校長室
【2022クリスマス】聖なる時に
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第19章 想い タシガンにある、美味しい紅茶とマフィンが楽しめる専門店で、箱岩 清治(はこいわ・せいじ)はそわそわ人を待っていた。 (年末で忙しいだろうし、僕はデ……デートなんて誘える立場じゃないけど、こういうお店なら……) あの人――ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)も仕事の合間に来られるのではないかと思って。 よかったら、来てくださいと手紙を出したのだ。 (でもやっぱり無理かな。一生徒とお茶なんかしてる時間は……) 「待たせたね」 突如響いた声に、清治は飛び上がるほど驚いて、立ち上がった。 振り向けば、待っていた相手、ルドルフがそこにいた。 「ありがとう……ございます」 清治は礼を言ってルドルフに頭を下げた。 「ん? 何が、かな」 「来てくれて、ありがとうございます」 「ああ、礼を言われるようなことじゃないよ」 ルドルフは淡い笑みを見せて、清治の向かいの席に腰かけた。 「ええっと、ここの紅茶とマフィン、とっても美味しいんです。ルドルフ校長は、どの紅茶が好きですか?」 「紅茶はその日の気分で変えている。今日は……そうだね、アッサムを戴こうか」 「それじゃ、僕も」 ルドルフと清治は、紅茶とマフィンを注文した。 ほどなくして、温かな紅茶と、柔らかなマフィンが届く。 ルドルフは香りを楽しんでから紅茶を一口飲み、それからマフィンをゆっくりと味わう。 「上品な味だね。卵が良いのかな」 「素材の良さが、表れていますよね」 清治もマフィンを一口、口に入れた。 だけれど、いつものように味わう事が出来ない。 それは、目の前にルドルフがいるから――。 「あの、いくつか聞いてもいいですか?」 「答えられることなら」 「たわいないことです。好みを聞いてみたくて」 ごくんと紅茶を飲み、乾きそうな喉を潤して、清治はルドルフに尋ねていく。 今朝飲んだ紅茶は? 好きな馬の毛色は? 休日は何をしてるんですか? 問いかけ、ひとつひとつに、ルドルフはきちんと答えていく。 白馬を好んでいること。休日は読書や剣術の訓練など、自己研鑚をしているということ。 そんな彼の好みや、普段の姿、彼の言葉を聞いていく度に、清治の心が反応する。 心の中に、綺麗な花が咲くような、そんな感情が芽生えていく。 「……今日はどうして、来てくれたんですか?」 「君の手紙を読んだからだよ。それ以上の理由はない」 ルドルフは、くすっと笑みを浮かべて言葉を続ける。 「質問ばかりじゃ会話にならないよ。君の事も聞かせてほしいな、箱岩清治君」 「え? は、はい」 逆に、清治は、ルドルフに好きな馬の毛色や、紅茶の事、休日のことを尋ねられる。 自分に興味を持ってもらえたことが、凄く嬉しくて。 仮面の向こうの優しい瞳が、眩しくて直視できなくて。 そんな自分が不思議で仕方なくなっていき。 そして、清治は気付く。 (……ああ、そっか。 僕きっと、いつのまにか、目の前のこの人のこと……) ルドルフに魅かれていることに。 彼を慕っていることに。それが思慕の念であることに、気づいたのだった。