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【2022クリスマス】聖なる時に

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第15章 1年経って

 薔薇の学舎の校長執務室。
「やっぱり今年も仕事してるー」
 去年と同じように、紙袋を手にヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は顔を出した。
「クリスマスだからって仕事がなくなるわけじゃない。過ごす家族や恋人がいない者が引き受けないとね」
 校長のルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)が、顔を上げて言った。
「で……君には、待っている家族がいるはずだが」
 デスクの上には、乱雑に本やファイルが開かれている。
「うん、ルドルフさん手伝って、仕事して来いって送り出されたよ」
 ヴィナは荷物を下ろすと、ルドルフに近づいて開きっぱなしの本にしおりを挟んで、閉じて、片付けていく。
「うちの奥さん達は出来ない奴はいらないらしいよ」
 ヴィナがそう軽口を叩くと、ルドルフはふっと笑みを浮かべた。
「それじゃ、少しだけ手伝ってくれるかな?」
「勿論、去年より俺も手際が良くなってると思うんだよね。早く終わらせよう」
「ありがとう。では、この購買部からの案件だけれど……」
 ルドルフはヴィナに書類を渡して、仕事の指示を出していく。
 去年よりも彼は、校長らしくなったなとヴィナは思う。
(だけど、1人で抱え込むところは変わってないかな。俺だけじゃなくて、皆ルドルフさんの力になりたいと思うんだけど)
 もう少し、人に頼る術をルドルフに教えられればいいなと、手伝いながらヴィナは考えていた。
 以降、2人は無駄話はせずに、集中して仕事に勤しむ。
「それが終わったら、こちらの課外活動に関する提案書を、項目ごとに整理してほしい」
 1つの作業が終わる前に、次の作業指示が飛んでくる。
 ヴィナは手際よく、正確に作業をこなしていき、ルドルフを助けていく。

「……今日はここまでにしよう」
 ルドルフがそう言って、ファイルを閉じる。
 時計を見ると、まだ夕方だ。
「去年より随分早く終わったね。仕事自体、去年より少なかったのかな?」
「そうだね。去年より学園での立場が明確になったから、事務仕事の負担は減ったかな」
「そっか。それは良かった。他にも頼っていい分野は、ちゃんと人に頼らないとね」
 ヴィナのそんな言葉に、ルドルフは「ああ」と軽く首を縦に振った。
「それじゃ、お茶にしようか。軽食もあるよ」
 テーブルを片付けると、ヴィナは持ってきた紙袋の中から、サンドイッチ、サラダ、ローストビーフが入ったパックを取り出して、テーブルの上に並べた。
「ミルクや砂糖は入れる?」
 紙コップに紅茶を注ぎながらルドルフ尋ねる。
「いや、そのままでいい」
 ルドルフはウエットティッシュを持って、テーブルについた。
「軽食にしては、凝ってるな。まさか君が……」
「ああ、大丈夫、俺は作ってないから」
 そう答えてヴィナは苦笑する。料理は苦手なのだ。
「ちゃーんと、買ってきたものだから、安心して食べていいよ」
「それなら安心していただこう」
 ルドルフが口元に笑みを浮かべる。
「あー、でもその言い方なんだか、ひどい」
「いや、奥さんが君のために作ってくれたものなら、僕が食べてしまっては申し訳ないからね」
「彼女に頼んでも、喜んで作ってくれそうだけれど。毒でも入ってないかと、ルドルフさんを心配させちゃうのかな?」
「そんなことはないよ。奥さんが君の――行動を応援してくれているという話は、聞いているからね」
 ルドルフは紅茶を飲み、料理を紙皿に乗せて食べ始める。
 少しの間、2人は沈黙した。
 ヴィナはサンドイッチを1口食べて、紅茶を飲んだ後。
「ところでさ、ルドルフさん、俺のこと友達って思ってるとはよく聞くけどさ、恋愛か友愛かはさておき、好き? 嫌い?」
 気になっていることを、聞いてみることにした。
「別にね、俺は今の状態も悪くないと思ってるんだけどね、嫌いならちょっと考えるし。信頼されてるかなーとかそっちの方が気になるし」
 軽く視線を彷徨わせた後、ルドルフを見ると、彼は手を止めてヴィナを見ていた。
「別に応えるとか応えないとか恋愛とか恋愛じゃないとか俺はあんまり気にしてないので、正直に答えてくれると嬉しいな」
 そう微笑んだヴィナに、ルドルフも小さな笑みを浮かべて。
「チョコを貰った時とも、春に出かけた時からも、気持ちは変わってないよ。今も今後も、変わらず信頼している。これからも傍にいてくれるとありがたい」
 ルドルフは暖かな声で、ヴィナに話していく。
「好きか嫌いかと言われれば、勿論好きだ。君のことをどう思っているかというと、一言で表すのは難しけれど――一番近いのは、信頼している戦友、かな」
「うん、そっか。ありがとう」
 ヴィナは微笑みを満面の笑みに変えた。
 彼は今日、物ではないクリスマスプレゼントを――ルドルフの正直な気持ちを彼の口から聞くという、望んだクリスマスプレゼントを貰ったのだった。