません。とても楽しい時間でした」
鈴鹿は大鋸を長く見つめているのが恥ずかしくて、視線を月に移す。
好きと明確に口には出来ない。けれど、もう少しだけ、大鋸に近づきたいとの願いをこめて鈴鹿は言う。
「あなたと眺める月はとても綺麗で……本当はずっと、見ていたいです」
「だな。俺様は月見なんざしたことなかったが、案外いいもんだ。シャンバラが平和になったら、子供たちと団子をこねて、餅搗いて、孤児院で月を見たいな!」
空に浮かぶ大きな満月を、大鋸は子供たちに向けるようないい笑顔で見上げた――。
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