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リアクション
「良い天気ですね……」
「ええ……」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と、恋人の泉 美緒(いずみ・みお)は、寄り添ってのんびり花見を楽しんでいた。
ふわりと吹いた風が、ピンク色の花びらをひらひらと舞わせて。
花びらを見る小夜子と美緒が、ふわりと笑みを浮かべる。
(桜の木も、舞い散る桜もとても綺麗……それに、美緒が隣にいますから、幸せですわ)
小夜子が美緒に微笑みを向けると、美緒も小夜子に目を向けて微笑む。
美緒もまた、幸せそうだった。
用意してきた、桜餅とお茶を飲みながら。
ゆっくり桜を楽しんでいく小夜子と、美緒。
「そういえば、美緒は桜の花言葉を知ってる?」
言いながら、美緒を驚かせないよう自然に――小夜子は美緒の背に手を回した。
「いえ……小夜子は知っていますか?」
「ええ。『優れた美人』『純潔』『精神美』とか色々あって、美緒にはどれも合うと思いますよ」
「わたくしに?」
首をかしげる美緒に、小夜子はこくりと頷いてみせる。
「美緒は美人ですし、同性の私から見ても、十分魅力的ですもの。異性から見ればもっと魅力的でしょうね」
「まあ……それは小夜子の方こそ、ですわ」
少し赤くなって美緒は答えた。
ふふっと笑いながら。
ちょっとした悪戯心で……。
「あっ、さ、小夜子……っ」
「ふふふ、相変わらず良いスタイル……」
小夜子は美緒の胸をむにゅむにゅっと揉む。
「も、もう……」
赤くなって、上目使いで美緒は小夜子を睨む。
微笑みながら、小夜子は手を美緒のウエストに滑らせた。
ウエストはきゅっとくびれている。
「特訓の成果かな。同性ながら私も羨ましいですわ」
「やめてください」
赤くなって言いながらも、美緒は小夜子の手を振り払ったり、抵抗したりはしない。
そんな彼女はとても可愛らしくて。
もっと悪戯をしたくなってしまう小夜子だけれど。
「これ以上は、困ります……。人の目がありますし」
美緒にそう言われて、手を止めた。
「ごめんね。思わず悪戯したくなっちゃった」
小夜子はもう一方の手も美緒に伸ばして。
胸の中に誘って、優しく抱きしめて撫でた。
「美緒の豊満な肢体は美緒の特徴の一つだけれど、出会った時から変わらず初心な所もまた、美緒の特徴よね。花言葉ぴったり」
「小夜子は……出会った時には知らなかった姿を、時々見せてくださいますわね」
美緒の腕が、小夜子の背に回る。
温かな感触が心地良く、小夜子は身を委ねたくなっていく。
「そう、ね」
答えながら、不安な気持ちをも小夜子は抱いていた。
「人は成長する。美緒の今年の目標は自立だけど……。それもまた美緒の特徴の一つになるでしょうね」
そうして成長していく美緒に対して。
美緒を心の拠り所にする自分が、知らぬ間に足を引っ張ってはいかないかと、少しだけ不安で……。
小夜子は腕に少しだけ力を籠めて、美緒を包み込む。
「美緒の足を引っ張ることがないように、私は美緒を手助けしたい。美緒の幸せは私の幸せでもあるから」
「嬉しいですわ。……そして小夜子も、もっと自分のことを考えてください。だって」
美緒は少し顔を上げて、小夜子の目を見つめる。
「小夜子の幸せだと、わたくしも幸せです。だから、幸せでいてくださいね、小夜子」
自分を見つめて微笑む美緒が愛おしくて。
小夜子は彼女を強く抱きしめた。
「幸せですね」
「ええ、とても幸せです」
美しい景色の中、2人で過ごす時間は。
互いに幸せで。幸せが膨れ上がっていく。
とても大切な甘い時間だった。
(バレンタインには、種もみの塔で、百合園の方々と謎料理を学んだ弾さん)
桜の木の陰から、ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)は、パートナーの風馬 弾(ふうま・だん)を見守っている。
(女性と話すのは不得手だし、料理もできないし、老後はどうなることかと心配してましたが、デート(?)だなんて……立派に成長して……うぅ)
溜まった感動の涙をぐしぐし拭うノエル。
その桜の側に、弾はシートを敷いて、女の子と一緒に花見を楽しんでいた。
「ノエル? 何してるの。立ってないで座ったら?」
顔を上げた弾がノエルに声をかけてきた。
「そうですね。それでは私はここでお菓子を戴いています。お構いなく〜」
言ってノエルは、弾と並んで座っている女の子――アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)の後ろに腰かけた。
「お菓子、色々持ってきたんだ。アゾートさんも沢山食べてね」
てきぱきと弾はお菓子や飲み物を用意していく。
「慣れてるね、ありがと」
手際の良さに感心しながら、アゾートはジュースを受け取る。
「行事のお手伝いとか、小さいころからやってきたからね……。でも、友達とこうしてお花見に来たのは初めてで……憧れてたんだ」
そう言って弾は嬉しそうに微笑む。
「そっか。お花見、いいよね。桜とっても綺麗……」
アゾートは桜の木を眩しそうに眺める。
そんな彼女を見ながら、弾はごくりとつばを飲み込んだ。
「桜も綺麗だけれど、アゾートさんも綺……」
そこまで言ってしまい、真赤になってぶんぶん首を横に振る。
(ダメだダメだ、そんなこと言っちゃあ!)
