First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last
リアクション
ワルツを一曲踊り終えた後。
「ありがとうございました」
誘ってくれた男性に礼を言い、董 蓮華(ただす・れんげ)はテーブル席へと下がった。
ダンスをしている人々を眺めながら、ノンアルコールワインを飲み、微笑みを浮かべる。
演奏家たちが奏でる曲と、ダンスパーティを心から楽しんでいるように。
「有名人が多い。さすがに、団長はいないが」
隣に移ってきた男性――スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)がそう言うと、蓮華は彼に目を向けて笑う。
「軍人くささは出さないように」
彼は蓮華とは対照的に、鋭い目で会場を見回していた。
「こういうことは私の方が先生できるわね」
「どこが軍人っぽいんだ? 普通にしてるが……」
「だって気配が鋭すぎるんだもの。それじゃ子供も逃げちゃうわ」
2人は一般参加者の振りをして、覆面警備をしていた。
蓮華は一般の器量の良いお嬢様になりきっていて、ダンスのお誘いも多かったが、スティンガーの元に寄ってくる客はいない。近づいてくるのは警備員ばかりだ。
「ああ、もうタイが曲がってるわよ」
蓮華はスティンガーのネクタイを直してあげる。
「蓮華は結構世話焼きタイプなんだな」
スティンガーは、気配を緩めようとするが、具体的にどうすればいいのかよく分からない。
「んー。会場には招待客の軍人も居るけど、なーんか違うってのは分るぜ。俺も、そうなんだろうなあ……。現実を突き付けられた気分だぜ」
スティンガーはため息をつき、蓮華はくすりと笑みをこぼした。
「蓮華もそうしていると普通に女の子みたいだな」
笑われた仕返しのようにスティンガーが言うと、蓮華は小さく口をとがらせて、スティンガーの脇を抓った。
「痛たたた。前言撤回。普通の女の子は同伴者の脇を抓ったりしない!」
「するわよ、それくらいのこと」
ふて腐れたように蓮華が言うと、スティンガーは悪戯気な笑みを浮かべた。
「蓮華には凶暴な所があるって団長に言ってみようかな」
「ひ、酷い……」
途端。蓮華は手を下ろして静かになる。
「おいおい本気にするなよ」
じわっと、蓮華は目に涙まで浮かべていた。
彼女は、教導団の金団長に想いを寄せている。
だから団長の名にとても弱いのだ。
この点に関して、彼女は恋をする普通の女の子、なのだ。
「分ーった、俺が悪かった。蓮華の真剣な気持ちを茶化して悪かった。このとおり、許してくれ」
スティンガーが手合わせて拝むように蓮華に謝罪する。
「絶対よ?」
「言わない言わないー」
彼の言葉に、一応安心して、ワイングラスを口に運んだ時。
「一曲、踊ってくださいませんか?」
壮年の男性が蓮華に手を差し出してきた。
「ええ、よろしくお願いします」
スティンガーに目配せをして、蓮華は立ち上がる。
スティンガーは既に、別のテーブルに移っていた。
そうして、2人は別方面から会場の覆面警備を続ける。
幸い、コンサートもパーティ中も何事も起きなかった。
2人が帰宅したのは、12月24日の夜になってから。
家に戻ってからすぐ、蓮華は思いの人――金団長にクリスマスレターを贈った。
First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last