「ん?」
「あ、えっと」
弾はジュースをごくんと飲んで、自分を落ち着かせてから話し出す。
「桜、は、日本人に古くから愛され、突然変異が多い性質から、品種改良を重ねて美しくなって、見る人の心を幸せにしてきたんだ」
「そうなんだ」
アゾートにこくんと頷いて、弾は言葉を続ける。
「錬金術の研究を重ねて創り上げられ、人々を幸せにする賢者の石。 桜って、ある意味、賢者の石のようなものかもしれない……」
「なるほどねー」
弾とアゾートは、ちょっと良い雰囲気で美しい桜の木を眺めていく。
つんつん。
桜を見つめている弾を、ノエルがつっついた。そして。
「そこで手を繋ぐチャンスです」
そう囁くと、弾の顔がまた真っ赤に染まる。
「それより先に、そこのお菓子をあーんしてあげると良いかもしれません」
「そ、そそそんなこと、で、できないよ……」
「え? 何が?」
赤くなってわたわたしている弾に、アゾートが目を向ける。
「な、なんでもないんだ。そう、ノエルがお菓子食べたいみたいで。はいどうぞー」
弾はお菓子をとると、アゾートではなく、ノエルの口に向けた。
「ありがとうございます……弾さん」
口ではお礼を言うが、首は左右に振りつつ、ノエルは菓子を手で受け取った。
(いえもしかしてこの場合、私が先に口で受け取って、その後にアゾートさんにもと提案した方が良かったでしょうか!)
もぐもぐ焼き菓子を食べながら、ノエルは一人考えていた。
「さー! パンッまつりメインイベント、借りパンッ競争始まるぜー!」
その時。大きな声が響いてきた。
「え? パンッまつり? 借りパンッ競争? パン…? あれっ? パンッ……パンツ? 借りパンツ競争……だと!?」
はたっと弾は立ち上がると、突然アゾートの前に立ちふさがった。
「アゾートさん、見ちゃだめだあ!」
そして、両手でアゾートの目を塞ぐ。
「ちょ、ちょっと……突然何? か、借りパンツ競争なんて……そんなイベントあるはずないじゃない」
「ううう、ううううっ」
弾は必死に首を左右に振っている。
パンの後の『…』や『ッ』が弾の心をあらぬ方向に惑わしていた。
目の前のアゾートをまともに見ることも出来ない。透視してしまいそうで!
いやそんな能力ないけど、なくてもイメージが頭の中に浮かんでしまうぅぅー。
「違う、違うんだ……パンッ競争なんだああっ、ぱん…ううっ」
「妄想と戦っている、可愛い弾さん」
お茶を飲みながら、ノエルはにこっと笑みを浮かべて言う。
「あ、あんなところにパン…が!」
「えっ!?」
大きく目をあけて、その方向を見る弾。
そこには、神楽崎優子が作った、美味しそうなパン…があるのみだった。
「ぱ、ん…ああうう、ダメだダメだ! パンツなんて考えちゃダメだ!!」
ぶんぶん頭を振る弾。
「もー。目をふさぐ必要があるのは、キミの方だね!」
アゾートがお手拭を広げると、弾の目を覆って縛った。
「はい、どうぞー。食べればこっちのパン…で頭がいっぱいになるよ」
くすくす笑いながら、アゾートは配られていたジャムパンを弾の口に運んだ。
「う、うん。いただきますっ」
あーんと口を上げて、弾はジャムパンを食べる。
「ああ、弾さん。アゾートさんにあーんしてもらって……とても幸せそう。成長しましたね」
その様子を見て、ノエルはほろりと涙した。
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